インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

ニホンナシ

農業・林業・水産業 | 農業 | 果樹
協力:農業・食品産業技術総合研究機構

影響の要因

気温の上昇や、降水の時空間分布の変化は、ニホンナシの生育や品質等に影響を及ぼす。

現在の状況と将来予測

現在、地域により異なるが、秋冬期の高温による耐凍性獲得遅れ等による露地栽培での発芽不良、前進した開花後の晩霜害、高温等による果肉障害、高温と直射日光による日焼け果などの影響が出ている園地がある(右図参照)。

将来、21世紀末には、自発休眠打破に必要な低温積算量が不足する地域が出現する可能性が指摘されている(環境省 2019)。

発芽不良の例/晩霜害の例/果肉障害の例

適応策

ニホンナシは、果樹の中でも高い適応性(戸谷2020)を有するが、出荷量減少の原因となる晩霜害や発芽不良等の影響が出ている事から、引き続き栽培技術による対応を行う。また、将来栽培困難が予測されている品種栽培の地域では、他品種への改植等の検討を行う。

時期
分類
分類
栽培技術による対応
温暖化対応品種への改植
方法

栽培技術の前提として、土壌管理や潅水・排水対策、樹体管理等、基本的な管理を行って適正な樹勢を維持することが重要となる。

[ 施肥時期の変更(露地栽培での発芽不良対策)]

九州地方を中心に発芽不良(発芽・開花の遅延や不揃い等)が認められ、主要因として秋冬期の気温が高く耐凍性が低いまま厳寒に遭い凍害発生する事、また秋冬期施肥等による樹体への窒素取込みにより耐凍性が十分高まらず発生が助長される。その為、肥料や堆肥の散布時期を春にすると、花芽の耐凍が高くなり、発芽不良の発生が大幅に少なくなる。(以上農研機構2019)

[ 晩霜害対策の組合せ ]

気温の上昇に伴う開花期の前進により、春の晩霜害被害が各地で報告され(農林水産省2022)、様々な対策がとられている。

①事前の晩霜害防止対策:以下単体に加え、複数組み合わせる事で昇温効果を高める試験成果(大谷2016)も示されている。

  • 送風法:放射冷却時に発達する逆転層上部の比較的暖かい空気をファンで下層に送り撹拌することで、気温と樹体温の低下を防ぐ方法であり、サーモスタットにより自動化が可能
  • 燃焼法:設備投資は少なく簡便であるが、自動化が困難で設置や火点管理に労力を要するのが難点
  • 散水法(散水氷結法):スプリンクラーで樹上または樹冠下に散水し、水が凍るときの潜熱により植物体温を0℃程度に維持し、被害を防ぐ方法 (以上用語説明は朝倉2013より引用)

②晩霜害発生後の技術対策:着果量確保の為の人工授粉等も生育ステージ事に示されている(福島県2022)。

[ 潅水・日除け資材(日焼け・果肉障害対策等)]

高温による日焼けや、高温乾燥が要因となる果肉障害等を防ぐ為、適期潅水や果実への袋かけを行う。

[ 剪定の工夫(発芽不良対策等)]

弱樹勢樹や120cm以上の長大な長果枝で発芽不良の発生が多い事から、落葉後の剪定時に短果枝の構成比を増やした側枝管理等を行い発芽不良の発生を軽減する取組が行われている(農研機構果樹研究所他2015)。

[ 生育予測情報の活用 ]

地域ごとに、品種や気象条件等を踏まえた開花日予測システムや収穫期予測回帰式の作成等が行われており(茨城県、千葉県、神奈川県等)、適期に園地で対応が出来るよう公立農業試験場等から生育情報が発信されている。

[ 加工品への活用 ]

出荷できない凍霜害等による傷害果を加工品として活用したり、利用を促進する為の支援(農林水産省 参照2022年10月17日)等が行われている。

[ 新品種の導入 ]

暖地でも花芽が安定的に着生することで安定生産を可能とするニホンナシ品種「凜夏(りんか)」(農研機構2013)が育成されている。また、みつ症が発生する品種の場合は、みつ症(果肉障害)の発生が少ない品種「恵水」(茨城県農業総合センター 参照2022年10月18日)の育成も行われている。

コスト

凍霜害対策(10a当たりの導入費用の目安(令和4年2月時点))

  • 送風法(防霜ファン): 設置数 2.5基で 初期設置費用40~50万(電気工事や電気代等は別)
  • 燃焼法:防霜ロック 25個で約2.5万円、霜キラー25個で約2.2万円、リターンスタック 15~20基で約40~65万円(灯油代等別)
  • 散水法:スプリンクラー5~40個で 初期設置費用10~20万(井戸掘削経費等別)

(以上安達2022より引用)

改植(初期投資)にコストを要する
所要期間
現在~(既に栽培技術が取り入れられている)
中(成園までに数年を要する)~長期
(品種開発はおよそ10 年以上要する)

適応策の進め方

【現時点の考え方】
発芽不良の被害を軽減するため、肥料の施用時期の変更等の技術対策の導入・普及を推進する(農林水産省 2021より引用) 。

【気候変動を考慮した考え方】
長期的には温暖化対応品種へ改植することが考えられる。この場合、栽培技術による対策が不要となり、現在の産地や産地ブランドの維持に有効である(杉浦2018)。

【気候変動を考慮した考え方・準備・計画】
果樹は永年性作物であり、結果するまでに一定期間を要すること、また、需給バランスの崩れから価格の変動を招きやすいことから、他の作物にも増して、長期的視野に立って対策を講じていくことが不可欠である。したがって、産地において、温暖化の影響やその適応策等の情報の共有化や行動計画の検討等が的確に行われるよう、主要産地や主要県との間のネットワーク体制の整備を行う必要がある。 (以上 農林水産省 2021より引用)

2023年3月初版
農業・林業・水産業分野

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