TCFDフレームワークに基づく情報開示のためのシナリオ分析

※本事例は、2024 年 7 月時点の情報に基づいて公開しています。

ダイキン工業株式会社

業種:製造業

掲載日 2024年8月5日
適応分野 産業・経済活動

会社概要

ダイキン工業株式会社は、海外売上比率が8割を超えるグローバルメーカーで、グループ全従業員の8割以上が海外で働いている。「空調」と「フッ素化学」の技術を両輪に、国や地域ごとに異なる文化・価値観から生まれるニーズに応え、人と空間を健康で快適にする製品・サービスを提供している。

気候変動による影響

IEA(国際エネルギー機関)(注1)によると、空調需要は、2050年に現在の3倍以上になると予測されており、空調に伴うエネルギー規制強化や高い温室効果を有する冷媒に対する規制強化などがリスクとなり得る一方、当社グループが強みとする環境性に優れた製品・サービスを拡大する機会にもつながる。

取り組み

当社は、気候変動に起因する金融市場の不安定化リスクの低減を目的とした気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に2019年5月に賛同した。そして、気候変動が当社の事業に与えるリスク・機会についてのシナリオ分析を実施し、サステナビリティレポートやウェブサイトで2020年より情報開示を行っている。

シナリオ分析を実施するにあたり、以下のシナリオを用いた。

  • IEA Sustainable Development Scenario(注2)
  • IEA Base line Scenario, Current Policies Scenario(注3)
  • IEA The Future of Cooling(注4)
  • IEA Net Zero by 2050(注5)
  • 日本エネルギー経済研究所(IEEJ) Reference Scenario(注6)

最新のシナリオ分析の結果を以下に示す。なお、分析結果は、温度上昇の度合いに応じて、4℃シナリオ、1.5℃シナリオ、及び4℃・1.5℃両シナリオ別に整理した。

シナリオ 分析結果
政策等が現状のまま進む4℃シナリオ
  • 夏の気温が高くなることにより、生活にエアコンが必須な地域が増える。また、冬の気温が上がることにより、性能を発揮できる運転範囲が外気温およそ-20度以上であるヒートポンプ暖房の適応地域が増える。
  • 2030年にはエアコン需要台数が約2倍、さらに2050年には約3倍に拡大する。
  • OECD国での空調需要は2030年に2016年の5倍以上に高まるが、発電量は2.4倍にしかならない(世界全体では、空調需要1.9倍に対し発電量1.4倍)。
脱炭素政策による各国の規制が厳しくなる1.5℃シナリオ
  • モントリオール議定書における冷媒の使用量削減の進捗が厳しく管理され、実効が不十分と判断されれば規制強化も行われる。
  • 現在強い規制が設けられていない国でも強い省エネ政策がとられる。
4℃・1.5℃両シナリオ
  • 温度上昇が進むにつれて異常気象の激甚化・頻発化が進み、自社工場や調達先の被害などによる生産停止・遅延が発生する可能性が増える。

シナリオ分析の結果に基づき、気候変動に伴うさまざまな外部環境の変化について、その要因を「移行リスク」と「物理的リスク」に分類のうえ、財務的影響を大・中・小の3段階で評価し、重要なリスクと機会を特定した(図)。

効果/期待される効果等

シナリオ分析によって特定したリスクと機会は、戦略経営計画「FUSION」に取り組み方針や対応策として反映し、各事業部で実行している。また、特定した気候関連リスクは、当社の事業戦略に大きな影響を与えるリスクであるため、全社リスクマネジメントプロセスへも統合している。

図 気候関連リスク・機会と潜在的影響

脚注
(注1)IEA(国際エネルギー機関)とは、石油を中心とするエネルギーの安全保障を目的とするOECD(経済協力開発機構)の下部機関であり、石油消費国側の機構で、OPEC(石油輸出国機構)に対抗する目的の機関である。29か国が加盟している。
(注2)「パリ協定」で定められた目標を完全に達成するためには、どのような道筋をたどることになるかを分析した「持続可能な開発シナリオ」(資源エネルギー庁:IEAのレポートから、世界のエネルギーの“これから”を読みとく。https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/world_energy_outlook2019.html
(注3)世界各国が今の政策を何も変更せずに、現在の道をそのまま歩み続けた場合にどうなるかを示した「現行政策シナリオ」(資源エネルギー庁:IEAのレポートから、世界のエネルギーの“これから”を読みとく。https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/world_energy_outlook2019.html
(注4)2018年に発行された、将来のエアコン需要と必要電力、CO2排出量について記載された論文。(ダイキン:活動ハイライト https://www.daikin.co.jp/csr/feature2018/01
(注5)2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。(資源エネルギー庁:「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの? https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_01.html)
(注6)現在までのエネルギー・環境政策等を背景とし、これまでの趨勢的な変化が継続するシナリオ。(IEEJ Outlook 2021 https://eneken.ieej.or.jp/data/9171.pdf

出典・関連情報