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【STEP 5】 既存施策の気候変動影響への対応力の整理

地方公共団体において優先度の高い気候変動影響を対象に、それぞれに関連する既存施策の情報を収集し、将来影響への施策の対応力を整理します。

地方公共団体が実施している施策の中には、気候変動影響への適応に資するものもあると考えられます。庁内の行政資料や計画を参照したり、庁内の関係部局に施策について問い合わせることで、STEP4で優先的に取り組むと判断された気候変動影響に関する既存の施策を整理します。

参考となる行政資料や計画は表 16(p. 46)を参照してください。

庁内から情報収集を行う際に、それぞれの施策に関連する基準値(●mm/hの降水量に対応可能な設計等)や、進捗状況を確認するための測定指標や目標についても、併せて情報を収集し整理します。

 

適応策は、現在既に生じている影響に加え、予測されている将来の気候変動影響にも対応する必要があります。そのため、既存施策が将来の気候変動影響に対して、十分な対応力を持っているか、あるいは持っていないため追加的な適応策を検討する必要があるかなど、適応策を検討するための方向性を整理することが重要です。

対応力の検討は、図 40に示すフローで実施することが考えられます。この図では、既存施策の将来影響に対する対応に応じた施策検討・見直しの方向性の例を示しています。

 

なお、一つの気候変動影響に対する既存施策が複数ある場合は、複数の施策を合わせて、影響の将来の変化に対応できるかを総合的に判断します。

40 STEP5の実施フロー

図 40 STEP5の実施フロー

 

ひな型編 4.1.3 分野・項目別の主な基本施策

事例

既存施策の対応力の整理

①埼玉県「地球温暖化対策(適応策)の方向性」

埼玉県は、令和2年3月に「地球温暖化対策(適応策)の方向性」を公表しており、この中で関連既存施策等の現状(C-2列)を点検し、「○:速やかに着手・検討(取り組むこと、構築)が必要」と「△:着手・検討(取組、構築)の加速化が必要」、「□:順調・対応済み」、「-:現状では評価できない」の4つの方向性を用いて整理し、記載しています。

41 埼玉県における影響評価結果及び既存施策等の点検結果一覧

図 41 埼玉県における影響評価結果及び既存施策等の点検結果一覧

出典:地球温暖化対策(適応策)の方向性(令和2年、埼玉県)

 

②東京都千代田区「千代田区気候変動適応に関する検討(案)」

東京都千代田区では令和3年11月に「千代田区気候変動適応計画2021」を公表しており、その検討過程で既存施策の対応力の整理を実施しています。その際、独自の判断基準を工夫し、既存施策の中から対応力の強化が必要と思われる分野を特定し、追加的施策として策定しています。同区では、熱中症と洪水・内水等に施策を追加しました。

42 千代田区における既存施策の対応力の判断と、その結果一覧

図 42 千代田区における既存施策の対応力の判断と、その結果一覧

出典:千代田区気候変動適応に関する検討(案)(令和2年、東京都千代田区)

 

追加事例

庁内での適応に資する既存施策の情報収集

※追加事例は、国立環境研究所が本マニュアル策定後(令和5年9月)に追加した事例です。

北海道函館市「第2次函館市地球温暖化対策実行計画(区域施策編)」

北海道函館市は、令和5年1月に策定した「第2次函館市地球温暖化対策実行計画(区域施策編)」で、庁内から適応に資する既存施策を以下の手順で情報収集しています。

まず計画策定担当者が、他の地方公共団体の調査等を参考に、市に関係すると思われる項目を抽出し、適応に関連する施策として一覧表でまとめています(下表)。

関連部局にこの一覧表の確認を依頼し、回答を整理した上で「気候変動の影響に対する適応策」としてまとめています。

 

         
一覧表の項目

(適応策の)分野

気候変動による変化(予測されるメリット・デメリット)

現在の取組状況と今後の対応方針

関連する計画・事業・施策等

部局名

 

出典:第2次函館市地球温暖化対策実行計画(区域施策編)(令和5年、函館市)

栃木県高根沢町「高根沢町気候変動適応計画<第0.1版>」

栃木県高根沢町では、令和5年1月に策定した「高根沢町気候変動適応計画<第0.1版>」において、庁内から適応に資する既存施策を以下の手順で情報収集しています。

まず、計画策定担当課において、各課職員と話したり、予算情報を確認したり、町の発行する計画を確認したりすることで、関係各課の潜在的適応策を洗い出しています。その後、全庁に対して、照会用のシートを作成しています。照会用のシートは課ごとに作成し、適応策として考えられる施策を記入した上で、各施策に関連する要綱、ルール等を埋めてもらう形式になっています。

出典:高根沢町気候変動適応計画 <第0.1版> (令和5年、高根沢町)

神奈川県鎌倉市「鎌倉市地球温暖化対策地域実行計画(区域施策編)」

神奈川県鎌倉市では、令和4年5月に改訂した「鎌倉市地球温暖化対策地域実行計画(区域施策編)」で、庁内から適応に資する既存施策を以下の手順で情報収集しています。

まず、適応に資する既存施策について、施策名、実施主体、施策の概要、関連計画を記入するシートを全庁に対して配布し、記入を依頼しています。その際、適応に資する施策を実施していることを事前に把握していた部局に対しては、回答するよう前もって声かけを行っています。また、事業が適応策に該当するかの問い合わせを受けた際は、当該部局に事業内容の聞き取りを行い判断する、といった工夫をしています。

照会結果を回収した後、担当部局でその施策が適応に該当するかの確認を行い、最終的な適応施策の選定を行っています。

出典:鎌倉市地球温暖化対策地域実行計画(区域施策編)(令和5年、鎌倉市)

香川県「第4次香川県地球温暖化対策推進計画」

香川県では、令和3年10月に策定した「第4次香川県地球温暖化対策推進計画」で、庁内横断的な適応策の検討のため、情報共有や意見交換を行うワーキンググループを設置し、適応に関する理解を深めるための勉強会やセミナーを開催するとともに、気候変動影響の情報や適応策について3回に分けて情報収集、整理しています。

第1回では、気候変動によりすでに生じている影響と将来予測される影響について確認を行いました。その結果を受け、第2回では、影響評価と適応の要素を持つ既存施策の抽出を行い、第3回では、県としての適応の方針について検討を行っています。

出典:第4次香川県地球温暖化対策推進計画(令和3年、香川県)

秋田県「第2次秋田県地球温暖化対策推進計画(改定版)」

秋田県では、令和4年3月に改定された「第2次秋田県地球温暖化対策推進計画(改定版)」で、庁内から適応に資する既存施策を以下の手順で情報収集しています。

計画策定担当課が収集した気候変動影響の情報を庁内の各部局に配布し、それらの影響に対してどのような対策を行っているか、情報収集を行っています。情報収集の際は、庁内会議において、計画改定に向けた調整を行い、各部局で行っている施策の取りまとめを依頼しています。また、対応する施策が無い場合は、個別に説明して情報を収集しています。

出典:第2次秋田県地球温暖化対策推進計画(改定版)(令和4年、秋田県)

 


情報整理シートの記入例

表 30 STEP5(例:農業・林業・水産業分野)

 

【STEP2】
これまでの気候変動影響の整理

【STEP3】
将来の気候変動影響の整理

省略

【STEP5】
既存施策の気候変動影響への対応力の整理

分野

大項目

項目

2-1

2-2

2-1が将来どのような状況になるのか整理

5-1

5-2

これまでに生じていると考えられる気候変動影響を整理

2-1の原因となる気象現象を整理

・2-1への既存施策や過去の対処方法を整理
・施策の立案の基準となった数値があれば整理

既存施策がSTEP3へ十分に対応力を有するのか整理

農業・林業・水産業

農業

水稲

水稲における一等米比率の低下
(出典:農業振興計画)

高温
(出典:農業振興計画)

・気候変動に伴う気温の上昇により水稲の一等米比率が低下する可能性がある
(出典:農業振興計画)

・高温対策栽培技術(移植時期の変更や適切な水管理)の普及
【農林水産部、○○計画】

・高温耐性品種の試験的導入
【農林水産部、○○計画】

現状の施策では、十分な効果が認められないため、新規または追加的な施策が必要

農業・林業・水産業

・・

・・

・・・

・・・

・・・

・・・

既存対策があり、現時点で影響も生じていないため、既存の施策で十分対応可能

農業・林業・水産業

・・

・・

・・・

・・・

・・・

・・・

既存対策があるが、中長期的な可能性を考慮する必要があるため、新規または追加的な施策を今後検討

農業・林業・水産業

・・

・・

・・・

既存施策がないため、新規または追加的な施策を今後検討

 

参考

施策の設計基準等の数値の活用方法について

STEP5で情報を整理する際、施策の設計基準等、既存の施策を実施する際に基準となった数値(●mm/hの降水量に対応可能な設計等)が整理されている場合、以下の考え方を用いることで、既存施策の将来影響への対応力の確認ができます。

 

① STEP5で整理した既存施策の設計基準等の数値を確認します。

 

② STEP1で整理した将来の気候・気象情報を確認します。

 

③ 将来の気候・気象情報と既存施策の設計基準等の数値を比較し、既存施策が将来的にも対応可能であるか判断します。

● 将来の気候・気象情報が既存施策の対応可能範囲を超える場合は、追加的な適応策の検討が必要だと考えられます。

● 将来の気候・気象情報が対応可能範囲内である場合は、既存の施策で将来にも対応可能だと考えられます。

<具体例(河川)>

43 既存施策の対応力の確認事例(河川)

図 43 既存施策の対応力の確認事例(河川)

 

参考

複数の部局が取り組む(分野横断的な取組)気候変動影響について

一つの気候変動影響に対して、複数の部局がそれぞれ対策を行っている場合もあります。このような取組を幅広く整理することで、現状の適応策の把握、そして部局間の連携による気候変動影響へのレジリエンス(強靭性)を高めることにつながります。

以下に、部局間の取組を整理している事例を示します。このようなマトリックスで整理することで、それぞれの部局の取組が明確になり、部局間の役割分担や連携の方法、今後強化すべき施策等について、議論を深めることができます。

表 31 各部局における取組の整理例

分野横断施策における情報整理シートの記載例

表 32 分野横断施策における情報整理シートの記載例

【STEP2】
これまでの気候変動影響
の整理

省略

【STEP5】
既存施策の気候変動影響への対応力の整理

分野

大項目

項目

2-1

2-2

5-1

5-2

これまでに生じていると考えられる気候変動影響を整理

2-1の原因となる気象現象を整理

・2-1への既存施策や過去の対処方法を整理
・施策の立案の基準となった数値があれば整理

既存施策がSTEP3へ十分に対応力を有するのか整理

自然災害・沿岸域

河川

洪水

19XX~20YY年で、●●全域にて洪水被害が●回発生

大雨

・浸水防止装置の設置
【交通局、○○計画】

・・・

・防災訓練の実施
【総務局、○○計画】

 

地域気候変動適応計画策定マニュアル

はじめに
1. 地方公共団体による気候変動適応の推進と地域気候変動適応計画
2. 本マニュアル及びツールの使い方
3. 地域気候変動適応計画の策定/変更
4. 国立環境研究所気候変動適応センターによる支援

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