TCFD提言及びTNFD提言に基づく情報開示

九州電力株式会社

業種:電気・ガス熱供給・水道業

更新日2025年1月9日
掲載日2022年12月12日
適応分野産業・経済活動

会社概要

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九電グループは、「ずっと先まで、明るくしたい。」をメッセージとするグループ理念「九電グループの思い」のもと、中長期に目指す姿として「経営ビジョン2030」と「カーボンニュートラルビジョン2050」を定め、「社会価値」と「経済価値」を同時創出するサステナビリティ経営を推進している。2022年4月には、その実現に向けた経営上の重要課題(マテリアリティ)を特定し、その解決に向けた取組みを具体的行動計画に落とし込むことで、着実な実践を図っている。

気候変動による影響

カーボンニュートラルの潮流は、エネルギー事業者である当グループにとって大きなターニングポイントであり、温室効果ガス(GHG)排出削減や気候変動対応を経営の重要課題(マテリアリティ)と位置付けている。

取り組み

当グループは、地球環境問題に真摯に取り組むエネルギー事業者として、2019年7月にTCFD提言への賛同を表明した。その後、リスク・機会分析とその財務影響評価を含めたシナリオ分析を進め、2020年から同提言の枠組みに基づく情報を開示している。また、2024年1月にTNFD(注1)フォーラムに参画するとともに、TNFDアーリーアダプター(注2)として早期にレポートを開示することを表明した。

当グループは、日本のNDC(注3)を上回る野心的なGHG削減目標を掲げており、2023年3月にはその目標が国内エネルギー事業者で初めてSBT(注4)イニシアチブの認定を取得した。また、生物多様性の保全や資源循環等を含む「環境負荷の低減」に向けた取組みも進めており、昨年よりTNFD提言に基づく分析を試行的に実施し、今年度は再生可能エネルギーも対象に含めたTNFD v1.0に基づく情報開示を行った。

① TCFD情報開示フレームワークを踏まえた分析と開示

シナリオ分析では、電気事業(再エネ、海外含む)とICTサービス・都市開発事業を対象に、シナリオ1.5℃ケースと4℃ケースを用いて実施した(図1、図2、図3)。
そのうちICTサービス・都市開発事業では、以下の物理リスクが判明した。

ICTサービス・都市開発事業におけるシナリオドライバー 物理リスク<急性>
台風・洪水・集中豪雨等自然災害に伴う損失の発生(被災設備の復旧費増、稼働停止による収益減)
物理リスク<慢性>
平均気温上昇に伴う空調電力コストの増加
シナリオケース 1.5℃ 4℃ 1.5℃ 4℃
発現時期 短・中・長 短・中・長 中・長 中・長
発現可能性
財務インパクト 1.5℃ケースよりも大きい 1.5℃ケースよりも大きい
[発現時期] 短期:現在~2025年度、中期:2026年度~2030年度、長期:2031年度~2050年度
[財務インパクト] 小:10億円未満、中:10~100億円、大:100億円以上  *財務インパクトのうち注釈のないものは2023年度実績を使用
[検討の前提]
1.5℃上昇ケース:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書(SSP1-1.9シナリオ)、IEA WEO 2022(Net Zero Emissions by 2050(NZE)シナリオ)、第6次エネルギー基本計画 等
4.0℃上昇ケース:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書(SSP5-8.5シナリオ) 等

② TNFD情報開示フレームワークを踏まえた開示

当社グループの事業活動と環境との関係を分析・評価するために、事業における自然資本関連の影響と依存の評価(リスクとインパクトの管理)を行うとともに、2050年の自然関連リスクについて2つの両極のシナリオ(注5、図4)を設定して現状からの変化を分析した。その上で、現状と将来のシナリオを踏まえ、自然資本関連の影響・依存(リスクと財務影響)と機会を分析・評価した。

その結果、財務に影響するリスク項目の約半数は両シナリオ共通であることが分かった(図5)。発電所の操業においては、法令や地域との協定等を遵守しており、九電グループが自然資本を棄損して九電グループの事業運営や財務に影響を及ぼすリスクを低減できている一方で、九州は地理的に台風や線状降水帯による水害リスクがあり(注6)、気候変動に伴う災害の激甚化の影響を受けるリスクがある。

効果/期待される効果等

シナリオ分析の結果については、「カーボンニュートラルの実現に向けたアクションプラン」に適切に反映の上、その着実な推進に向けて「中期ESG推進計画」を策定している。アクションプランについては、サステナビリティ推進委員会、カーボンニュートラル・環境分科会において進捗状況を確認・審議するとともに、社会情勢や技術革新の動向等を踏まえ適切に見直しを図っていく。

シナリオ 1.5℃ケースとシナリオ 4℃ケースにおける世界観
図1 シナリオ 1.5℃ケースとシナリオ 4℃ケースにおける世界観
シナリオ分析による財務インパクト[1.5℃ケース]
図2 シナリオ分析による財務インパクト[1.5℃ケース]
シナリオ分析による財務インパクト [4.0℃ケース]
図3 シナリオ分析による財務インパクト[4.0℃ケース]
現状維持シナリオとネイチャーポジティブ移行シナリオにおける世界観
図4 現状維持シナリオとネイチャーポジティブ移行シナリオにおける世界観
シナリオ分析
図5 シナリオ分析
リスクと財務影響
図6 リスクと財務影響

脚注
(注1) TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)とは、自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みを構築する国際イニシアチブのこと。
(注2) TNFD アーリーアダプターとは、2023年9月に公表された自然関連財務情報開示枠組である「TNFD開示提言」を採用し、2024年1月10日までにそれを宣言した企業のこと。(出典:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures
(注3) 日本のNDC(Nationally Determined Contribution)とは、日本国の温室効果ガスの排出削減目標のこと。(出典:環境省「日本のNDC」
(注4) SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のこと。(出典:環境省「1. SBTとは?」
(注5) 2050年をターゲットに設定した2つのシナリオ
①現状維持シナリオ-このまま社会全体として、自然資本課題・気候変動課題に現状以上には取り組まなかった社会として設定。
②ネイチャーポジティブ移行シナリオ-社会全体の機運が高まり自然資本課題・気候変動課題に十分に取り組み、ネットゼロとネイチャーポジティブが達成できている社会として設定。
(注6) 九州は東シナ海からの偏西風を直接受ける島であり、線状降水帯が発生して大雨・洪水の被害を受けることがある。また、日本の他の地域と比べて台風が上陸する頻度も高くなっている。

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