インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

花き

農業・林業・水産業分野|農業|野菜等
協力:農業・食品産業技術総合研究機構     
野菜花き研究部門施設生産システム研究領域

影響の要因

気温の上昇は開花の前進・遅延や生育不良・障害を生じさせ、出荷時期の変化や収量・品質の低下をもたらす。また、害虫の発生世代数の増加による被害の増大も指摘されている。

現在の状況と将来予測

現在、複数品目の花きで高温による生育不良や花の奇形・発色不良による品質低下、開花期の前進あるいは遅延による適時出荷ができなくなっている。また、西日本では、花きも食害するオオタバコガについて、発生地域の拡大と温暖化との関係が指摘されている。

オオタバコガの幼虫

将来予測の事例として、スイートピーハウス栽培において、21 世紀末に、最高気温や最低気温の上昇等による落蕾発生率の上昇、最低気温の上昇による波打ち発生率の低下、気温等の上昇による花梗長の減少が予測されている。

月別平均落蕾発生率の予測結果(MIROC5、ハウス1)
出典:環境省(2020)

適応策

花きは品目が多く、各産地で従来から品質向上への取組が行われている。その一つとして、高温対策となる生産技術も引き続き取り入れながら、高温栽培適性のある品種の導入・開発や病害虫対策を進め、花き生産の継続に繋げる事が考えられる。

分類
生産技術の開発・導入
  • 施設栽培
    換気
  • 遮光
    遮光資材による高温対策
  • 冷房の工夫
    ドライミスト ヒートポンプ
高温栽培適性のある品種の導入・品種開発
  • 高温栽培適性のある品種の導入
    露地栽培

    高温開花遅延程度の小さい品種の導入+電照栽培

    夏秋小ギク
  • 耐暑性品種の導入+遮光被覆資材

    リンドウ
  • 新品種開発

    高温栽培適性等を有する新品種の開発

病害虫対策
  • 病害虫の防除
    オオタバコガ発生予察調査
  • 病害虫の防除
    防蛾灯
分類
生産技術の開発・導入
高温栽培適性のある品種の導入・開発
病害虫の防止
方法
施設・露地栽培共通:

露地、施設栽培とも高温が続くと乾燥しやすいので、十分にかん水をする。

施設栽培
[ 換気 ]

施設の換気を十分に行い、日中の気温上昇を極力抑える。自然換気では一般的にはサイド開放による肩換気よりも天窓換気のほうが換気率が高く、効果的となる(新潟県2021 年 2 月 1 日更新)。外気温より気温が下げられない為、コスト・品質等を鑑みて冷房導入をする事も考えられる(下記参照)。

[ 遮光 ]

寒冷紗の展張や石灰乳のガラス面塗布等による遮光が行われている。遮光資材はその遮光率に応じて赤外線だけでなく光合成有効放射を含む可視光も遮ることになるため、過度の遮光による軟弱徒長には注意が必要である(新潟県 2021年2月1日更新)。

[ 冷房の工夫 ]

①ミスト散水(昼間):気化冷却法(水の気化熱を利用して園芸施設の室温を降下さ せる)のうち、ドライミスト(超微粒ミスト)の効率的利用技術の開発が進められ ており、バラ(愛知県2012)やユリ(新潟県2021)などで技術開発が行われている。

②ヒートポンプ(夜間):加温用に導入が進んでいるヒートポンプの冷房機能を利用 した夜間冷房の取組が行われている。コストにも考慮した短時間夜間冷房の効果に 関する研究も行われており、品目よって異なるが,日の入り後から4時間,ある いは日の出前4時間の短時間冷房は,終夜冷房と同等の高温障害回避効果のある 事が示されている(広島県立総合技術研究所農業技術センター他(2015)。

露地栽培
[ 高温栽培適性のある品種の導入 ]

高温栽培適性を有する品種の導入と、生産技術の開発・導入の両面により、適応策が進められている。

事例①夏秋小ギク:キクは花き産出額1位(農林水産省2021)で全国的に生産されており露地栽培が多いが、気候変動の影響で開花期の変動が大きくなり、大需要期(盆や秋彼岸)に計画的に出荷できない事例が発生している。そこで、露地電照栽培による開花調節に適した日長反応性をもつ夏秋小ギク品種を選抜し、生産地域での自然開花期および作型ごとの電照終了からの到花日数の情報に基づき電照処理を行うことで、計画的な切り花生産を行う技術が開発されている(住友他2017)。

事例②リンドウ:盆・彼岸時期などリンドウの最需要期に出荷可能な耐暑性品種の導入の為の品種選定が行われ、現場への導入が進められている(山口県農林総合技術センター2021年7月6日確認)

[ 新品種の開発 ]

耐病性、高温耐性、日持ち性等、従来の品種にない優れた機能や形質(農林水産省2020)を有する新品種育成が進められている。耐暑性に優れ、開花遅れや生育障害が少ないスプレーギク(愛知県2021)や、耐暑性を有するカーネーションの研究開発が進められている(長崎県2018)。海外では、バラのガーデン用品種を中心に,耐病性を重視した品種育成や,樹勢が強く病気にかかっても回復しやすい品種の開発(小野崎2015)が進められている。

[ 病害虫の予防 ]

都道府県等の関係機関より出される病害虫の発生予察情報や天候の推移等確認すると共に、注意深くほ場観察を行い、適期の病害虫防除に繋げる取組が行われている。

[ 病害虫の防除 ]

薬剤散布による防除と平行し、予め病害虫・雑草の発生しにくい環境を整え(輪作、抵抗性品種導入等)、病害虫の発生状況に応じて、天敵(生物的防除)や粘着板(物理的防除)等の防除方法を適切に組み合わせ、環境への負荷を軽減しつつ、病害虫の発生を抑制する防除体系(農林水産省 参照2021年7月6日)である総合的病害虫・雑草管理(IPM)の導入が進められており、マニュアル(栃木県2015)等も整備されている。オオタバコガでは物理的防除(防虫ネット等)や夜間の連続点灯(緑や黄等の光照射)による活動抑制等の対策が行われている。

時期

夏期(暑熱対策としての遮光や冷房)

-

通年

コスト

・ヒートポンプ導入費用は、10aの温室で170~280万円
(但し、冬季暖房と併用)(静岡県2010)

・遮光資材は、約1,000円/m(農林水産省2020)

事例①夏秋小ギク(電照栽培、種苗費含む):
経営費は8月作型で795,400円/10a、9月作型で845,900円/10a
(地域再生花き生産コンソーシアム(2018))

所要期間
現在~(既に対策が行われ、今後も継続される)
中・長期(他品種の導入は数年以上かけて行われる、
新品種の開発はおおよそ10年以上)
現在~(既に対策が行われ、
今後も継続される)

適応策の進め方

花きでは、高温対策として、適切なかん水の実施等を推進しているほか、高温条件に適応する品種の普及に取り組む。施設野菜・施設花きでは、高温対策として、換気・遮光を適切に行うほか、地温抑制マルチ、細霧冷房、パッド&ファン、循環扇、ヒートポンプ等の導入の推進に取り組む。(以上、農林水産省 2018より引用)また、民間企業や研究機関等の連携による更なる品種開発や、環境制御(換気・遮光の自動化)や散水の自動化等スマート農業の導入により、更なる生産体制・品質の向上を進める事が考えられる。

2022年3月初版

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