簡易的な水害リスク評価手法の開発

アジア航測株式会社

業種:学術研究、専門・技術サービス業
掲載日 2023年3月31日
適応分野 自然災害・沿岸域

会社概要

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アジア航測株式会社は自然災害発生に伴う計測や情報発信、森林など自然環境資源の保全や育成、再生可能エネルギー事業への参入、社会基盤施設の計画や設計など、空間情報をベースとした防災、環境、社会基盤のコンサルティングを行っている会社である。

気候変動による影響

近年、台風や集中豪雨によって、想定を上回る規模の洪水災害が全国各地で多数発生し、甚大な浸水被害が報告されている。将来、気候変動が進行することで、これらの洪水災害や浸水被害の深刻さが増していく可能性がある。甚大な浸水被害が想定される河川では洪水浸水想定区域が公表され、洪水時の危険性が周知されつつあるのに対し、都道府県が管理する多くの中小河川では洪水浸水想定区域が検討・公表されておらず(注1)、地域住民が避難行動を判断する際に重要な情報が周知されていない。

適応に関する取り組み

洪水時の円滑かつ迅速な避難行動のためには、中小河川においても豪雨時に想定される浸水範囲、浸水深、浸水継続時間および家屋倒壊の危険性などの水害リスク情報を早急に整備・公表することが求められる。

そこで当社は、航空レーザ計測により河道や堤内地の地盤データ(注2)を取得し、それらのデータを活用した簡易的な浸水想定手法を開発した(図1)。さらに、同手法をもとに水害リスク情報のうち、浸水範囲や浸水深を示す「水害危険情報図」を作成した。

開発した手法では、「流量変化点」「河道横断地形」「山付きなどの河川の平面的な地形」「人家の分布状況」「氾濫しやすさや氾濫した場合の影響」を踏まえ、浸水範囲への影響が大きい地点にのみ氾濫想定地点を絞り込むことで、浸水解析のケース数を抑えた。また、浸水解析ツール(注3)とGIS(注4)を組み合わせることで、浸水解析のインプットとなる標高とアウトプットとなる浸水深を座標値込みのメッシュ情報として整理し、解析から解析結果の表示までの作業を効率化した。

水害危険情報図は、河川整備において基本となる降雨[L1]と想定し得る最大規模の降雨[L2]に分けて、それぞれの場合における浸水のしやすさを示した図である(図2、図3)。避難行動や地域防災計画などでの活用が想定されるため、浸水深のランクや配色はハザードマップなどで馴染みのある洪水浸水想定区域図と同じ表示方法としたことに加え、降雨量や地盤データなどの解析条件、すでに公表されている洪水浸水想定区域との検討手法の違いなどについてのわかりやすい解説を記載している。

2019年、岐阜県が管理する422河川のほぼ全区間での水害危険情報図を公表したことで、中小河川の浸水リスクを高度に「見える化」した全国初の事例となった。

効果/期待される効果等

水害危険情報図は浸水深と浸水範囲を表示したものであり、浸水継続時間なども含む洪水浸水想定区域図と比べて情報が限られるものの、従来の手法(注5)より短時間で作成することができ、地域の浸水しやすさ、浸水した場合の影響などを知るうえで有効な資料になると期待される。今後も、簡易的な浸水想定手法に改良を加え、河川の状況に応じた水害リスク情報の整備を支援し、洪水被害の防止や軽減に貢献していく。

簡易浸水想定手法の概要および従来型解析手法との比較
図1 簡易浸水想定手法の概要および従来型解析手法との比較
計画規模[L1]における水害危険情報図の作成例
図2 計画規模[L1]における水害危険情報図の作成例(岐阜県 津保川)
(出典:岐阜県 洪水浸水想定区・水害危険情報図一覧 https://www.pref.gifu.lg.jp/page/20630.html
想定最大規模[L2]における水害危険情報図の作成例
図3 想定最大規模[L2]における水害危険情報図の作成例(岐阜県 津保川)
(出典:岐阜県 洪水浸水想定区・水害危険情報図一覧 https://www.pref.gifu.lg.jp/page/20630.html

脚注
(注1) 中小河川では浸水想定区域の検討に必要な河道データが全区間で整備されていることは少なく、浸水解析に使用できるデータが限られるうえ、極めて数が多いため、多大なコストや労力を要する。
(注2) 地盤データは従来手法の25mメッシュよりも細密な10mメッシュに設定し、堤内地と堤外地の標高差、道路盛土などの現地形を精度よく表現し、地形による浸水の有無を可視化した。さらに、近年の水害実績がある河川や既存の洪水浸水想定区域との境界部では、それらの浸水範囲や浸水深情報を使って検証し、簡易浸水想定区域の再現精度を高めている。
(注3) 浸水解析ツールとは、河川からの氾濫水や降雨・流出等によって生じる浸水現象を再現・予測するものである。本紙で紹介する簡易手法では、河道内の流況や排水施設の影響は考慮せず、氾濫原を対象とした二次元不定流計算により、浸水範囲や浸水深を計算している。
(注4) 地理情報システム(GIS:Geographic Information System)は、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術である。(国土地理院「GISとは...」 https://www.gsi.go.jp/GIS/whatisgis.html より)
(注5) 水位周知河川などを対象とした従来の洪水浸水想定区域は、実測に基づく河道縦横断データや堤内地標高データを用いて、河道と氾濫原の一体的な浸水解析により検討している。

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