インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

農業・林業・水産業分野|農業|麦、大豆、飼料作物等
協力:農業・食品産業技術総合研究機構
果樹茶業研究部門 茶業研究領域

影響の要因

気温の上昇や降水量の変化は、茶の収量や品質等へ影響をもたらす可能性がある。

現在の状況と将来予測

現在、夏季の高温・少雨による二番茶・三番茶の生育抑制、暖冬による冬芽の再萌芽・一番茶萌芽の遅延などの生育障害が報告されている。

(左)霜害による新芽の被害、(右)干ばつによる被害

将来、静岡県を含む関東地域で一番茶摘採期の早期化に伴い凍霜害発生リスクの高い時期が早まる可能性が示されている。また、南西諸島全域では、秋冬季における低温遭遇時間の不足により2060年代には一番茶(品種:やぶきた)の減収が顕在化することが推定されている。

50年後に一番茶減収が顕在化する地域
50年後に一番茶減収が顕在化する地域
出典:岡本(2014)

また、茶の害虫の越冬可能地域の北上・拡大や年間世代数の増加による被害増大、病害の分布域の拡大・北上や発生期間の拡大により被害が増大する可能性が指摘されている。

適応策

管理方法の継続・改善により生育抑制・障害や凍霜害、病害虫被害への対策を行いながら、長期的には高温適応性品種の導入等を検討し、長期的な茶業継続を図る。南西地域から影響がより顕在化すると考えられる事から、南西地域の知見を他地域で共有し、影響の軽減を行うことが望ましい。

影響
茶葉の生育抑制・生育障害、凍霜害
影響がより悪化
収量の減少
病害虫被害の増加
分類
管理方法の改善
  • 少雨対策

    スプリンクラーによるかん水、
    マルチ等による土壌水分蒸発抑制

    スプリンクラー 幼木園でのマルチ(例:敷草)
  • 凍霜害対策
    防霜ファンシステム
他品種の導入・茶種の転換
  • 高温適応性品種等の導入

    高温適応性品種

    そうふう

    複合病害虫抵抗性品種

    なんめい
  • 紅茶生産
病害虫対策
  • 発生予察の改善

    病害虫発生予察調査

    病害虫発生予察調査

    クワシロカイガラムシによる被害

    クワシロカイガラムシによる被害
  • 防除と産業の両立
    農薬使用量の削減努力
分類
管理方法の改善
他品種の導入・茶種の転換
病害虫対策
方法
[ 少雨対策 ]

①かん水
少雨による茶葉の生育抑制等を防ぐため、スプリンクラー等の施設によりかん水を行う事が望ましい。三番茶芽生育期の干ばつが、一番茶に及ぼす影響が最も大きいとの報告(中野他 2017)もある事から、三番茶芽生育期(主に7月)は重点的にかん水する。

②土壌水分の蒸発抑止
茶園にマルチ(プラスチック資材や敷草等)を敷設し土壌水分の蒸発を抑止する。改植・新植後間もない幼木園や、台切りや中切り等の剪定を行った茶園においては、少雨の影響を受けやすいと考えられることから、かん水も含めた少雨対策はこれらの茶園を優先して実施する(農林水産省2017)。

[ 凍霜害対策 ]

気温上昇に伴う耐凍性確保の遅れや、萌芽期・摘採期の早期化に対応する為、従前より長期に凍霜害対策を行う。防霜ファン*が広く普及しており、節電型(気温差制御)のファンも開発されている。一番茶の霜害は、茶業経営上最も大きいダメージを被る為、万全の回避対策が行われている。

*上空の温かい空気を下方に吹き下ろすことで空気を撹拌し、樹冠面の気温を  高めることにより防霜を図る(奈良県 2022年4月18日参照)

秋冬期の低温期間が休眠覚醒の必要期間(10℃以下の温度域に6週間以上遭遇)より短くなると、一番茶が正常に生育できず減収する事が示されており、一部顕在化している地域もみられる(岡本他 2016)。高温への適応性が高くなく、最も栽培面積が広いやぶきた以外の品種を選択する事が今後考えられる。

[ 高温適応性品種等の導入 ]

減収顕在化地域では、高温適応性が中(さえみどり、あさつゆ、ゆたかみどり、べにふうき、べにほまれ等)~高(静−印雑131、そうふう、くりたわせ等)へ植え替える事で影響を軽減できると考えられる。また、複合病害虫抵抗性品種(なんめい)を選ぶことで病害虫対策を兼ねる事もできる。茶樹は定植から茶葉が摘採可能となるまでには6~8年要する(農林水産省2016)と言われている事から、計画的な導入が望ましい。また、やぶきたから早晩性の異なる上記品種へ段階的に植え替えを行う事で、摘採時期の分散や、高温適応性品種による収量増加の効果も考えられる。

[ 紅茶生産 ]

上記の高温適応性が中~高の茶樹から紅茶を生産・販売している地域も複数みられ、沖縄県等では技術開発や生産者への技術指導等が行われている。

主要な病害は炭疽病、輪斑病、もち病、赤焼病、褐色円星病等で、主要害虫が10種類程度(農研機構 参照2021年2月16日)と言われており、現時点でも病害虫の発生時期に合わせた適期防除が行われているが、気候変動に対しては、特に影響が先に現れる南西地域の知見を他地域と共有する事が有効であると考えられる。

[ 発生予察の改善 ]

現在、地方公共団体のホームページ等から病害虫の発生予察情報が発信されているが、気象変動に伴い発生時期が変動して防除適期の見極めが難しくなる事が想定されることから、病害虫発生の変化を踏まえた予察情報の改善が考えられる。

[ 防除と産業の両立 ]

病害虫防除では多くの化学農薬が使用されているが、環境への負荷軽減や、海外への輸出拡大を図る中での輸出相手国の残留農薬基準値対応等が求められている。気候変動により発生予察の重要性が増しており、その情報を活用しながらIPM**による化学農薬使用量の削減努力を実施することが考えられる。

**総合的病害虫・雑草管理。予め病害虫・雑草の発生しにくい環境を整え、病害虫の発生状況に応じて、天敵や粘着板等の防除方法を適切に組  み合わせ、環境への負荷を軽減しつつ、病害虫の発生を抑制する防除  体系(農林水産省 参照2021年2月16日)。

凍霜害対策:越冬期~春先、少雨対策:主に夏季

定植から摘採までの期間(6~8年)を考慮し適期に対策

通年

時期

*摘採回数や管理方法等は地域によって異なる。病害虫対策は通年を通じて適期に実施。

コスト
低~中
***
低~中
所要期間
現在~
短期~中期
現在~

***茶樹は植栽から30~50年で植え替えを行うが、そのタイミングで高温耐性品種に植え替える場合、通常の営農の範囲となる為「低」となる。

適応策の進め方

【現時点の考え方】
省電力防霜ファンシステム等による防霜技術の導入等の凍霜害対策を推進する。また、干ばつ対策として、敷草等による土壌水分蒸発抑制やかん水の実施、病害虫対策として、病害虫に抵抗性を有する品種への改植等を推進する。(以上農林水産省 2021より引用)

【気候変動を考慮した考え方・準備・計画】
生産性低下の問題を克服するには、今後も最善策の模索を継続する必要がある。①「さえみどり」の品質と「静-印雑131」の生態特性を兼ね備えた品種の育成、②紅茶生産への転換を支援する技術開発が望まれる。(以上平松他 2016より引用)

2022年4月改訂

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