TCFDの提言に基づくシナリオ分析

富士製薬工業株式会社

業種:製造業

掲載日 2023年5月22日
適応分野 産業・経済活動

会社概要

富士製薬工業は、1965 年の設立以来、「優れた医薬品を通じて、人々の健やかな生活に貢献する」「富士製薬工業の成長は、わたしたちの成長に正比例する」を経営理念とし、人々の痛みや障害の改善・克服に役立つ医薬品の開発、製造、販売を通して社会に貢献すべく事業を展開している。女性医療領域のスペシャリティファーマとして、不妊症、妊娠・出産、避妊、月経困難症、子宮内膜症、更年期障害などの女性特有の健康課題に対する新薬およびジェネリック医薬品を数多く取り扱い、豊富な品ぞろえで幅広い年代の女性の健康をサポートし、女性医療のリーディングカンパニーを目指している。

気候変動による影響

気候変動による異常気象の深刻化・増加により、事業所や工場の被災、労働環境悪化や従業員の生産性低下といった影響が考えられる。また、海面上昇に伴う井戸水の塩水化や降雪量減少による水不足、それによる原料の調達が困難になる可能性も考えられる。

取り組み

当社は、2022年12月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言への賛同を表明した。TCFD提言に基づき、当社は気候変動関連のリスク・機会の把握を目的にシナリオ分析(図)を実施し、2030年時点で事業に影響を及ぼす可能性がある気候関連のリスクと機会による影響度を「大」「中」「小」(注1)で評価した。
認識したリスク・機会のうち、物理リスクと機会について事業への影響度が「中」以上のものを以下に記載する。

分析対象範囲:国内主要事業(女性医療、バイオシミラー(注2)、造影剤)

・リスク

リスクの種類 リスク・機会の内容 事業及び財務への影響
(財務影響、億円)
1.5℃ 4℃
急性 大雨、洪水、台風などの異常気象の深刻化・増加により、当社事業所・工場やサプライチェーンが被害を受け、コスト上昇や事業活動の中断リスク (事業所や工場の修復費用、原料調達・配送などの配送遅延など)
(最大-106.5)(注3)

(最大-106.5) (注3)
慢性 海面上昇により井戸水の元となる淡水に海水が流れ込み、淡水の入手が困難になる可能性
極端な高温による労働環境悪化、気候変動に起因して発症が増加する病気による従業員の生産性低下、欠勤率増加
気温上昇によるエネルギー使用量の増加、エネルギー効率利用のための対策費増加
気候変動により降雪量が少なくなれば地下水が減少し井戸水が使えず工業用水(上水道)を利用することとなりコスト上昇、さらには上水道を製造用水に使用するために追加の投資・コストがかかる。
海外での干ばつによる水不足のため、原料の調達が困難になる可能性(中国、ヨーロッパ等)

・機会

機会の種類 リスク・機会の内容 事業及び財務への影響
(財務影響、億円)
1.5℃ 4℃
製品と サービス 医療機関や消費者のサステナビリティ指向の増加により、サステナビリティの取り組みをしている企業の製品が選ばれやすくなる可能性
市場 気候変動により増加が懸念される疾患や気候変化による新たな市場の創出
コスト低下 (4℃シナリオ)エネルギーミックスの変化により、電力価格が低下し、製造コスト低下
0.24
(1.5℃シナリオ)脱炭素の機運により化石燃料の需要が低下し、LPGの価格が低下することで、製造コストが低下

影響度評価の結果、特に重要と判断したリスクへの対応策を進めている。

項目 事業インパクト 対応策
物理リスク 工場の浸水による売上減少・資産(在庫)価値の減少 リスク管理委員会が水害対応マニュアルを作成、水害発生時に、従業員等の生命・身体の安全確保、被害拡大防止、状況把握を目的に実施する非日常的な応急対応、平常時における準備/訓練などの活動について策定
評判リスク 異常気象に伴う輸送の遅延や品質低下による顧客評判の低下 物流拠点を分散化することで異常気象が発生した場合にも安定して製品を届けられるよう対応
物理リスク 中国、ヨーロッパ等での干ばつリスクにより、水不足が発生し原薬製造が困難となり、原薬調達が困難になる可能性 重点製品の在庫積み増し、原材料メーカーの一部多重化
物理リスク 海面上昇により井戸水の元となる淡水に海水が流れ込み/降雪量が少なくなれば地下水が減少し、地下水が使えなくなり、上水道を使用する場合、コスト上昇 リスクが生じた場合に迅速な対応ができるよう、モニタリングの実施

効果/期待される効果等

当社では、より具体的なリスクと機会への対応策を更に議論していく。また、現時点でリストアップしている項目以外のリスクと機会についても継続的に検証し、これらの活動について適切に開示していく。これらの活動および開示を通じたステークホルダーとの対話を通じて、気候関連のリスクの低減やマーケットの変化に応じた事業機会の獲得に努め、企業の持続的成長につなげていく。

シナリオ群の定義
図 シナリオ群の定義

脚注
(注1)大:当社への影響が非常に大きい
    中:当社への影響はあるが限定的
    小:当社への影響はほとんどない
(注2)バイオシミラーとは、特許が切れたバイオ医薬品(先行バイオ医薬品)とほぼ同じ有効成分が同じ量含まれる医薬品のこと。
(注3)富山工場が1回被災した場合の最大の影響金額を算出

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