インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

農業用水

農業・林業・水産業分野|農業|農業生産基盤
協力:農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究部門
水利工学研究領域・農地基盤情報研究領域     

影響の要因

降水形態の変化(大雨や無降雨・少雨)や融雪の早期化・融雪流出量の減少は、農業用水の供給に影響を及ぼす。

現在の状況と将来予測

現在、営農規模拡大や栽培品種・栽培方法の変更に伴い、農業用水の必要量や必要な時期が変化している地域がある。また水稲の高温障害対策(深水管理や作付変更)により、用水量の増加、水需要時期の変化等の事例がみられる。

農業用水取水量の季節変化
農業用水取水量の季節変化

将来、融雪時期が早期化し春期における融雪流出の利⽤可能量の減少が予測されている一方、梅雨期や台風期の洪水リスクの増加も予測されている。
2050年~2070年頃に想定される各河川の利水基準地点*での代かき期(5月)と出穂期(8月)の渇水流量を予測した研究では、代かき期の北日本(東北、北陸地域)で利用可能な水量減少が示されている。

2050年~2070年頃に予測される各河川の利水基準地点での代かき期(5月)と出穂期(8月)の渇水流量(1981~2000年に対する変化)
2050年~2070年頃に予測される各河川の利水基準地点
での代かき期(5月)と出穂期(8月)の渇水流量
(1981~2000年に対する変化)
出典:Kudo, R. et al.(2017)、吉田他(2020)

適応策

農業構造や農業生産の変化(高温障害対策を含む)に伴う用水需要の変化(時期・量)を踏まえ、各地域の状況に応じて、流域全体で需要・供給双方に配慮した水利用の計画を進め、その中で既存施設間の連携や統合等による水源の有効活用を図る(ソフト対策)。引き込まれた用水はICTや地下かんがいなど新しい技術を導入して節減し、効率的な農業用水の利活用を進める事が考えられる(ハード対策)。

分類
既存水源の有効活用(ソフト対策)
用水量の節減(ハード対策)
方法
[ 水需要変化への対応と水利用計画 ]

農業構造の変化(担い手への農地利用集積の進展)や農業生産の変化(①水稲作期の変化、②直播栽培の導入、③新規需要米の導入、④高温障害対策等)により、取水時期や期間、用水需要量が変化してきている(例:①早生品種作付増加による代かき期の前倒し、②直播栽培(水田に種子を直接播く方法)の導入拡大によるかんがい期間の延長や単位用水量の増大、③飼料用米等の導入による代かき期や落水期の後ろ倒し、④晩生品種の作付によるかんがい期間の後ろ倒し、浸水管理や潅水期間延長による用水量増加)。このような農業用水の必要量や必要な時期の変化は地域毎に様々である事から、今後の気候変動(降水や融雪の変動)による影響も考慮しながら、河川流域全体の水需要側と供給側の双方を考慮した運用や連携、水利用の計画を立てる事が重要となる。

[ 水利施設間での連携・統合管理 ]

将来融雪時期の早期化が予測され、農業などの水の需要期に十分な量の水を供給できない可能性が指摘されているため、融雪水が重要な水資源となる地域では、農業用ダムの役割の重要性が増すことが想定される。北海道で行われた研究では、水利施設間の連携による水管理検討の重要性(水利施設が近傍にあっても流域の標高が異なる貯水施設・取水施設では温暖化で生じる渇水の程度は異なる)や、ダムの統合管理の有効性が示されており、「積雪寒冷地の農業用水管理における温暖化対応マニュアル(案)」が作成されている(中村他2015)。

[ ICTを用いたほ場配水/用水管理システム ]

ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用し、遠方から水管理状況をモニタリングし、それに基づいてかんがいや排水を遠隔かつ自動で制御するほ場配水・用水管理システムで、現在実用化に向けた研究・実証が進められている。本システムの活用により、用水供給量を必要最小限に抑えることができ、渇水の増加による用水不足の影響を回避、軽減できる可能性がある。また、飽水・保水管理、夜間・早朝かんがい等、水稲の高温障害への適応技術として効果が確認されている用水管理の自動化が可能となる。(以上農林水産省 2019より引用)

[ 地下かんがいシステムの活用 ]

地下かんがいシステムは、従来は排水にしか用いられなかった暗渠管をかんがいにも利用することで、湿害と干ばつ害を回避し、安定的な作物栽培が可能となるシステムである。

①システム導入時に弾丸暗渠を施工することで排水性が向上し、大雨や短時間強雨の増加に対して、湿害発生を軽減できる可能性がある。

②根圏の温度を下げることで、水稲の生育促進が期待でき、高温障害を軽減できる可能性がある。

③もともと蒸発を抑えた節水型のシステムだが、ICT との組み合わせでさらにきめ細かな水管理を 行い、用水を有効に利用できる可能性がある。

④海面水位の上昇による塩害が懸念される地域では、地中かんがいにより、根圏の塩分を効率的に排除できる可能性がある。(以上農林水産省 2019より引用)

コスト
低~中(水需要変化への対応、水利施設間での連携・統合管理)
高(ICTの導入、地下かんがいシステムの導入)
所要時間
~長期(農業構造や生産変化に対応し、長期的に取組む必要がある)
現在~(既に導入が始まっており、今後普及が想定される)

適応策の進め方

【現時点の考え方】
1962年以降に観測された日本の年最深積雪には、日本海側の各地域とも有意な減少傾向が見られる(文部科学省 気象庁 2020)。農業生産基盤に影響を与える降水量については、多雨年と渇水年の変動の幅が大きくなっているとともに、短期間にまとめて雨が強く降ることが多くなる傾向が見られる。また、高温による水稲の品質低下等への対応として、田植え時期や用水管理の変更等、水資源の利用方法に影響が見られる。(以上農林水産省 2018 より引用)

【気候変動を考慮した考え方・準備・計画】
将来予測される気温の上昇、融雪流出量の減少等の影響を踏まえ、用水管理の自動化や用水路のパイプライン化等による用水量の節減、ため池・農業用ダムの運用変更による既存水源の有効活用を図るなど、ハード・ソフト対策を適切に組み合わせ、効率的な農業用水の確保・利活用等を推進する。(農林水産省2018より引用)

2022年3月初版

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