インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

雑草

農業・林業・水産業分野|農業|病害虫・雑草等
協力:農業・食品産業技術総合研究機構

影響の要因

気温の上昇は、雑草の越冬や分布域の変化、特に近年問題となっている外来雑草の侵入・定着に影響し、農作物に影響が出ることが想定される。

現在の状況と将来予測

現在、帰化雑草であるコヒメビエ(森田1996)やナルトサワギク(Tsutsumi2011)など、気温上昇が国内の分布拡大に寄与しているとする研究事例がある。

将来、イガホビユ(石川他2016)等一部の種類において、気温の上昇により定着可能域の拡大や北上の可能性が指摘されている。

圃場へ侵入し難防除雑草となっている帰化アサガオ類の分布を予測した研究では、気温上昇により分布は拡大し、防除可能日数からみた難防除性が高まり、蔓延リスクが高まることが予測(澁谷他2016)されている(右図参照)。

温暖化による防除可能日数からみたマルバルコウ*の難防除性増大リスク推定
温暖化による防除可能日数からみたマルバルコウ*
難防除性増大リスク推定
*帰化アサガオの一種
出典:澁谷(2014)

適応策

従前から行われている予防・侵入防止・防除の各段階の雑草管理を並行的に進める。特に圃場では侵入初期段階で対策を行う事が重要。また深刻化する雑草問題に対し、総合的な防除体系を構築する事が進められている。

分類
分類
予防的措置
侵入防止
防除
総合的雑草管理
方法
[ 輸入検疫時の検査 ]

近年、輸入される牧草や飼料穀物に混入した外来雑草の種子が家畜排泄物由来たい肥等を通じて農地へ侵入・拡散し、難防除雑草となり、農作物に被害をもたらす事例が報告されている(植物防疫の在り方に関する検討会2021より引用)。2022年5月に公布された改正植物防疫法では、国際基準と整合するように、有害植物の定義に雑草を追加し、輸入検疫、国内検疫及び国内防除の対象とできるよう措置(農林水産省 参照2022年11月7日)がとられた事から、今後輸入検疫段階での国内侵入防止措置が図られる見込みである。

[ 完熟堆肥化 ]

輸入飼料への混入種子対策、及び国産飼料に混入等した帰化雑草種子対策として、家畜糞尿の完熟堆肥化が基本技術となる。堆肥の熟成中に生じる高温により病原菌や寄生虫、雑草種子が死滅する為、堆肥全体が高温を経験するように切返しを行う(富山県参照2022年11月7日)。

[ 侵入経路・拡散メカニズムの解明 ]

外来雑草は輸入飼料や、未熟堆肥の耕地への還元(小荒井2018)、水系での拡散等により農地等に侵入している。侵入経路や、種子の散布様式等の生態的特性を解明することで、その分布拡大を防ぐための対策を立てることが可能となる。

[ 早期警戒に資する情報提供 ]

外来雑草への早期警戒の為、雑草リスク評価と侵入段階評価(「未侵入」「侵入初期」「まん延」)に基づき、各段階に応じた評価手法でランキングを行い、外来雑草の防除優先順位を決定する考え方が示されている(以上黒川他2015)。

外来雑草対策の基本は「入れない」そして「広げない」。

[ 圃場での管理:早期発見・早期対策 ]

圃場内に侵⼊したら防除が困難な外来雑草は地域への侵⼊を防ぐことが基本。早期発⾒・早期対策により少ないうちに防除する。

[ 発生情報の整理・共有 ]

雑草の繁茂期(7⽉〜9⽉)に発生場所等を記録し、雑草の少ない圃場から作業を実施。次作では圃場ごとに防除対策を策定する。

[ 地域での防除 ]

地域全体にまん延させない為に「未熟な堆肥は⼊れない」「⽤排⽔路の溝上げ残⼟に注意する」「作業は雑草の少ない圃場から行う」等の管理を地域全体で行う。 (以上農研機構2021を元に作成)

外来雑草の特性等基礎情報は、「写真で見る外来雑草(書籍:畜産技術協会編、書籍を元にHP作成:農研機構 畜産草地研究所)」から情報提供されている。

雑草の生態解明に基づいた合理的で効果的な除草剤利用技術に加えて、作付体系や耕耘の有無等の耕種的管理(農研機構 中央農業総合研究センター2011より引用)や機械除草、病害虫との相互関係を考慮した圃場周辺を含めた広域管理、などを組合せた総合的な防除体系を考えていく必要がある(小林2016)。

時期
輸入検疫:通年(見込み)
完熟堆肥:通年

例)洪水時:河川周辺での下流への種子等の流出・定着に注意
(国土交通省 河川環境課 2021)

例)大豆圃場での帰化アサガオ類対策:大豆播種前~10月頃
(難防除雑草は出芽期間が⻑く、薬剤処理から回復・再⽣する能⼒も⾼い)(農研機構2021)

通年
コスト
設備設置費用の試算(生ふん搬入量30t/日)
従来堆肥:22,147万円、成分調整堆肥(ペレット状):24,685.5万円(薬師堂2002)
中(調査・研究等)
<実証体系導入事例>
カロライナツユクサ:3,500円/10a
(中耕培土+除草剤散布+手取り除草)(農研機構2021)
-
所要期間
<堆肥化期間>生産方法や糞尿処理量等により異なる。
種子により死滅日数が異なる(小荒井2018)為、注意が必要 例)週1 回切り返しの場合、堆肥化には 100 日必要
(熊本県県南広域本部 球磨地域振興局 農業普及・振興課 参照2022年12月15日)。
現在~(継続的な対策が必要)
現在~(既に対策が行われており、今後も継続が必要)
現在~(既に対策が行われており、今後も継続が必要)

適応策の進め方

【現時点の考え方】
経営規模の拡大や農業者の高齢化に伴う除草の省力化・軽労化に対する要請、新たな難防除雑草の出現による農業被害への対応など、雑草管理の課題は重要度を増しているように思う(小林2016より引用)との指摘がされている。

【気候変動を考慮した考え方】
冬季の最低気温の上昇は、夏生雑草の発芽、越年生雑草の開花、栄養繁殖器官を有する多年生雑草の越冬率などに大きな影響を与える(富永2013より引用)。また外来雑草では、帰化アサガオ類の分布は拡大し、防除可能日数からみた難防除性が高まり、蔓延リスクが高まることが推定(澁谷2016より引用)されている。

【気候変動を考慮した準備・計画】
農業構造の変化や、帰化雑草の蔓延リスクの高まり及び分布拡大の深刻さを踏まえ、関係機関が協力した雑草防除技術の開発や、地域全体での防除体系の構築を行っていく事が考えられる。

2023年3月初版
農業・林業・水産業分野

ページトップへ