インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

病害虫

農業・林業・水産業分野 |農業 | 病害虫・雑草
協力:農業・食品産業技術総合研究機構    
植物防疫研究部門 基盤防除技術研究領域

影響の要因

気温の上昇は、害虫の分布域や年間世代数、発生量、発生盛日、海外から飛来する害虫の種類と数に影響を及ぼす可能性がある。また病害の発生地域や発生量にも影響する可能性がある。

現在の状況と将来予測

現在、気温の上昇による害虫の分布の北上・拡大、発生量の増加、越冬の可能性が報告・指摘されている。また、病害も温暖化により発生地域が北上している事例が報告されている。

越冬可能確率
ミナミアオカメムシ越冬可能地域予測モデルによる予測図の例(2015年)
出典:西野他(2016)

将来、複数の害虫において、越冬可能地域や生息適地の北上・拡大、発生世代数の増加による被害の増大の可能性が指摘されている。病害についてはイネ紋枯病の発生リスクが増加する事を示した研究事例がある。

フタテンチビヨコバイの分布とワラビー萎縮症の被害発生地域の予測図

適応策*

病害虫の発生しにくい環境を整え(予防的措置)、発生予察情報の把握により防除の要否やタイミングを適切に判断し、防除が必要と判断された場合には、様々な防除手段の中から適切な手段を選択する等、既に実施されている病害虫対策の継続・向上により気候変動影響に対応する事が考えられる。

*ここでは全体的な考え方を示しており、各項目での病害虫に対する適応策については項目ごとのインフォグラフィックを参照下さい。

分類
予防的措置
  • 輸入検疫
  • 抵抗性品種の開発・普及/生産条件の整備
発生予察
  • 発生状況等の調査・発生予察
    巡回調査/水田すくい取り調査/フェロモントラップ/予察灯
  • 発生予察情報の発信と活用
    病害虫防除所
防除
  • 生物的防除

    土着天敵等の活用

    土着天敵等の活用
  • 物理的防除
    粘着トラップ
  • 化学的防除

    化学薬剤の施用量の低減を図る技術の導入等

    ドローンによる農薬散布
分類
予防的措置
発生予察
防除
方法
[ 輸入検疫 ]

気候変動等を背景として、諸外国で病害虫の発生地域が拡大し、日本においても近隣諸国からの人・モノの移動が増加(植物防疫の在り方に関する検討会 2021)している。全国の海港や空港で輸入検疫が行われているが、更なる強化策として、①植物以外の物品を介した病害虫の侵入に対するより実効性の高い検査、②訪日外国人の増加に対応したより実効性の高い携帯品検査、③海外における病害虫の侵入リスクの増大に対応した情報収集等の強化、の必要性が指摘されている(植物防疫の在り方に関する検討会 2021)。

[ 抵抗性品種の開発・普及 ]

病害虫抵抗性の付与も重要な育種目標の一つに位置付けられており、実用場面においても様々なレベルの品種が開発され導入されている。特に近年においては遺伝子解析技術の進歩によるゲノム情報の整備、病害虫抵抗性遺伝子の特定や検定方法の開発、DNA マーカー選抜の確立等、新しい技術開発が進められており、病害虫抵抗性品種開発のスピードアップが期待(以上、日本植物防疫協会 2015より引用)されている。

[ 生産条件の整備 ]

土づくり、輪作、作物残渣の除去、健全な種苗の使用をはじめとする「 病害虫が発生しにくい生産条件の整備 」(植物防疫の在り方に関する検討会 2021)を基本として平時より実施する。

病害虫の発生状況、気象、作物の生育状況等の調査を実施し、その後の病害虫の発生を予測し、それに基づく情報を農業関係者に提供する発生予察事業が行われている。

[ 発生状況等の調査・発生予察 ]

調査は各都道府県に設置された病害虫防除所により実施され、これらの調査等を基に都道府県から発生予察情報(注意報や警報)が発表されている。病害虫発生動向調査をより充実化させて迅速に情報提供を行う為に、発生初期に防除を行えば十分な効果が得られる病害虫について、病害虫発生情報の収集や集計・発信を効率化するアプリケーションを作成し、従来の防除所職員による病害虫発生動向調査結果のみでなく、生産者等が発信する広域な病害虫発生情報等を活用することにより、病害虫防除の判断に要する情報に基づいた適時適切な病害虫防除を可能とするシステム(農研機構中央農業研究センター2019より引用)の開発が行われている。

[ 発生予察情報の発信と活用 ]

発生予察情報は都道府県のHPなど様々な媒体を通じて農業者に発信されており、上記アプリによる発信の取組等も行われている。今後、病害虫が急激にまん延する緊急的な場合に、どのように情報を伝達し、誰が防除を担うかなどについての話し合いの場の設置や防除組織の育成など地域ぐるみの防除体制の整備について検討を進める必要がある(植物防疫の在り方に関する検討会 2021)との指摘もされている。

環境への負荷を軽減しつつ病害虫の発生を抑制し、また薬剤抵抗性害虫の増加傾向への対応を踏まえ、総合的病害虫・雑草管理(IPM)*の導入が進められている。

*予め病害虫・雑草の発生しにくい環境を整え、病害虫の発生状況に応じて、農薬(化 学的防除)や天敵(生物的防除)、粘着板(物理的防除)等の防除方法を適切に組み 合わせる防除体系

[ 生物的防除 ]

施設栽培では、農薬登録された天敵製剤の利用が徐々に普及してきている。露地においても土着天敵を活用する技術が開発されており、普及が行われている。(以上農研機構中央農業研究センター2016)

[ 物理的防除 ]

病原菌や害虫を生存に不適切な条件にして殺滅させる方法や、各種資材で作物を覆って病害虫との直接的な接触を遮断したり、色彩や光などを活用して行動をコントロールしてやるなど、一般的に機械や器具を利用して病気や害虫を制御する方法(茨城県 参照2021年7月19日より引用)が行われている。

[ 化学的防除 ]

化学薬剤の施用量の低減を図る技術(ドローンやAI等のスマート防除等)や飛散の低減を図る技術(拡散しにくい散布ノズル等)の普及が行われている。また薬剤抵抗性害虫への対策として、抵抗性の発達程度に応じた薬剤使用基準を提示したガイドライン案が作成されている(農研機構2019)。

コスト
低(生産条件の整備)~高(品種開発)
中~高(新技術の開発)
所要期間
現在(輸入検疫・生産条件の整備)
~長期(新規抵抗性品種の開発には時間を要する)
現在~(発生予察は既に実施されており、
引き続き重要性が高い)
現在~(防除も既に実施されており、
引き続き新たな技術開発・導入が進められる)

適応策の進め方

【国内で発生している病害虫】
指定有害動植物を対象とした発生予察事業を引き続き実施し、発生状況や被害状況等の変化を調査するとともに、適時適切な病害虫防除のために情報発信を行う。さらに、気候変動に応じて、発生予察の指定有害動植物の見直しや、気候変動に対応した病害虫防除体系の確立に取り組む。

【国内で未発生、もしくは一部のみで発生している重要病害虫】
海外からの侵入を防止するための輸入検疫、国内でのまん延を防ぐための国内検疫、侵入警戒調査及び侵入病害虫の防除を引き続き実施するとともに、国内外の情報に基づいた病害虫のリスク評価も進める。さらに、病害虫のリスクの検証・評価、及びその結果に基づいた検疫措置の検討に取り組む。

【国内で既に発生している重要病害虫】
侵入警戒調査の精度向上や、防除技術の高度化等に向けた技術開発に順次取り組む。長距離移動性害虫については、海外からの飛来状況(飛来時期や飛来量)の変動把握技術や、国内における分布域変動(越冬可能域の北上や発生・移動の早期化)の将来予測技術の確立に取り組む。(以上農林水産省2018より引用)

2022年3月初版

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