TCFDの枠組みに基づくシナリオ分析(2021年度)

※本事例は、主に物理的リスクによる影響に着目したシナリオ分析を掲載する。

明治ホールディングス株式会社

業種:製造業
掲載日 2022年8月24日
適応分野 産業・経済活動

会社概要

明治ホールディングス株式会社ロゴ

明治ホールディングス株式会社は、株式会社 明治、Meiji Seika ファルマ株式会社、KMバイオロジクス株式会社を傘下に持つ純粋持ち株会社であり、食品、薬品等の製造、販売等を行う子会社等の経営管理およびそれに付帯または関連する事業を行っている。

気候変動による影響

明治グループの事業は、豊かな自然の恵みの上に成り立っており、地球環境と共に生き「自然と共生」していくことが責務であると考えている。気候変動により地球環境の持続可能性が危ぶまれており、気候変動が長期的に事業活動に与える影響(リスク・機会)も大きく、重要な経営課題となっている。一方で、国際的な枠組みである「パリ協定」や「持続可能な開発目標(SDGs)」でも、気候変動への対応強化が求められている中、TCFDへの取り組みを開始した。

取り組み

明治グループは、2019年に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」へ賛同しており、またTCFDに賛同する企業や金融機関等が連携する場である「TCFDコンソーシアム(注1)」に加入している。さらに当グループは、TCFDの枠組みに沿ったシナリオ分析と開示も開始している。以下にシナリオ分析事例を記載する。

●明治グループ全体に関するシナリオ分析
シナリオ分析では、IPCC(注2)やIEA(注3)等の情報を基に3つのシナリオ(1.5℃シナリオ、2℃シナリオ、4℃シナリオ)を設定し、現状、2030年(中期)、2050年(長期)を基準年として中長期な気候変動によるリスクと機会の分析、及び対応策を検討した。シナリオ分析結果のうち、1.5℃シナリオと4℃シナリオにおける影響の大きい主要インパクトを図1に示す。
そのうち、4℃シナリオ(物理的リスク)における主要インパクトと具体的影響の結果は以下の通りである。

  • 【洪水被害による操業停止等の機会損失】
    洪水による被害額は、過去の事例をもとに1災害あたり3億円規模を予測している。この金額は、明治グループにおける過去の洪水を伴う大雨によって発生した被害(物流網遮断等による廃棄ロス等)実績より算出した。また、洪水により機会損失が予測される拠点は、世界資源研究所(注4)が公開している世界の水リスク評価ツールである「Aqueduct」が示す結果や代替生産拠点の有無を考慮し、12拠点と予測した。
  • 【主要原材料調達への影響】
    原材料の生産地においても、気候変動による気温上昇や水リスクによって農作物の収量減少に伴う原材料単価の変化が起こることが予測される。主要原材料の生産地における収量変化や水リスク(注5)のシナリオ分析を実施した。シナリオ分析結果の概要は以下の通りである。

予測される収量変化
  • カカオ豆や砂糖の調達国では、将来的に収量が減少すると予測。一方で、明治グループのカカオ豆の主要調達地域では、2030年での影響が比較的小さく、2050年においても同様。
  • 乳への影響は、2030年、2050年においても数%の減少に留まり、飼料の配合変更等による生産性向上での対応が可能であり、リスクはそれほど大きくないと予測。
予測される水リスク
  • 水ストレスと渇水リスクは、一部の地域を除いてほとんどの地域でリスクが低いと予測。
  • 洪水リスクは、将来的にほとんどの地域でリスクが高くなると予測されるため、夫々の生産地の洪水リスクを確認した上で、改善策の検討を要する。

効果/期待される効果等

シナリオ分析の結果をもとに、洪水リスクへの対応策として、リスクの高い拠点については、現地と連携してリスク評価結果とのGAP分析により実態を把握し、BCPの観点も考慮して、適切な対応策を実施する予定である。なお、Meiji Seikaファルマ(株)小田原工場では、既に仮設止水板の導入や変電所防水堤の新設、空調室外機の予備基盤導入等の対応策を実施している。

また、主要原材料の調達コストの増加への対応策としては、以下の取組によりコストの抑制が期待されている。

商品面での対応
  • 健康価値・栄養価値の強化、サステナビリティによる社会価値創出等による商品の高付加価値化の推進
  • 商品戦略見直しによるポートフォリオの最適化
  • 価格改定による単価アップ
原材料面での対応
  • 配合変更や代替原料の使用
  • 調達国 / 地域 / サプライヤーの最適化
生産・物流面での対応
  • 効率的生産による生産性向上、購買物流の効率化
サプライヤーとの連携
  • エンゲージメント強化による調達コストダウンとリスク低減

明治グループでは、「明治グループサステナビリティ2026ビジョン」や明治グループ長期環境ビジョン「Meiji Green Engagement for 2050」を策定し、マテリアリティとKPI(注6)を設定している。気候変動に関わるリスク・機会への対応は、環境負荷低減活動の他、原材料調達等、多岐にわたるため、KPIを設定し引き続き進捗管理を実施していく(図2)。

1.5℃シナリオと4℃シナリオにおける明治グループへの影響と主要インパクト

図1 1.5℃シナリオと4℃シナリオにおける明治グループへの影響と主要インパクト

気候変動によるリスクと機会に関係するKPI

図2 気候変動によるリスクと機会に関係するKPI

脚注
(注1) TCFDコンソーシアムは、令和元年5月27日(月)に一橋大学大学院・伊藤邦雄特任教授を始めとする計5名の発起人が、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取り組みについて議論を行う場として設立された。本コンソーシアムには経済産業省・金融庁・環境省がオブザーバーとして参加している。
(注2) IPCCとはIntergovernmental Panel on Climate Changeの略で気候変動に関する政府間パネルのことであり、国際的な専門家でつくる地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のための政府間機構である。
(注3) IEAとは、International Energy Agencyの略で国際エネルギー機関のことである。
(注4) 世界資源研究所とは、World Resources Institute(WRI)のことである。
(注5) ここでいう水リスクとは、水の需給バランスの悪化を意味する水ストレス、渇水リスク、洪水リスクのことである。
(注6) KPI(Key Performance Indicator)とは、重要業績評価指標のことである。

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