TCFD提言に基づくシナリオ分析

兼松株式会社

業種:卸売業、小売業

掲載日 2023年7月6日
適応分野 産業・経済活動

会社概要

兼松株式会社は1889年創業の商社。兼松グループは「電子・デバイス」「食料」「鉄鋼・素材・プラント」「車両・航空」の4セグメントを中心とした事業領域で、国内外のネットワークと各事業分野で培ってきた専門性と、商取引、情報収集、市場開拓、事業 開発・組成、リスクマネジメント、物流などの商社機能を有機的に結合して、様々な多種多様な商品・サービスを提供している。

気候変動による影響

気候変動により、兼松株式会社の事業に影響すると懸念される事象は下記4点である。

  • サイクロンや洪水など異常気象の激甚化
  • 平均気温の上昇
  • 降水パターンや気象パターンの変化
  • 海面上昇

これらの事象によって、設備や施設への被害、サプライチェーン分断による売上機会の損失、拠点の移転コストなどが懸念される。

取り組み

当社は、2021年6月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に賛同し、2022年6月よりシナリオ分析とインパクト評価、対策の検討結果を開示している。その概要は下記の通りである。

  • シナリオ分析対象事業の選定
    当社グループにとっての影響度を売上高の定量的側面を軸に分類し、気候変動に関する定性的影響および定量的影響の大きい北米牛肉事業と鋼管事業を選定した。
  • 気候シナリオの選定
    シナリオ分析に際して、国際機関の情報等を参照(注1)し、2030年と2050年を対象に4℃シナリオ(注2)、2℃未満シナリオ(注3)を選定した。
  • 気候関連のリスクと機会の影響度
    各シナリオについて、対象事業(北米牛肉事業および鋼管事業)の収益または費用に対するインパクトを、次の定量的基準の大、中、小で評価した(図1、注4)。
  • シナリオ分析結果
    1. 北米牛肉事業
    2. 機会: 新技術の開発・普及に伴う新たな機会(植物由来肉)など

      物理的リスク: 平均気温上昇による飼料・牧草の価格上昇など
      物理リスクによる影響として、いずれのシナリオでも、サイクロンや洪水など異常気象の激甚化によって、飼育設備、加工・保管施設への被害と売上機会の損失が、また平均気温の上昇によって飼料・牧草の価格上昇が比較的大きいと評価された(図2)。

    3. 鋼管事業
    4. 機会: 新技術の開発・普及に伴う新たな機会(CCUS、EOR)など(注5)

      物理的リスク: サイクロンや洪水など異常気象の激甚化による工場の被災など
      物理リスクによる影響として、ハリケーンIda、ハリケーンCatrina相当の災害による、自社工場の被災による売上機会の損失、サプライチェーンの分断による売上機会の損失が、また4℃シナリオでの2050年には海面上昇による、加工拠点の移転コストが比較的大きいと評価された(図3)。

      移行リスク: 化石燃料の需要減少
      移行リスクによる影響として、2℃未満シナリオにおいては化石燃料の大幅な需要減少に伴い油田開発の減少が見込まれることから、売上の低下が比較的大きいと評価された(図3)。

効果/期待される効果等

シナリオ分析の結果、対象とした2つ事業いずれにおいても、リスクと機会が存在し得ることが明らかになった。
兼松グループは、分析結果を踏まえ、気候変動を機会と捉えて事業戦略を策定し、2024年3月期までの6か年中期ビジョンの重点施策として環境等をテーマとする事業分野での投資を推進している。 さらに、近年積極的に推進している森林保全事業や2国間クレジット事業により、当社グループが創出するクレジット、またはクレジット化予定のCO₂削減貢献量をCO₂排出量と早期に均衡させる(カーボンニュートラル、注6)ことを目指す。さらなる目標として、排出量を上回る水準(カーボンネガティブ、注7)を目指して取り組み、わが国および国際社会に貢献し続ける企業グループであり続ける。

財務インパクトの凡例
図1 財務インパクトの凡例
北米牛肉事業におけるインパクト評価結果と対策
図2 財務インパクトの凡例
鋼管事業におけるインパクト評価結果と対策
図3 鋼管事業におけるインパクト評価結果と対策

脚注
(注1) シナリオの参照資料:World Energy Outlook 2022、Net Zero by 2050 Roadmap for the Global Energy Sector、IPCC第6次評価報告書
(注2) 以下のシナリオを含む:
(a)導入済みまたは既に公表されている政策が実施されるシナリオ
(b)各国政府による発表済みの誓約が期限通りに完全に達成されるシナリオ
(c)化学燃料が主要なエネルギー源であり続け、温室効果ガス排出量が増加を続けるシナリオ
(注3) 以下のシナリオを含む:
(a)世界のエネルギー部門が2050年までに CO₂ネットゼロを達成するシナリオ
(b)SDGs目標の達成に向けた進展が世界的にみられ、世界のエネルギー需要が再生可能な資源で充足されるシナリオ
(注4) 定量的基準:
(大)10億円以上
(中)5億円以上、10億円未満
(小)5億円未満
(―)定性的評価に留めたもの
(注5) CCUS: Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage、CO2回収と利用もしくは地下貯蔵、EOR: Enhanced Oil Recovery、石油増進回収技術
(注6) カーボンニュートラルとは、当社グループが排出したCO₂排出量(Scope1,2)と当社および当社グループによる森林保全事業や2国間クレジット事業で創出したクレジット、あるいは削減貢献量と均衡する状態を指す。
(注7) カーボンネガティブとは、当社グループが排出したCO₂排出量(Scope1,2)を、当社および当社グループによる森林保全事業や2国間クレジット事業で創出したクレジット、あるいは削減貢献量が上回る状態を指す。

出典・関連情報

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