インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

畜産

農業・林業・水産業分野|農業
協力:農業・食品産業技術総合研究機構
畜産研究部門/動物衛生研究部門

影響の要因

気温の上昇により、家畜や家禽の体温が上昇することで飼料摂取量の低下等をもたらす。

現在の状況と将来予測

現在、夏季には、乳用牛の乳量・乳成分の低下や肉用牛、豚及び肉用鶏の成育や肉質の低下、採卵鶏の産卵率や卵重の低下等の影響が生じている(農林水産省2023)。また牛に異常産を起こすアルボウイルス*感染症の流行地域が北上し、国内でみられなかった牛のアルボウイルスの侵入がしばしば確認されている(農林水産省2023)。

家畜や家禽が暑さを感じ始める温度
家畜や家禽が暑さを感じ始める温度

将来、気温・湿度の生産性への影響モデルと気候シナリオにより、家畜への影響を予測した研究事例が示されている。

  • 泌乳牛:2030年代に本州ほぼ全域で強い生産性低下が予測されている(樋口他2025)。
  • 肥育後期豚:2030年代で生産性への影響が拡大し、以降も拡大が予測されている(井上他2025)。
  • 採卵鶏:他の畜種と比較し採卵鶏の生産性低下が予測される地域は大幅に少なかったが、鶏種により影響が異なる(大津他2025)。
2025-2035年における適温条件の生産性からの減少率(%)
2025-2035年における適温条件の生産性からの減少率(%)

適応策

畜種(牛、豚、鶏)の特性に応じた暑熱や湿度対策を行う(牛や豚は特に高湿度の影響を受けやすい)。影響を軽減するために、畜舎管理や飼養管理及び繁殖管理・育種技術の向上を図る。平行してアルボウイルス感染症対策の強化も行う。

分類
畜舎管理
飼養管理
繁殖管理・育種
暑熱対策
送風や散水、散霧
  • 送風(換気扇や扇風機) 送風(換気扇や扇風機)
  • 散水、細霧装置 散水、細霧装置
  • 屋根上の散水 屋根上の散水
  • 日除け
    畜舎の緑のカーテン
  • 断熱材や反射資材の活用
    石灰散布
飼育密度の緩和
スマート畜舎技術
栄養管理
飼料の配合や栄養素を改善
給与方法
水や飼料の給与方法を改善 ニップルドリンカーによる冷水給与(肉用鶏)
繁殖管理
受精卵の移植
暑熱耐性の遺伝的改良
感染症対策
ワクチン接種・予防法の開発

*アルボウイルス:節足動物の吸血活動により脊椎動物宿主間で伝播し、媒介節足動物および脊椎動物宿主の両方で増殖可能なウィスルの総称(梁瀬2023より引用)。

暑熱対策
感染症対策
分類
畜舎管理
飼養管理
繁殖管理・育種
方法
[ 送風や散水、散霧 ]

畜舎内における換気扇や扇風機による畜体への送風を行い体温上昇を防いだり、散水や細霧装置による散霧を行い畜舎内の気温上昇を抑える事が効果的である。屋根への散水により気温上昇を抑える事も広く行われている。

例1)牛では過度に濡らすことなく、細霧による潜熱放散を効率的に行うため、送風と間欠細霧の組み合わせを実施することも行われている。

例2)乳牛では暑熱ストレスを判定する指標としてTHI(温湿度指数)メーターが活用されている。

[ 日除け ]

日光が直接畜舎に当たり畜舎内の気温が上昇することを防ぐために、緑のカーテンや寒冷紗、よしず等を利用する。

[ 断熱材や反射資材の活用 ]

畜舎内の気温上昇を防ぐため、断熱材を設置したり(屋根裏・壁・床)、屋根へ反射資材(石灰等)を塗布する。

[ 飼育密度の緩和 ]

家畜の体感温度を低下させるために、夏場の飼育密度を下げる。

[ スマート畜舎技術 ]

多数のファンを用いた強制横断換気により、THIを下げ、細菌やウイルスを含むエアロゾルの濃度を低減する閉鎖型牛舎が注目されている(土肥2025)。

[ 栄養管理 ]

暑熱環境下では、体温上昇に伴う飼料摂取量の低下が懸念されることから、飼料の改善を行う。

例1)牛では良質な粗飼料(牧草等)の利用や、給与回数の増加等により繊維源を確保しながら、濃厚飼料(トウモロコシ等)の割合を増加させることにより飼料中の栄養濃度を高め、摂取する栄養素量を低下させない。

例2)乳牛では、栄養価の高い脂肪酸と、抗酸化物質であるビタミンの両方を飼料に添加することで、無添加あるいは両者を単独で添加した場合よりも乳量が増加することが認められている。

[ 給与方法 ]

給水方法を工夫したり、給餌方法の改善による飼料摂取量低下を防ぐ技術を取り入れる。

  • 重曹の添加(鶏)の例:肉用鶏への熱射病防止効果を得るために、高温環境期に、重曹を飲水に 0.5%添加して投与する(岩間他 1994)。また、産卵鶏の飼料への重曹添加により、暑熱による卵殻質悪化を抑制する(農業・食品産業技術総合研究機構2017)。
  • 夜間給餌(肉用牛)の例:摂取量の低下を抑制するために、夜間給餌を行うと共に、ダクトファンを24時間稼働させ畜舎内の気温上昇を緩和する(長野県農業関係試験場 2017)。
[ 繁殖管理 ]

暑熱ストレスにより、発情が微弱化し人工授精の適期を見逃してしまうこと、交配が実施できても卵子の機能低下や受精胚の初期生育阻害により受胎率が低下することが大きな問題になっている(阪谷2015)。対策として、牛では発情を発見する補助具の利用や、初期の受精胚を体外でバイパスさせる受精卵移植が行われている(広島県2021)。

[ 暑熱耐性の遺伝的改良 ]

乳用牛では、2021年8月から暑熱耐性の遺伝的能力評価が開始された(家畜改良センター2021)。暑熱耐性の遺伝率は低いことから、暑熱耐性の評価値は総合指数*上位の種雄牛から選択する際の追加情報として使う(磯貝2025)ことが考えられる。

[ ワクチン接種・予防法の開発 ]

ワクチンがある感染症については、流行頻度の少なかった地域へワクチン接種を拡大する。国内新規のウイルスについては、侵入・まん延に対する監視体制の強化、診断法、予防法を開発する。

コスト
  • 牛舎内へのシャワー設置(60頭規模フリーストール牛舎):6万円程度(15分間/回、 朝夕2回散水)+扇風機も組合せる。
  • 寒冷紗(遮光率55%)のネットは18m分で約3,500円。40頭規模のフリーストール牛舎で約4,000円の設置費用。
  • 反射塗料の施工経費:100万円/300m²程度  (以上栃木県 2025より引用)。

例)乳牛への抗酸化ビタミン給与(100g/頭)と脂肪酸給与(300g/頭)の資材費(115円/頭)に対し、増乳効果(16%)により418円増益(円/頭)。(日乳量を30kg/頭、乳価を111円/kg、脂肪酸を22.5円/100g、抗酸化ビタミンを47.3円/100gとして。)(農業・食品産業技術総合研究機構 2017)

所要時間
現在~
現在~
現在~
現在~

*総合指数:産乳、耐久性、疾病、繁殖などの要素を加味した指数。この総合指数を用いて種雄牛が選抜されている(農林水産省畜産局畜産振興課2024)

社会的視点

畜産業は生産のみならず、流通・加工などの関連産業も含め、我が国の中山間地も含む地域経済を支えている(農林水産省2025より引用)。気候変動影響への対策や支援も進めることで、生産者の経営安定や生産安定に資すると考えられる。

適応策の
進め方

【現時点の考え方】 飼育密度の緩和や畜体等への散霧等により、家畜・家禽の体感温度を低下させるとともに、換気扇等による換気、寒冷紗やよしずによる日除け、屋根裏への断熱材の設置、屋根への散水や消石灰の塗布等により、畜舎環境を改善する。また、嗜好性や養分含量の高い飼料及び低温で清浄な水を給与する。(以上農林水産省2023より引用)

【気候変動を考慮した準備・計画】 今後さらなる研究によって、暑熱ストレスの改善技術が開発されることが期待されるほか、暑さに強い個体を選抜するなどの育種からのアプローチも重要になってくると考えられる(阪谷 2015より引用)。また、我が国は家畜のアルボウイルス感染症の侵入リスクと常に隣り合わせであることを意識して、これまで以上に監視の目を光らせるとともに、診断や防疫体制の充実を図る必要がある(梁瀬2023より引用)。

2026年1月改訂
農業・林業・水産業分野