輸送サービス事業における物理的リスクの低減に向けた取組みの強化と推進

東日本旅客鉄道株式会社

業種: 運輸業、郵便業
掲載日 2022年7月27日(注1)
適応分野 産業・経済活動

会社概要

東日本旅客鉄道株式会社ロゴ

東日本旅客鉄道株式会社は発足以来、「鉄道の再生・復権」に取り組むとともに、生活サービスやIT・Suicaなどの事業フィールドの拡大に努めており、2018年に発表したグループ経営ビジョン「変革2027」では、「鉄道起点」から「ヒト起点」にビジネスストーリーを転換し、新たな成長戦略を推進するという基本方針を打ち出している。

気候変動による影響

当グループは、異常気象や激甚化する災害(突風・豪雨等)など、安全を脅かす様々なリスクにフォーカスし、「究極の安全」を追求する為の経営ビジョン「変革2027」を策定し、ESG経営の実践を通じたSDGsの達成やTCFDのフレームワークを活用した積極的な情報開示を進めている。特に、2019年10月の台風第19号の影響により、浸水被害や新幹線の運行休止などの甚大な被害を受け、災害に対する備えが重要な課題であるという認識を強めた。

取り組み

気候変動に伴うリスクと機会には、地球温暖化の結果として生じる急性的な異常気象等の「物理的変化」に起因するものと、「脱炭素」に向かう中で生じる規制強化や技術の進展といった「移行」に起因するものが挙げられる。

主な気候変動リスクおよび機会を評価した結果(図1)を踏まえ、輸送サービス事業の「風水災等による鉄道施設・設備の損害および運休の発生」を対象とし、2050年をターゲットに、事業エリアの人口動態等に基づく旅客収入推移と自然災害による財務的影響を把握し、事業戦略の妥当性を検証するためのシナリオ分析を行った。以下にその概要を記載する。

① 当社事業エリアの人口動態に基づく旅客収入推移の試算
SSP(注2)の人口・GDP(注3)のデータをもとに(図2)、2050年までの旅客収入の推移をコロナ終息後の見通しを考慮して試算した。その結果、当社が目指す持続的発展社会(SSP1)と、その対極に位置付けられる地域分断社会(SSP3)では、2050年の人口推計において約11%の差が生じ、旅客収入推計では約3,500億円の差が生じる。

② 自然災害により生じる物理的リスクの試算
当社の主要な鉄道資産、および旅客収入の大きい路線の大部分が首都圏とその周辺に集中している。そこでこのエリアでの災害発生時に最も財務的影響が大きいと想定される計画規模降雨(注4)による荒川の氾濫シナリオを選定し、国から公表されている浸水想定と、主要路線の資産額、旅客収入推移、将来の洪水発生確率の増加(注5)を用いて、2050年までの財務的影響を定量評価した。その結果、2050年単年において、 RCP2.6(2℃)シナリオ(注6)では34億円、RCP8.5(4℃)シナリオでは、旅客収入減少額と災害復旧費用増加額の合計で40億円の財務的影響の増加が見込まれる。

効果/期待される効果等

JR東日本では、運行への影響が大きいと考えられる電気設備のかさ上げや建屋開口部への止水板の設置、車両疎開判断支援システムおよび車両疎開マニュアルの整備(注7)など、設備の重要度に応じてハード・ソフトの両面から自然災害対策を進めており、これらの効果をシナリオ分析で考慮した場合、RCP2.6(2℃)シナリオにおける財務的影響の増加額は13億円、RCP8.5(4℃)シナリオでは16億円となり(図5)、対策の有効性が確認できた。

今後は、他の主要なシナリオについても財務的影響を試算し、対策の有効性を確認していく。

リスクおよび機会の特定と評価

図1 リスクおよび機会の特定と評価

SSPの設定

図2 SSPの設定

シナリオ別営業エリアの人口推計

図3 シナリオ別営業エリアの人口推計

シナリオ別旅客収入推移

図4 シナリオ別旅客収入推移

自然災害対策による効果

図5 自然災害対策による効果

脚注
(注1) 2021年10月22日時点の公開情報に基づく。
(注2) 気候変動研究において、分野横断的に用いられる社会経済シナリオ(Shared Socioeconomic Pathways)
(注3) 人口推移データは国立環境研究所「日本版SSP市区町村別人口推計」、GDPデータはIIASA(国際応用システム分析研究所)“Global dataset of gridded population and GDP scenarios”を使用
(注4) 10~100年に1回程度の規模を想定した降雨
(国土交通省 ハザードマップポータルサイト:https://disaportal.gsi.go.jp/hazardmap/faq/faq.html#kasaneru5)
(注5) Yukiko Hirabayashi et al.(2013). Global flood risk under climate change. Nature
(注6) RCP(Representative Concentration Pathways):IPCC第5次評価報告書の代表的濃度経路シナリオ
(注7) 『JR東日本グループレポート2021』P34「浸水に関する取組み」参照;https://www.jreast.co.jp/eco/pdf/pdf_2021/all.pdf

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