インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

小麦

農業・林業・水産業分野 | 農業 | 麦、大豆、飼料作物等 | 麦
協力:農業・食品産業技術総合研究機構

影響の要因

気温の上昇や降水量の変化は、麦の収量や品質への影響をもたらす可能性がある。

現在の状況と将来予測

現在、高温で登熟期間が短縮し光合成期間が短くなることによる減収・品質低下(細粒化)、登熟期の高温による枯れ熟れの発生、秋まき麦類での暖冬で茎立ちが早まること等による凍霜害、稈長増大による倒伏の発生増加への影響や、開花期の高温多湿による赤かび病の感染の広がりの指摘などがある。一方プラスの影響として穂発芽リスク減少や早熟化による後作導入の容易化などの報告がある。(以上杉浦2018)

現在(2000-2010年)と将来(2045-2055年)の小麦の発育期間の変化を推定した研究事例では、北海道、東北では播種~出穂期間の短縮及び登熟期間の双方が短縮する一方、秋播性の低い関東以西の品種では播種~出穂期間は短縮するが、出穂期から成熟期までの日数は短縮せず、現在と同程度もしくは増加するとの予測が示されている(中園2016)。

気候シナリオによる温暖化時の発育相の推定
気候シナリオによる温暖化時の発育相の推定
出典:中園(2016)

適応策

既に実施されている地域や品種に応じた栽培技術の励行を基本として、関係機関からの情報等も活用しながら、気候変動(気温上昇、降水量の変動等)に対応した工夫や、更なる新品種の開発・導入を進めていく事が考えられる。

分類
分類

*品種や産地により適切な栽培方法がある為、ここでは気候変動影響に対する一般的な栽培技術について記載しています

分類
栽培技術による対応
新品種の導入・品種開発
方法
[ 排水対策の徹底 ]

麦は生育期間全般に渡って湿害を受けることから、排水対策の徹底が極めて重要(広島県2022)。排水対策は分げつ始期の多雨による穂数減少の防止や、登熟後期の高温による減収を防ぐ為にも重要である(西尾他2017)。

①地下⽔位が40〜50cm以下であることが望ましく、栽培にあたって団地化(ブロックローテーション等)が推奨される。②降⾬後の早期排⽔のため、暗渠や圃場内明渠、額縁明渠などの排⽔溝の設置、排⽔溝と排⽔⼝をつないで圃場外へ確実に排⽔させることが重要。③透⽔性・通気性を⾼めるため、プラソイラ等による⼼⼟破砕を実施。④排⽔溝設置や⼼⼟破砕でも⼗分な排⽔性が確保できない場合は、畝⽴て同時播種栽培を組み合わせる。(以上農林水産省参照2022年11月28日より引用)より排水対策を強化する場合、トラクターに装着し土層の透水性を改良できるカットドレーン等も開発されている(農研機構2022)。

[ 土壌環境の改善 ]

土壌診断に基づく土づくり肥料(石灰質肥料、燐酸質肥料、苦土肥料)の施用、良質堆きゅう肥の施用、作土深の確保等を総合的に行い、土壌改善に努める(栃木県米麦改良協会2022より引用)。登熟期の高温と同時に発生することが多い乾燥による水ストレスに対しては、出穂期までに健全な根を深い層までよく張らせておくことが重要であり、排水性、土壌の圧密化の改善、および適正な土壌の栄養状態を保つことが大切である(農研機構中央農業研究センター2020より引用)。

[ 適期播種 ]

早い播種は凍霜害や縞萎縮病発生等、遅い播種は穂数減少による減収の危険性等が懸念される事から、適期播種が重要(栃木県米麦改良協会2022)。

[ 麦踏み ]

麦踏みには、分げつの促進、幼穂の凍害防止、倒伏防止などの効果がある。特に暖冬や早播により、茎立ちが早い場合は踏圧により生育を抑制し、幼穂の凍害防止を図る。また、土壌を固めて株支持力を高めることで倒伏防止にかなり効果がある。(以上広島県2022より引用)

[ 施肥方法の変更 ]

基肥を減らして追肥の割合を増やす「追肥重点型施肥」では、茎立期頃までに生育過剰になりにくい上、追肥量を増減できる幅が大きいため、生育初期の高温への対策に活用できる可能性があり(農研機構中央農業研究センター2020より引用)、検証が行われている。

[ 適切な病害虫防除(特に赤かび病) ]

赤かび病は、1回の薬剤散布では完全に抑えることが難しく、2回実施することが基本。第1回の防除は開花始めから開花期に、第2回の防除はその7日後に実施する(2回目の薬剤は1回目と違う薬剤を用いる)(田谷参照2022年11月29日)。

[ 適期作業の為の情報発信 ]

管理作業を適期に行ってもらう為の携帯メールを活用した佐賀県における情報発信(秀島2022)や、気象に応じた生産改善速報の発信(福岡県)等、各地の公設試験研究機関から情報発信が行われている。

[ 栽培改善技術導入支援マニュアル ]

収量が上がりにくいほ場において、その多収性を阻んでいる要因が何かを診断・判定し、改善するために導入する対策技術の決定をサポートする『診断に基づく小麦・大麦の栽培改善技術導入支援マニュアル』が公開されており、Webで簡易診断出来るアプリも公開されている(農研機構 中央農業研究センター2020)。

[ 産地に適した品種の導入 ]

優良な品種の開発・普及が進められており、小麦では製品収量が低下しない大粒品種等の開発、穂発芽耐性や赤かび病抵抗性強化、耐倒伏性(短稈化など)の品種育成が取り組まれている(伊藤2022)。穂発芽耐性が強化されたパン用小麦系統「ゆめちから2020」(伊藤他2021)や、 縞萎縮病に強い中華麺適性品種「タマイズミR」(乙部2017)等が開発されている。

コスト
低(アプリの活用等)~中(排水溝の整備等)
低(品種導入)/
高(品種開発)
所要期間
短期
短期(品種導入)/
長期(品種開発は10年以上)

適応策の進め方

【現時点の考え方】
品種や地域に応じた適切な栽培技術(排水対策、適期播種、施肥時期・量、病害虫・雑草の防除、適期収穫等)の励行が行われている。また優良な品種の開発・普及が進められており、令和3年度の小麦作付け面積の約2割を新品種(平成20年以降に育成)が占めている(農林水産業農産局穀物課2022)。

【気候変動を考慮した考え方・準備・計画】
麦類では、多雨・湿害対策として、排水対策、赤かび病等の適期防除、適期収穫など基本技術の徹底を図るとともに、赤かび病、穂発芽等の抵抗性品種への転換を推進しており、一定の効果が見られる(以上農林水産省2021より引用)。また、気候変動に適応した品種・育種素材、生産安定技術の開発・普及を推進する。

2023年3月初版
農業・林業・水産業分野

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