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3.地域気候変動適応計画の策定/変更

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【STEP 1】 地域気候変動適応計画策定/変更に向けた準備

■気候変動への適応の方針や目標の検討/見直し

地方公共団体の適応の方針や目標、目指すべき社会について検討します。

気候変動による将来の影響に備える適応は、現在既に生じている気候変動影響に対処するだけではなく、地域住民の生活や、地域の社会・経済・環境を将来にわたって守り、地域住民の生活の向上や、地域の社会・経済の発展にもつながり得る取組です。まずは、国内外の適応に関する情勢を踏まえた上で、地域適応計画を策定することで、目指すべき社会や目標などについて検討します。

国内外の情勢については、気候変動適応情報プラットフォーム(以下「A-PLAT」という。)から入手できます。詳しくはp. 98を参照してください。

 

ひな型編 1.2 本計画策定の目的

事例

地域適応計画における目指すべき社会の姿

東京都「東京都気候変動適応計画」
徳島県「徳島県気候変動対策推進計画(適応編)」

東京都は令和3年3月に「東京都気候変動適応計画」において、適応に関する目指すべき社会の姿を示しています。

9 東京都気候変動適応計画における目指すべき姿

図 9 東京都気候変動適応計画における目指すべき姿

出典:東京都気候変動適応計画(令和3年3月)

 

徳島県は令和3年3月に「徳島県気候変動対策推進計画(適応編)」を策定し、その中で、目指すべき将来像を示しています。

10 徳島県気候変動対策推進計画(適応編)における目指すべき将来像

図 10 徳島県気候変動対策推進計画(適応編)における目指すべき将来像

出典:徳島県気候変動対策推進計画(適応編)(令和3年3月、徳島県)

 

参考情報

気候変動適応計画の目標設定の上での考え方

平成30年12月に施行された「気候変動適応法」では、その目的を以下のように定めています。

第一条

この法律は、地球温暖化その他気候の変動に起因して、生活、社会、経済、及び自然環境における気候変動影響が生じていること並びにこれが長期にわたり拡大する恐れがあることに鑑み、気候変動適応に関する計画の策定、気候変動影響及び気候変動適応に関する情報の提供その他必要な措置を講ずることにより、気候変動適応を推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とする。

また、令和3年度に改定された「気候変動適応計画(令和3年10月閣議決定)」の目標は、下記のとおりです。

第1章 気候変動適応に関する施策の基本的方向

第1節 目標

適応法は、気候変動に起因して、生活、社会、経済及び自然環境における気候変動影響が生じていること並びにこれが長期にわたり拡大するおそれがあることに鑑み、気候変動適応を推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的としている。

これを踏まえ、本計画では、気候変動適応に関する施策を科学的知見に基づき総合的かつ計画的に推進することで、気候変動影響による被害の防止・軽減、更には、国民の生活の安定、社会・経済の健全な発展、自然環境の保全及び国土の強靱化を図り、安全・安心で持続可能な社会を構築することを目指す。

 

■地域気候変動適応計画の形式の検討/見直し

地域適応計画の形式を検討し、決定します。

気候変動適応は、分野が多岐にわたり、多くの計画や部局の業務と深く関わっています。そのため、地域適応計画では、関連する計画等と連携し、横断的・総合的な施策を立てることができるよう、区域の状況に合わせた策定の形式を検討する必要があります。

地域適応計画の策定の形式には、下記のような例が考えられます。独立した計画とするだけでなく、地球温暖化対策や環境 など関連する計画と合わせて策定することや 、 防災 、 農業など環境以外の分野の行政計画であっても気候変動適応に関する内容が含まれる場合には 地域適応計画と位置付けることが可能です。計画を統合することで、庁外の検討会への諮問等も一度で済むという利点もあります。また、市町村にとって重要と考えられる分野の施策を優先的に検討して地域適応計画を策定することもできます。まずは1分野を対象に地域適応計画を策定して、改定時に徐々に対象分野を広げていくことも可能です。

 

・独立した計画とする

・地方公共団体実行計画(区域施策編)と合わせて策定する(構成例:表 7)

・環境基本計画に組み込む

・防災や農業など関連する分野の計画を地域適応計画として位置づける

 

表 7 地方公共団体実行計画(区域施策編)と合わせて策定する場合の構成例

表中の○は、記載内容が各計画に必要な情報に相当することを示します。

地方公共団団体実行計画と地域適応計画を合わせて策定する際の目次(例)

地域適応計画に相当

地方公共団体実行計画に相当

背景
(気候変動や気候変動対策を巡る国内外の動向など)

計画の目的、位置付け、計画期間

区域の地理的条件、経済・社会的な地域特性

区域の気候変動及びその影響と将来予測

目指す将来像

(緩和)
 ・ 区域における温室効果ガス排出量、エネルギー消費量等の状況
 ・ これまでの取組や今後の取組方針
 ・温室効果ガス排出削減目標
 ・温室効果ガス排出削減等に関する対策・施策

 

(適応)
 ・適応に関する基本的考え方
 ・各分野のこれまで及び将来の気候変動影響
 ・各分野における適応策

 

推進体制、進捗管理、各主体の役割

※地方公共団体実行計画(区域施策編)では、気候変動の将来予測の記載は求められていませんが、気候変動影響について合わせて記述することで、緩和対策の必要性の理解を醸成することにもつながります。

 

ひな型編 1.3 上位計画及び関連計画との位置づけ

事例

地域適応計画の位置付け

北海道旭川市「旭川市気候変動適応計画」

旭川市は令和4年3月に「旭川市気候変動適応計画」を策定しています。地域適応計画は旭川市環境基本計画の下の個別計画として、地球温暖化対策実行計画と並列に位置付けられており、地域防災計画や鳥獣被害防止計画等と連携するものとされています。

11 「旭川市気候変動適応計画」の位置付け

図 11 「旭川市気候変動適応計画」の位置付け

出典:旭川市気候変動適応計画(令和4年3月、旭川市)

 

追加事例

他の計画と統合した場合の構成例

※追加事例は、国立環境研究所が本マニュアル策定後(令和5年9月)に追加した事例です。

長崎県長崎市「長崎市地球温暖化対策実行計画」

長崎市では、地域適応計画を地方公共団体実行計画(区域施策編)と統合して策定しました。

地域適応計画に該当する内容は第6章「気候変動の影響に対する適応策」にまとめて記載されており、適応策の考え方、長崎市における気候の長期変化、適応策(影響と対策)の3節から構成されています。

出典:長崎市地球温暖化対策実行計画(令和4年、長崎市)を一部編集

岐阜県「岐阜県地球温暖化防止・気候変動適応計画」

岐阜県では、地域適応計画を地方公共団体実行計画(区域施策編)と統合して策定しました。

地域適応計画に該当する内容として、本編第3章「岐阜県の気候変動の現状・将来予測」では、気候変動の現状、気候変動の将来予測及び気候変動の影響評価を、第7章では、「気候変動の影響評価に関する対策(適応策)」を記載しています。

また、成果指標等の適応策の詳細情報が施策編にまとめられています。

出典:岐阜県地球温暖化防止・気候変動適応計画(令和5年改訂、岐阜県)を一部編集

埼玉県加須市「第2次加須市環境基本計画」

埼玉県加須市では、地域適応計画を環境基本計画と統合して策定しました。

気候変動適応に関連する内容として、第3章「地域特性と環境における基本的認識」に気温や降水量等の気候の変化を、第5章「環境の保全及び創造に関する施策」に適応に関する基本的な考え方や施策を記載しています。

出典:第2次加須市環境基本計画(令和3年、加須市)を一部編集

兵庫県高砂市「第2次高砂市環境基本計画」

兵庫県高砂市では、環境基本計画の中に地域適応計画を統合しました。

第3章「基本目標達成のための取組」において、気候変動への適応を含む気候変動対策を基本目標に含めています。第4章では「高砂市気候変動適応計画」と題して、基本的事項(計画の目的、計画の位置付け等)、地球温暖化の概要、気候変動による影響、適応への取組を定めています。

出典:第2次高砂市環境基本計画(令和4年、高砂市)を一部編集

長野県飯田市「21’いいだ環境プラン第5次改訂版」、「飯田市気候変動適応計画について」

長野県飯田市は、環境基本計画に地域適応計画を統合しました。

6つの「ゴール」とそれに紐づく「ターゲット」から取組を整理していますが、気候変動適応はゴール5「気候変動への対策に取り組もう」の中の、ターゲット5-6「気候変動への主体的適応」に位置付けられています。

その上で、本計画の中では気候変動影響の整理や個別の適応策を記載せず、各分野別計画に「適応」の視点を導入して、各分野において具体的な適応策を展開することとしています(図上)。さらに、別資料では、気候変動適応策について定める分野別の計画群の一覧を整理しています(図下)。

出典:21’いいだ環境プラン第5次改訂版(令和3年、飯田市)を一部編集

出典:飯田市気候変動適応計画について(令和3年、飯田市)

 

■計画期間/見直し時期の設定

地域適応計画の計画期間や見直し時期を設定します。

気候変動は長期にわたり影響を及ぼします。地域適応計画は、区域における将来の気候変動や各分野への将来の影響に関する科学的知見に基づいて策定しますが、将来予測の結果には幅があり、必ず不確実性が含まれています。

地域適応計画を策定した後も、常に最新の科学的知見を収集し、各施策の状況の把握を行い、それに基づいて地域適応計画を見直していくことで、適時的確な適応を進めていくことができます。

計画期間や見直し時期については、関連する計画の計画期間や見直し時期と合わせるなど、策定の形式や状況に応じて設定します。

 

ひな型編 1.4 計画期間

参考

地域適応計画の計画期間と見直し時期

地域適応計画における計画期間と見直し時期については、様々な設定が考えられます。例を表 8に示します。

地域適応計画を地方公共団体実行計画や環境基本計画などに組み込んだ場合は、それらの計画に合わせた計画期間や見直し時期とする方法もありますが、地域適応計画の部分のみ、別途計画期間や見直し時期を設定することも考えられます。

政府の「気候変動適応計画」では、「21世紀末までの長期的な展望を意識しつつ、概ね5年間」のサイクルで、最新の科学的知見に基づいて計画を見直すこととしています。現在入手できる気候変動影響の将来予測の多くは、今世紀中頃(2050年頃)や今世紀末(2100年頃)の影響を予測したものです。そのため、計画期間をそれらに合わせて定める方法も考えられます。

表 8 気候変動適応計画及び地方公共団体の適応に関する計画における

計画期間と見直し時期の例

関連する計画

計画期間

見直し

気候変動適応計画
(令和3(2021)年10月閣議決定)

21世紀末までの長期的な展望を意識しつつ、概ね5年間

概ね5年ごと※

千葉県の気候変動影響と適応の取組方針
(平成30(2018)年3月)

2030年度程度まで

概ね5年ごと

福岡県地球温暖化対策実行計画(第2次)(令和4(2022)年3月)

2017年度から2030年度まで

概ね5年ごと

那須塩原市気候変動対策計画(令和4(2022)年3月)

2030年度まで

2026年に見直しを検討

※令和3年10月に閣議決定された法定の「気候変動適応計画」では、表中の計画期間及び見直しを基本としつつ、2025年度を目途とする気候変動影響評価等を踏まえて、2026年度に見直すことを目指すとしています。

 

■地域気候変動適応計画策定/変更のスケジュール

地域適応計画策定/変更に向けてスケジュールを検討します。

気候変動の影響を受ける分野は多岐にわたり、庁内の多くの計画や部局の業務と深く関わっているため、地域適応計画の策定/変更に当たっては、庁内関係部局との調整に掛かる時間等を加味し、計画的に進めることが必要です。

地域適応計画策定/変更の作業工程とスケジュールをあらかじめ作成しておくことで、関係者と共通の認識をもって、計画的にスムーズに進めることができます。地域適応計画策定/変更の流れの例を示します。

 

事例

地域適応計画策定スケジュール

①東京都千代田区「千代田区気候変動適応計画2021」

東京都千代田区は令和3年11月に、初めての地域適応計画である「千代田区気候変動適応計画2021」を策定しています。検討においては、緩和策に関する取組である「千代田区地球温暖化対策地域推進計画」と、適応策に関する取組である「千代田区気候変動適応計画」を同時並行で検討しています。両計画は策定の前々年から準備を進め、懇談会等での議論・検討を経て約2年をかけて策定されました。

表 9 地域適応計画策定までのスケジュール例

 

時期

内容

「千代田区地球温暖化対策地域推進計画2015」
の改定

(仮称)「千代田区気候変動適応
計画」の策定

第1回地球温暖化対策推進懇談会

令和元年
10月24日

  • 千代田区の地球温暖化対策の取組み
  • 千代田区の地球温暖化対策の検証について
  • 区内CO2排出量の推移・増減要因分析について
  • 区の主な取組みの検証結果
  • 地球温暖化対策に関する課題のまとめ
  • 地域気候変動適応計画策定に向けた検討について

第1回
検討部会

令和2年
1月10日

  • 千代田区の地球温暖化対策の検証について
  • 区内CO2排出量の推移・増減要因分析について
  • 区の主な取組みの検証結果
  • 地球温暖化対策に関する課題のまとめ
  • 地域気候変動適応計画策定に向けた検討について

第2回
検討部会

令和2年
2月18日

  • 地球温暖化対策に係る検証資料
  • 地球温暖化対策に関する課題のまとめ
  • 千代田区の温室効果ガス排出量の将来推計結果について
  • 気候変動適応に関する追加調査
  • 千代田区における気候変動の影響評価結果
  • 気候変動に関連する既存施策の対応表
  • 既存施策の気候変動影響への対応力の整理

第3回
検討部会

令和2年
3月26日

  • 千代田区地球温暖化対策の取組みに関する検証(案)
  • 千代田区気候変動適応に関する検討(案)

第1回地球温暖化対策推進懇談会(書面開催)

令和2年5月

  • 区全体の平成30年度CO2排出量
  • 区有施設の平成30年度CO2排出量
  • 地球温暖化対策の検証(概要)
  • 地球温暖化対策の検証(報告のポイント)
  • 気候変動適応に関する検討(概要)
  • 気候変動適応に関する検討(報告のポイント)

第1回
検討部会

令和2年
7月31日

  • 「千代田区地球温暖化対策地域推進計画2015」の改定について
  • (仮称)「千代田区気候変動適応計画」における将来像・基本的な考え方・施策体系等について

第2回
検討部会

令和2年
10月29日

  • 「千代田区地球温暖化対策地域推進計画2015」の改定について
  • (仮称)「千代田区気候変動適応計画」の策定について

第3回
検討部会

令和2年
12月24日

  • (仮称)「千代田区地球温暖化対策地域推進計画2021」計画骨子(案)
  • (仮称)「千代田区気候変動適応計画2021」計画骨子(案)

第4回
検討部会

令和3年
2月3日

  • (仮称)「千代田区地球温暖化対策地域推進計画2021」素案
  • (仮称)「千代田区気候変動適応計画2021」素案

第1回地球温暖化対策推進懇談会(書面開催)

令和3年2月

  • (仮称)「千代田区地球温暖化対策地域推進計画2021」素案(概要)
  • (仮称)「千代田区地球温暖化対策地域推進計画2021」素案(本編)
  • (仮称)「千代田区気候変動適応計画2021」素案(概要)
  • (仮称)「千代田区気候変動適応計画2021」素案(本編)

令和3年8月

(パブリックコメント実施)

(パブリックコメント実施)

令和3年
11月

(計画決定)

(計画決定)

出典:千代田区地球温暖化対策推進懇談会資料より作成(令和2年、東京都千代田区)

 

②新潟県新潟市(地球温暖化対策実行計画(地域推進版)-環境モデル都市推進プラン-)

新潟県新潟市は令和2年3月に「地球温暖化対策実行計画(地域推進版)-環境モデル都市推進プラン-」を改定しています。策定の前年2月から庁内の施策調査を開始し、6月から気候変動影響の情報収集・整理を実施、翌年の3月に公表しています。

表 10 地域適応計画策定までのスケジュール例

時期

内容

2019年2月

温暖化対策本部会議開催
国立環境研究所気候変動適応センター長を招いての講演
庁内施策調査

2019年6月~

気候変動影響の情報収集・整理

2019年9月

庁内関係課へのヒアリング

2019年10月~

対応力の整理、適応策の検討

2019年12月~
2020年1月

新潟市地球温暖化対策実行計画(地域推進版)【素案】完成
議会報告
パブリックコメント実施

2020年2月

新潟市環境審議会への報告

2020年3月

各関係団体等への報告・周知・協力依頼

出典:新潟市講演資料(令和4年、新潟市)

 

■基礎情報(地理的条件、社会経済状況等)の整理/見直し

区域の特徴を把握するため、地形や主要産業、社会経済状況(産業構造、人口構造・人口分布等)に関する情報を整理します。

気候変動によってどのような影響を受けるかは、地方公共団体の位置や地勢等によって様々です。また、区域内の人口や土地利用、主要産業などの社会経済状況によって、その影響の種類や程度は異なります。

始めに区域の地理的条件や社会経済状況を把握しておくことで、区域に特化した気候変動影響の把握や、地域の状況に合わせた適応策の検討が可能となります。

 

ひな型編 2.1 ○○市の基礎情報

事例

地域特性の整理

神奈川県横浜市「横浜市気候変動適応方針」

神奈川県横浜市は平成29年6月に策定した「横浜市気候変動適応方針」で、横浜市の自然的条件(地形)や社会的条件(人口、世帯数や面積など)について、地域特性を整理しています。

 12 横浜市の自然的条件及び社会的条件

図 12 横浜市の自然的条件及び社会的条件

出典:横浜市気候変動適応方針(平成29年、横浜市)

 

参考情報

基礎情報(地理的条件、社会経済状況等)を参照できる統計情報や地方公共団体の関連計画等

 

基礎情報の種類

統計情報や地方公共団体の関連計画名

地形関係

人口関係、社会状況

国民生活基礎調査
(厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html)

産業構造

地域経済分析システム RESAS (内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局 https://resas.go.jp/

自然生態系

環境省自然環境保全基礎調査 自然環境調査Web-GIS
(環境省自然環境局 http://gis.biodic.go.jp/webgis/index.html

その他

  • ・総合計画
  • ・地方公共団体実行計画
  • ・環境基本計画

 

 

■区域の気候・気象(気温、降水等)の特徴の整理/更新

区域の気候・気象(気温、降水等)の特徴や、これまでの変化及び、将来の予測についての情報を整理します。

適応策を検討する際には、過去から現在までの気候・気象、及びその気候・気象が将来どのように変化するかについて知ることも重要です。庁内での適応策検討の材料として、また、住民や事業者等に地域の実態を伝えるための材料として、区域内の気候・気象に関する観測・予測情報を収集・整理する必要があります。

なお、区域に特化した情報がない場合は、地域及び全国レベルの情報を活用することが考えられます。

気候・気象に関する最新のデータやその解釈等については、「気候変動監視レポート(気象庁)」、「日本の気候変動2020(文部科学省・気象庁)」及び都道府県版リーフレット等を参照ください。

 

※気候は「地球上のある地域における長い期間の大気現象を平均した状態」、気象は「大気中に生じるさまざまな自然現象のこと」を指します。

 

ひな型編 2.2 これまでの○○市の気候の変化
ひな型編 2.3 将来の○○市の気候・気象の変化

事例

区域の気候・気象(気温、降水等)の特徴の整理

愛媛県「愛媛県地球温暖化対策実行計画」
鹿児島県「鹿児島県地球温暖化対策実行計画」

<これまでの気候・気象>

愛媛県では、松山地方気象台の協力を得て、これまでの県内の気温や降水量に関する観測結果を入手し、また、愛媛県水産研究センターが取りまとめた海水温に関する観測結果も入手し、公表しています。

13 年平均気温の経年変化

図 13 年平均気温の経年変化

(松山地方気象台)

出典:愛媛県地球温暖化対策実行計画(令和2年、愛媛県)

14 平均海水温の平年差推移

図 14 平均海水温の平年差推移

出典:愛媛県地球温暖化対策実行計画(令和2年、愛媛県)

 

鹿児島県は、平成30年3月に策定した「鹿児島県地球温暖化対策実行計画」の中で、「九州・山口県の地球温暖化予測情報」(平成26年10月 福岡管区気象台)を用いて、鹿児島県における将来の気温情報等を整理しています。

15 鹿児島県における将来の平均気温、日最高・最低気温の平均値の変化

図 15 鹿児島県における将来の平均気温、日最高・最低気温の平均値の変化

出典:鹿児島県地球温暖化対策実行計画(平成30年、鹿児島県)

 

 

参考情報

地域の気候・気象に関する参考資料

地域の気候・気象に関する情報を収集する際は、以下の資料が参考になります。その他にも、全国的な気候・気象に関する情報を確認する際は、資料集に示す資料が参考となります。各参考資料の詳細は資料集を御確認ください。

表 11  地域の気候・気象に関する参考資料

 

紹介ページ・資料番号(資料集)

作成者・
ウェブサイト

参考資料の名称

入手できる情報の概要

1-1

文部科学省・気象庁

日本の気候変動2020

日本における気候変動の観測成果及び将来予測の解説

1-5

気象庁ホームページ

日本の各地域における気候の変化
都道府県版リーフレット

都道府県別の図表等

1-4

気象庁ホームページ

過去の気象データ・
ダウンロード

都道府県内主要地点の数値データ
(csvファイル)

p.100

A-PLAT

気象観測データ(気象庁提供)

都道府県別の図

p.100

A-PLAT

将来予測 画像データ

都道府県別の図、地図

p.101

A-PLAT

将来予測 WebGIS(オンライン地理情報システム)

地図による空間情報

 

これらの参考資料で入手可能な気象データは以下のとおりです。

表 12 参考資料から入手できる気象データ

気象データ

これまでの気候・気象

将来の気候・気象

②※1

②※1

年平均気温

△※2

-

-

-

-

日最高気温

-

-

-

-

-

-

日最低気温

-

-

-

-

-

-

夏日

-

-

-

-

-

-

真夏日

-

-

-

-

-

猛暑日

-

-

-

-

-

熱帯夜

-

-

-

-

-

-

冬日

-

-

-

-

-

-

真冬日

-

-

-

-

-

-

年降水量

△※2

-

-

-

-

短時間強雨
(発生回数)

-

-

-

-

-

-

-

大雨発生

-

-

-

-

-

-

無降水日

△※3

-

-

-

-

-

-

降雪量

-

-

-

-

-

-

積雪量

-

-

-

-

-

-

海面水位

△※4

-

-

-

-

-

-

-

-

※1. 区域によっては記載されていない場合もあります。

※2. 資料1-4からは入手できませんが、気象庁ホームページ「過去の気象データ検索」から入手可能です。(https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php

※3. 無降水日の日数を直接表示することはできませんが、月間の降水日数(日降水量0.0mm以上の日数)を表示し、当該期間の合計日数から引くことで算出可能です。

※4. 資料1-4からは入手できませんが、気象庁ホームページ「日本周辺の1960年以降の海域ごとの海面水位変化」から、Ⅰ北海道・東北地方沿岸、Ⅱ関東・東海地方沿岸、Ⅲ近畿~九州地方の太平洋側沿岸、Ⅳ北陸~九州地方の東シナ海側沿岸の4海域について海面水位に関する情報が入手可能です。
https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/tide/sl_area/sl_rgtrend.html

 

■資料集の参考資料

関連する資料集に掲載されている参考資料をすぐ確認できるよう、抜粋してHTML版で掲載しています。

 

参考資料1-1

日本の気候変動2020

文部科学省・気象庁:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/index.html
2020年発行

対象STEP : STEP 1

【概要】

日本を7地域(北日本日本海側、北日本太平洋側、東日本日本海側、東日本太平洋側、西日本日本海側、西日本太平洋側、沖縄・奄美)に分類し、その地域における21世紀末の気候に関わるデータを数値とグラフにて示す資料。

 

●記載項目

・年平均気温  ・日最高気温  ・日最低気温

・真夏日    ・猛暑日1     ・熱帯夜2

・真冬日    ・年降水量   ・大雨(発生回数)

・無降水3    ・短時間強雨(発生回数)

・最深積雪   ・降雪量    など

1最高気温が35℃以上の日数

2本マニュアルでは便宜的に、日最低気温が25℃以上の日を『熱帯夜』という。

3降水量が1.0mm未満の日数

 

参考資料1-5

日本の各地域における気候の変化

対象STEP : STEP1

【概要】

各都道府県の過去から現在及び将来の気候・気象情報が整理されています。

●記載項目

・平均気温       ・降水量  ・真夏日

・真冬日        ・最深積雪 ・大雨(発生回数)

・短時間強雨(発生回数) など

 

参考資料1-4

過去の気象データ・ダウンロード

対象STEP : STEP1

【概要】

日本各地のアメダスや気象台、測候所等にて観測された気象情報を、観測地点や期間を指定してダウンロードすることができます。

なお、地点によっては観測を行っていない項目もあることに留意してください。

本データは観測所の移転に伴う補正を行っていないため、年平均気温の経年変化のグラフ作成など、気候の長期変化を見る場合の使用は取扱いに注意が必要です。

●入手可能項目の例(令和5年3月時点の情報)

気温

・時別気温 
・日平均気温
・日最高気温


・月平均気温
・日最低気温

・夏日4
・真夏日
・猛暑日

・冬日5
・真冬日
・熱帯夜

降水

・時別降水量
・日/月降水量
・10分間降水量の日/月最大

・1時間降水量の日/月最大
・日降水量X mm以上の日数

日照/日射

・時別日照時間
・日別日照時間
・日合計全天日射量

・日照時間の月合計
・日照率(月)
・月平均全天日射量

積雪/降雪

・時別降雪深
・時別積雪深
・日/月最深積雪
・日降雪量

・最深積雪Y cm以上の日数
・降雪量の月合計
・降雪量日合計 Z cm以上の日数

・風向、風速(時別)
・日/月平均風速
・日/月最大風速(風向)

・日/月瞬間最大風速(風向)
・日/月最多風向
・日最大風速 V m/s以上日数

湿度/気圧

・現地気圧(時別)
・海面気圧(時別)
・相対湿度(時別)
・蒸気圧(時別)

・日/月平均現地気圧
・日平均/日最低/月平均/月最低海面気圧
・日平均/日最小/月平均/月最小相対湿度
・日平均蒸気圧

 

※ X = 0.0、0.5、1、10、30、50、70、100から選択

※ Y = 0、3、5、10、20、50、100、200 から選択

※ Z = 3、5、10、20、50、100 から選択

※ V = 10、15、20、30 から選択

 

4日最高気温が25℃以上の日

5日最低気温が0℃未満の日

 

コラム

気候変動とは

気候は定常的なものではなく、太陽活動の変動や火山噴火などの自然の影響、温室効果ガスの排出や森林伐採など人間活動による影響により変化、変動しています。このような変化や変動を広く「気候変動」と呼びます。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書では、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことに疑いの余地はなく、大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において広範囲かつ急速な変化が現れていることが示されました。

16 日本における年平均気温の1991~2020年平均からの差

図 16 日本における年平均気温の1991~2020年平均からの差

出典:気象庁ホームページ
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html

この気候変動の代表的な事例としては、気温の上昇や降水の変化が挙げられます。例えば、日本の年平均気温は100年当たり約1.28℃の割合で上昇しています。

この気温上昇や降水の変化といった気候変動は、今後も進行していくと考えられています。下記では、21世紀末において予測されている気温と降水の20世紀末からの変化を示します。なお、ここで示す予測は、温室効果ガスの排出が比較的少ないシナリオ(RCP2.6:パリ協定の「2℃目標」が達成された状況下であり得るシナリオ)と温室効果ガスの排出が最も多いシナリオ(RCP8.5:厳しい温暖化対策をとらない場合のシナリオ)に基づいています(p.33参照)。

● 気温

・年平均気温は、全国平均で1.4℃(RCP2.6)、4.5℃(RCP8.5)上昇するなど、全国的に有意に上昇する。

・猛暑日や真夏日のような暑い日の日数も全国的に有意に増加する(猛暑日は、全国平均で2.8日(RCP2.6)、19.1日(RCP8.5)増加)。

・冬日のような寒い日の日数は、全国平均で16.7日(RCP2.6)、46.8日(RCP8.5)減少するなど、全国的に有意に減少する。 

 

● 降水

・大雨、短時間強雨の年間発生回数は全国的に有意に増加する(1時間降水量50mm以上の短時間強雨の頻度は、全国平均で約1.6倍(RCP2.6)、約2.3倍(RCP8.5)に増加)。

・雨の降らない日も全国的に増加する(RCP2.6では有意な変化は予測されず)。

 

出典:日本の気候変動2020(令和2年、文部科学省・気象庁)、IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書政策決定者向け要約(令和3年、IPCC)、気象庁ホームページを基に作成

 

 

コラム

気候の将来予測とは

将来の気候予測は、「気候モデル」を用いて計算します。また、この「気候モデル」による計算では、前提条件として「排出シナリオ」が設定されています。

<気候モデルとは>

大気や海洋などの中で起こる現象を物理法則に従って定式化し、計算機(コンピュータ)によって擬似的な地球を再現しようとする計算プログラムです。気候モデルの計算は膨大な量であるため、計算にはスーパーコンピュータ(地球シミュレータ等)を使います。

<排出シナリオとは>

人間活動に伴う温室効果ガス等の大気中の濃度が、将来どの程度になるかを想定したものを「排出シナリオ」と呼んでいます。この排出シナリオを気候モデルにインプットして将来の気温や降水量などの変化を予測しています。

温室効果ガスの濃度変化には不確実性があるため、いくつかの濃度変化のパターンを想定しています。現在では、主にRCPシナリオと呼ばれる排出シナリオが、国際的に共通して用いられています。

RCPシナリオには、RCP1.9、RCP2.6、RCP4.5、RCP7.0、RCP8.5等があります。RCPに続く数値は、その値が大きいほど2100年までの温室効果ガス排出が多いことを意味し、将来的な気温上昇量が大きくなります。

<排出シナリオと社会経済シナリオとの組合せ>

将来の社会経済の発展の傾向を仮定したものを「社会経済シナリオ」と呼んでいます。現在では、主にSSPシナリオと呼ばれる社会経済シナリオが、国際的に共通して用いられています。

SSPシナリオは、人口、ガバナンス、公平性、社会経済開発、技術、環境等の社会像の諸条件を示す定量・定性的な要素からなり、5つの代表的なシナリオで構成されます。

17 SSP1~SSP5のコンセプト

図 17 SSP1~SSP5のコンセプト

 

RCPシナリオとSSPシナリオを組み合わせることにより、各社会像において取り組まれる気候変動対策に応じた気候変動の程度等を予測することができます。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書では、以下のように、将来起こり得る展開として、SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP3-7.0、SSP5-8.5の5通りの組合せで評価しています(SSPx-yのうち、xはSSPシナリオ、yはRCPシナリオ)。

18 排出シナリオ別の21世紀末における1850~1990年の世界平均気温からの気温上昇量(最良推定値、括弧内は可能性が非常に高い範囲)

図 18 排出シナリオ別の21世紀末における1850~1990年の世界平均気温からの気温上昇量(最良推定値、括弧内は可能性が非常に高い範囲)

 

<不確実性>

気候モデルを用いた将来予測には、必ず一定程度の「不確実性」が含まれます。つまり、将来予測は確実ではありません。

例えば、今世紀末の世界平均気温を予測する際、その結果は「20世紀末と比べて2.6-4.8℃上昇する可能性が高い」という具合に、ある幅を持った数値で表現されることが一般的です。数値が幅を持つということは、気温の予測がそれだけの「不確実性」を持つということを意味します。

仮に、気候モデルがどれほど精緻な計算を行うことが可能だとしても、条件である排出シナリオの設定が現実のものと異なれば、計算結果は現実と異なることになります。

気候変動の将来予測結果には、気候モデルや排出シナリオなどにそれぞれ不確実性が含まれていますので、取り扱う際には十分留意してください。

 

出典:

IPCC report communicator ガイドブック~WG1基礎知識編~(平成27年、環境省)、

地方公共団体における気候変動適応計画策定ガイドライン(初版)(平成28年、環境省)、

21世紀末における日本の気候(平成27年、環境省・気象庁)、

国立環境研究所ホームページ

https://www.nies.go.jp/kanko/news/33/33-6/33-6-05.html

https://www.nies.go.jp/whatsnew/20170221/20170221.html)、

気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~(平成30年、環境省・文部科学省・農林水産省・国土交通省・気象庁)、

IPCC第6次評価報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約(令和3年、IPCC)を基に作成

地域気候変動適応計画策定マニュアル

はじめに
1. 地方公共団体による気候変動適応の推進と地域気候変動適応計画
2. 本マニュアル及びツールの使い方
3. 地域気候変動適応計画の策定/変更
4. 国立環境研究所気候変動適応センターによる支援

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