- インフォグラフィック
- イラストで分かりやすい適応策
産地の拡大
影響の要因
果樹は気候への適応性が非常に低い作物であり、気温の上昇は栽培適地の変化をもたらす。
現在の状況と将来予測
現在、果樹の栽培が難しかった寒地で、果樹の栽培適地が拡大しつつある。北海道では、気温上昇によりワイン用ブドウの栽培適域が拡大し、全国でも有数の栽培面積となっている。
将来、寒地における果樹の栽培適地が更に拡大することが予測されている。北海道では標高の低い地域でワイン用ブドウの栽培適地が更に広がる可能性がある。また、熱帯・亜熱帯果樹も適地を広げる可能性がある。亜熱帯性カンキツ類の中で日本で最も生産量の多いタンカンの現在の適地は少ないが、気温上昇に伴い栽培適地が増加すると予測されている(右図参照)。
適応策
果樹の栽培適地の北上に伴い、長期的視野に立って各地域に適した果樹の導入(寒地:温帯果樹、暖地:熱帯・亜熱帯果樹等)を進める。産地形成に向け、研究機関・行政・生産者・企業が一体となり地域ブランド化等を推進していく事も重要となる。
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寒地における温帯果樹の産地形成
■導入品目のスクリーニング -
■栽培適地の選定
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■栽培・利用技術開発
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温暖な地域における熱帯・亜熱帯果樹の導入検討
■温度管理加温施設による低温対策
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■地域に適した品種の導入・育成
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■栽培技術の開発
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地域ブランド化のため様々な工夫
■技術指導等の支援生産量拡大、高品質化を目指した技術指導
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■新たな加工品の開発
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■ブランド化のための発信
現在の気象条件(メッシュ農業気象データ等の活用)や、将来の栽培適地マップ等の研究成果、市場性等を考慮し、新規導入する温帯果樹の候補を選定する。研究機関等の農場において、選定した複数種の試験栽培を行い、耐寒性(越冬可否)、生育状況、果実の品質等から総合的に判断し、導入品目を選定する。先駆的な農家が独自に試験栽培を開始する場合もみられる。
上記で選定した品目について、都道府県内で現地適応性試験を行い、栽培適地を選定する。また産地の意向も反映する。
現地適応性試験により適応性の高さが確認できた地域において、栽培・利用技術の開発を進める。導入初期は栽培の不安定化が予測されるため、安定的に栽培可能な栽培法を確立する必要がある。また、その収穫物については、生果実用だけでなく、加工素材としての利用可能性を検討する等、幅広い観点からの利用技術の開発を行う。
多くの熱帯・亜熱帯果樹は、病害虫侵入防止のため主産地からの輸入が禁止されており、また温帯果樹の種類の少ない6~9月の収穫が多い事から、市場にとっても有意義という見方もされている(緒方2020) 。
現時点で沖縄県等亜熱帯地域以外の日本で露地栽培が可能なのは一部の種(ドラゴンフルーツ、アボカド、レイシ、パッションフルーツ(毎年植え替え)、青パパイヤ)となっており、多くの場合は施設栽培が必要となっている。冬季等の低温時には、栽培種に適した生育環境となるよう加温が行われている。
日本における栽培条件は、熱帯地域の熱帯果樹栽培環境と異なり、最低気温が低い一方最高気温が高く、梅雨時期は雨が多く日照時間が短い、台風襲来が多い等、地域の気候条件と果樹の特性を踏まえた品種の導入が必要となる。
熱帯・亜熱帯果樹の栽培技術については、地域戦略(亜熱帯果樹)コンソーシアム(アボカド及びパッションフルーツ、露地栽培・施設栽培両方)や、都道府県の農業試験場(マンゴーの低樹高化技術等)など様々な研究開発が進められており、知見が増えつつある。
地域ブランド化を目指す品種の普及・啓発や、栽培技術の支援等(技術指導の徹底、新技術の導入等)を進め、栽培面積や生産量の拡大、品質化に繋げている地域(鹿児島県のパッションフルーツ、宮崎県のマンゴー・ライチ等)がみられる。
生果実用と共に、新たな加工品の作出も行い、幅広い利用拡大を目指す。研究機関と連携し、導入した新品種の加工適正等について研究を進め、企業等と連携し加工品の試作、商品化、販売等、官民一体となって産地形成を行っている地域(愛媛県宇和島市等)もみられる。
生産・加工品開発に加え、それらを消費者や市場へPRし、販売活動にも力を入れる事で地域ブランド化を進める。地域ブランドを核とした地域の魅力向上に繋げている地域(北海道空知のワインを核とした取り組み等)も複数みられる。
既存園地を樹種転換する場合、栽培方法の知見取得も必要な為、同樹種への改植よりコストを要する。
- アボカド(暖地、露地栽培):10a当たり収量600kg、単価1000円/kg、労働 時間182時間、所得214,565円
- パッションフルーツ(西南暖地、露地栽培):10a当たり収量1,200kg(×商品 化率80%)、単価1,500円/kg、労働時間627時間、所得1,167,408円
(地域戦略(亜 熱帯果樹)コンソーシアム(2019))
適応策の進め方
【現時点の考え方】
温暖化の進展により、りんご等において、栽培に有利な温度帯が北上した場合、新たな地域において、産地形成することが可能になると考えられる。このような新たな産地形成に際しては、低コスト省力化園地整備等を推進する。(以上農林水産省2021より引用)
【気候変動を考慮した考え方】
気候変動により温暖化が進んだ場合、亜熱帯・熱帯果樹の施設栽培が可能な地域が拡大するものと予想されることから、高付加価値な亜熱帯・熱帯果樹(アテモヤ、アボカド、マンゴー、ライチ等)の導入実証に取り組み、産地の選択により、既存果樹からの転換等を推進する(農林水産省2021より引用)。
【気候変動を考慮した準備・計画】
果樹は永年性作物であり、結果するまでに一定期間を要すること、また、需給バランスの崩れから価格の変動を招きやすいことから、他の作物にも増して、長期的視野に立って対策を講じていくことが不可欠である。したがって、産地において、温暖化の影響やその適応策等の情報の共有化や行動計画の検討等が的確に行われるよう、主要産地や主要県との間のネットワーク体制の整備を行う必要がある。(以上農林水産省2021より引用)