気候変動関連リスク・機会の分析・評価

小野薬品工業株式会社

業種:製造業

更新日2025年2月12日
掲載日2022年8月22日
適応分野産業・経済活動 / 水環境・水資源

会社概要

小野薬品工業株式会社ロゴ

小野薬品工業株式会社は、1717年(享保2年)創業の、新薬に特化した研究開発型製薬企業である。医療ニーズの高いがん、免疫、神経およびスペシャリティ領域を創薬の重点研究領域に定め、これまでの研究から培った技術やノウハウを生かした医薬品創製を進めるとともに、医療現場のアンメットメディカルニーズに即した医薬品創製にも積極的に取り組んでいる。

気候変動による影響

近年、気候変動など地球環境課題が深刻化しており、2050年の未来には、水や食料の不足、新たな疾患の増加、自然災害の甚大化による生活の基盤の破壊など、さまざまな脅威が人々の健康で健全な生活を脅かすと予想される。

取り組み

当社は、2019年10月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言への賛同を表明し、TCFD提言に基づいた気候変動によるリスクと機会の特定、財務影響額の評価、対応についての検討を開始し、毎年、対応状況の確認や対応後の影響額について見直しを行ってきた。

2023年度はサステナブル経営方針や見直した中長期環境目標を反映すべく、製薬企業にあてはまる、物理リスク(急性・慢性)と移行リスク(政策・法規制、市場、テクノロジー、評判)、機会(資源効率、エネルギー、製品とサービス、市場、レジリエンス)と社内インタビュー結果からリスクと機会の候補リストを作成し、リストから定性評価により当社と関連性が高いものを絞り、その後にリスクと機会の分析を含め、再評価を実施した(図1)。

その結果、大規模な事業転換や投資が必要な気候関連リスクは認識されなかった(図2)。但し、自然災害による製造拠点・調達品への影響、各国・地域の法規制などのリスクを継続して分析していくことが重要だと認識している。特に、4℃シナリオの物理リスク「自然災害(豪雨・台風・洪水)」については、高品質な医薬品の安定供給に影響を及ぼすリスクになりうると捉えている。引き続き、十分な在庫確保や生産・調達の複数拠点対応などBCP対策の推進を図る。

また、気候変動による感染症や呼吸器疾患等に対する治療薬が見いだされた場合は、その機会を最大限に活かし、患者さんに貢献するだけでなく、人々が健康で健全に暮らせる社会であるよう、炭素循環社会の実現に向けて取り組む(図3)。

効果/期待される効果等

特定したリスク・機会、およびその対応策、機会推進のための施策の進捗は、環境担当役員を責任者とし、社内各機能の責任者をメンバーとするTCFD-WG、および工場や研究所など各拠点の環境課題を管理・推進する部門横断の環境委員会にて引き続き管理していく。また、気候変動関連のリスクは、リスクマネジメント委員会に共有され、事業継続に影響を与えるリスクはリスクマネジメントグローバルポリシーに基づき全社的リスクとして管理していく。

シナリオの選択 ・低炭素社会に向かう1.5°Cシナリオ(RCP2.6, IEA NZE 2050およびIEA SDS)
・温暖化が進む4°Cシナリオ(RCP8.5)
※情報が不足している場合は、IEA STEPSシナリオなども参考
分析範囲 医薬品事業における、研究・開発・調達・生産・流通・販売・使用・廃棄にわたる全ての段階とし、自社工場、国内外の製造委託先およびサプライヤーの他、投資家、顧客、社員(人財採用含む)等といった幅広いステークホルダー
分析期間 短期(~3年)、中期(3~10年)、長期(10~30年)
事業への影響 大:事業活動の継続に影響
中:事業の一部に影響がある
小:ほとんど影響がない
その他 財務影響額は新中長期環境目標にける自社の温室効果ガス排出ゼロの目標年度である2035年度を想定し、事業の成長に伴い、製造量やエネルギー使用量が増加している前提を置いて算定
1.5°Cシナリオ 4°Cシナリオ
世界中で気候変動対策に関する厳しい法規制が施行され、炭素税の導入が進む。同時に、省エネルギーの推進や再生可能エネルギーに関連した技術革新が進んでいる。企業の法規制対応、気候変動対策に関する投資は増えるが、地球上の温室効果ガス排出量は一定程度に制御されている。
気温上昇が抑えられていることから、温暖化による健康への影響は軽微で、自然災害も現在より大きく増えることはない。投資家をはじめとするステークホルダーは気候変動対策や地球環境保全を重要視している。
気候変動の法規制は現行と変わらず、気温上昇が進む。企業の法規制対応の影響は小さいが、安価で品質の高い自然資本利用が難しくなる。また温暖化に伴う、豪雨・台風・洪水・水不足などの自然災害も頻発・甚大化する。さらに感染症や呼吸器疾患、熱中症などの健康被害も増加する。
図1 気候変動シナリオの選択等(上)と各シナリオ下の世界観(下)
TCFDのリスク分類 期間事業への影響 主な対応策
1.5°C 4°C
政策・法規制 炭素税導入による税負担の増加 中長
(約8億円)
省エネルギー施策と再生可能エネルギー調達の実施
排ガス規制による営業車の使用制限
(約4億円)
環境配慮車(HV車、EV車等)への移行
気候変動対策費の調達コストへの価格転嫁 中長
(炭素税の影響額は約2億円)
ビジネスパートナーとの協働によるスコープ3排出量の削減
各国・地域の法規制・排出規制への対応の遅れによる機会損失 中長 各国の規制動向の把握規制動向を反映した戦略決定と対応実施
テクノロジー 気候変動対策のための投資コストの増加 短中長
(約9億円)
運用改善など省エネルギーの推進環境関連補助金の活用
市場 再生可能エネルギーの需要競争激化による調達難 PPA導入など再エネ調達方法の拡大RE100等のイニシアチブ活動への参加を通した政策提言
評判 環境目標未達による企業価値低下 短中長 中長期環境目標達成に向けた施策推進適切な情報開示
物理リスク(急性) 自然災害(豪雨・洪水・台風など)による操業の一時中断 中長
(~100億円)
BCP対策の徹底
(十分な原薬・製品在庫の確保/複数サプライヤー体制の構築)ビジネスパートナー選定プロセスにおける、自然災害リスク確認の継続
物理リスク(慢性) 水不足による生産への影響
水不足のリスクが高い地域に自社工場および主要製品の原薬製造委託先はないため、現時点で操業の中断が起きる可能性は低い。
中長 ビジネスパートナー選定プロセスにおける水不足リスクの確認十分な原薬・製品在庫の確保
気温上昇に伴う空調設備等運用コストの増加 中長 運用改善や設備投資などの省エネルギー施策の推進
図2 気候変動関連のリスク
TCFDの機会分類 期間 事業への影響 主な対応策
1.5°C 4°C
資源効率性 効率的な電力の利用によるコスト削減 中長 運用改善や設備投資などの省エネルギー施策の推進連続生産方式などの高効率生産プロセスを通じた省資源化グリーン・サステナブル・ケミストリーの概念を考慮した創薬技術の推進共同輸送など流通プロセスの効率化
市場 省エネルギーおよび再生エネルギーに関する補助金の活用 短中長
(~5億円)
政策動向の注視と補助金の積極的な活用
自社事業 新たな健康被害に対する新製品・サービスの開発 オープンイノベーションの活用
評判 先進的な気候変動対策による企業価値の向上
(他社との差別化や従業員の雇用・定着)
短中長 積極的な省エネ・再エネ施策の推進と適切な情報開示
図3 気候変動関連の機会
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