気候変動に関するシナリオ分析-物理的リスク

株式会社三井住友フィナンシャルグループ

業種:金融業、保険業

更新日2024年12月4日
掲載日2021年12月22日
適応分野産業・経済活動

会社概要

三井住友フィナンシャルグループは、銀行、リース、証券、クレジットカード、コンシューマーファイナンス等、幅広い事業を展開する「複合金融グループ」であるSMBCグループの持株会社であり、お客さまのセグメントごとにグループ横断的な事業戦略を立案・実行する4つの事業部門を設置するとともに、本社部門ではCxO制(注)により、グループ全体の企画・管理関連の統括者を明確化し、経営資源の共有化・全体最適な資源投入を実現している。

気候変動による影響

近年、わが国において気候変動に起因する洪水、風水害といった自然災害が頻発していることから、三井住友フィナンシャルグループのお客さまのビジネスに影響が及ぶリスクが危惧される。また、脱炭素社会へと移行する過程で、影響を受ける資産の価値が将来的に下落するリスク(座礁資産化)も危惧される。

取り組み

SMBCグループは2017年にTCFDへの賛同を表明し、2019年にはグローバル金融機関として世界で初めて気候変動シナリオ分析による物理的リスクの想定リスク量を開示した。

当社が実施する気候変動による物理的リスクのシナリオ分析は、①急性物理的リスクと②慢性物理的リスクに分類している。

① 急性物理的リスク(気候変動に起因する自然災害の概ねを占めるとされる水災)

急性物理的リスクについては、気候変動に起因する自然災害の大宗を占めるとされる水災を対象としたシナリオ分析(下表参照)を実施し、2050年までの影響を評価している。また、分析に際しては、ハザードマップや衛星分析画像等を利用している。

プロセス内容
Step1
  • 水災の業績への波及について、事業法人における担保価値の毀損、財務状況の悪化に伴う債務者区分の劣化という2つの経路から発生が見込まれる与信関係費用を試算
  • 国内においては、国土交通省が開示しているハザードマップ*1を用い、当該マップ上に所在する担保、事業法人ごとの想定浸水深を把握
  • 海外においては、Jupiter Intelligence社による衛星画像を用いたAI分析により事業法人ごとの想定浸水深を算出
  • それらの浸水深に基づき担保毀損影響、財務悪化影響を分析
Step2
  • MS&ADインターリスク総研が、東京大学、芝浦工業大学と協働で実施している気候変動による洪水リスクの評価プロジェクトの提供データ*2を活用し、IPCCが研究の基盤としているRCP2.6シナリオ・SSP1-2.6シナリオ(2°Cシナリオ)、およびRCP8.5シナリオ・SSP5-8.5シナリオ(4°Cシナリオ)それぞれにおいて、2050年までの洪水発生確率を設定
Step3
  • Step1で試算された与信関係費用に、Step2で設定した気候変動シナリオ毎の洪水発生確率を勘案し、想定される与信関係費用を算出

*1想定最大規模降雨による洪水想定区
*2Hirabayashi Y, Mahendran R, Koirala S, Konoshima L, Yamazaki D, Watanabe S, Kim H and Kanae S (2013), Global flood risk under climate change. Nat Clim Chang., 3(9), 816-821. doi:10.1038/nclimate1911.

本シナリオ分析の結果、想定される与信関係費用として、2050年にかけて累計で約670~850億円が算出された(図1)。

② 慢性物理的リスク(気候変動に伴う経済的損失のうち、影響が大きいとされる気温上昇による生産性低下)

慢性物理的リスクについても、シナリオ分析(下表参照)を実施し、2050年までの影響を評価している。

プロセス内容
Step1
  • 気候関連リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)のCurrent Policiesシナリオ(3℃シナリオ)における、気温上昇による生産性低下をはじめとした慢性的に生じるマクロ経済への影響を確認
Step2
  • 分析結果を、信用リスク影響を推定するストレステストモデルに反映させ、2050 年までに想定される与信関係費用を試算

本シナリオ分析の結果、想定される与信関係費用として、2050年までの単年度で最大300億円程度の増加が試算された(図2)。

効果/期待される効果等

新たに慢性物理的リスクに関する試算・分析を実施した結果、移行リスク・物理的リスクともに相応の財務的影響を伴う可能性があると認識している(図3)。シナリオ分析においては、リスクが顕在化するタイミングや規模について不確実性が高いことから、現時点では想定する災害や分析対象等に一定の前提を置いており、今後も分析手法の精緻化に努めていく。

分析プロセス概要(急性物理的リスク)
図1 分析プロセス概要(急性物理的リスク)
図2 分析プロセス概要(慢性物理的リスク)
気候変動に関するシナリオ分析
図3 気候変動に関するシナリオ分析

脚注
(注)グループ経営管理を一段と強化することを企図した制度であり、グループCEOである(株)三井住友フィナンシャルグループ社長をはじめ、10種類のグループCxOを選任している。
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