TCFD最終提言に対する取組み

※本事例は、2024 年 8 月時点の情報に基づいて公開しています。

株式会社野村総合研究所

業種:学術研究、専門・技術サービス業 / 情報通信業

掲載日2024年9月30日
適応分野産業・経済活動

会社概要

野村総合研究所(NRI)グループは、コンサルティングからITソリューションまで一貫したサービス提供によって新たな社会価値を創造し、顧客の組織・ビジネス変革、ひいては社会の変革を推進する企業。課題の発見から的確な解決策にまで導く「コンサルティング機能」と、先進技術を駆使したシステム開発・運用で課題解決を実現する「ITソリューション機能」を組み合わせることで、独自のビジネスモデルを展開している。

気候変動による影響

気候変動に関する将来動向は不確実性が高いものの、その影響が顕在化しつつあり、企業に対する脱炭素に向けた要請は高まっている。NRIグループにおいては、環境目標に掲げている再生可能エネルギーへの転換や温室効果ガス(Scope1 + 2 + 3)排出量削減等への取組みが遅延した場合、あるいは気候変動に対する社会からの要請が急速に進展しその対応が遅れた場合、気候変動の物理的リスクや移行リスクの顕在化により、収益性が低下する可能性や、社会的評価に影響を与える可能性がある。

取り組み

NRIグループは、2018年7月にTCFDの最終提言に対する支持を表明し、2019年度から2021年度にかけては個別の事業におけるリスク・機会の特定や当社グループへの財務的影響についてシナリオ分析を実施した。本分析結果は、当社グループのウェブサイトを通じて情報を開示している。
2023年度においては、それらの結果も踏まえながら、改めて当社グループ事業の全体におけるリスク・機会及び財務的影響を整理した。本分析に適用するシナリオは、規制・対策強化シナリオの「1.5℃シナリオ」と、現行シナリオの「4℃シナリオ」の2種類を想定した(図1、図2)。
特定された代表的なリスク・機会の一部については、当社グループの事業全体における財務インパクトを以下のように試算している。

【個々のリスク・機会における財務インパクトの試算(2030年度時点を想定)】

分類 影響 試算値 試算の前提、リスク低減の可能性など
移行 リスク 炭素税導入による費用負担増 約10~20億円 現在の再生可能エネルギー利用量を変えないまま事業が拡大した場合の、温室効果ガスの実質排出量から税額を算定(炭素税価格はIEAのシナリオを活用)。
ただし、低炭素移行計画に基づき、2030年度に再生可能エネルギー利用率100%を達成できた場合、税額はほぼゼロに抑えられる。
移行 機会 顧客の脱炭素化への移行によるコンサルティング・ITソリューションの売上増 約60~70億円 脱炭素をテーマとしたコンサルティングは、現在の受注額から連結売上高の伸びにしたがって拡大すると仮定し、増額分の全額を計上。
また、ビジネスプラットフォーム事業について、同様に連結売上高の伸びにしたがって拡大すると仮定し、このうち増額分の1割を顧客の脱炭素化への移行に起因するものとして計上。
物理 リスク 自社の被災による事業活動の中断 約10~20億円 大規模な水害等によりデータセンター周辺のインフラ(電気・水道・通信など)が影響を受け、NRIグループのビジネスプラットフォームの運用収入が2日間得られなかった場合の、売上の減少額を算定。
ただし、首都圏のデータセンターが稼働しない場合に大阪第二データセンターをDRサイトとして活用する等、災害時にもシステムを停止させないための様々な対策や訓練を常時から行っているため、このリスクが顕在化する可能性は極めて低いと考えられる。
物理 リスク ビジネスパートナーの被災によるサプライチェーンの寸断 約20~30億円 大規模な水害等により、NRIグループがシステム開発を委託しているビジネスパートナーの1割(調達額ベース)が1ヶ月間活動できなくなる場合を想定し、プロジェクトの遅延による売上の減少額を算定。

当社グループでは、シナリオ分析の結果を踏まえ、再生可能エネルギー導入等の温室効果ガス排出量削減の取組みがカーボンプライス(炭素税等)の導入や環境配慮行動への要請拡大等によるリスクを緩和する施策となるとの認識のもと、対応を進めている。
また、当社グループが導入している環境マネジメントシステムの中で、環境全体の影響評価を行っており、温室効果ガスに関しては、当社グループの温室効果ガス排出を分析した結果、その多くがデータセンターの電力使用に起因していたことから、事業で使用する電力を省エネルギー化し、かつ再生可能エネルギーに切り替えることが、脱炭素に向けた重要な取り組みであると考えている。これらの認識のもと、当社グループが国内に保有する全てのデータセンターの電力は、全て再生可能エネルギー化した。また、オフィスにおいても、主要なオフィス電力の再生可能エネルギーへの切り替えを進めている。

効果/期待される効果等

NRIグループでは、気候関連リスク及び機会の特定、評価、対応に関しては、2018年度よりサステナビリティ推進委員会において、気候関連リスク(自然災害の激甚化などによる事業継続リスクも含む)について、外部環境やイニシアティブの状況、サービス提供部門からの情報等を勘案し、各気候関連リスクに対する施策の検討及び決定を行っている。
このようなシナリオ分析ならびに情報開示が評価され、2024年3月にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の国内株式運用を委託する機関が選ぶ「優れたTCFD開示」企業の1社に選定された。

参照したシナリオと想定内容
図1 参照したシナリオと想定内容
気候変動によるNRIグループのリスク・機会と財務影響
図2 気候変動によるNRIグループのリスク・機会と財務影響(こちらから拡大)
※表のカテゴリ欄において「移行」と記したものは主に「1.5℃シナリオ」の状況下、「物理」と記したものは主に「4℃シナリオ」の状況下におけるリスク・機会を想定。
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