インタビュー適応計画Vol.2 兵庫県

県内各地域との相互交流で適応策に広がりを持たせる

県内各地域との相互交流で適応策に広がりを持たせる(兵庫県)

兵庫県では、国の適応計画の策定前から県独自に適応策を進め、平成29年3月に適応策の基本方針を盛り込んだ『兵庫県地球温暖化対策推進計画』を策定しました。これまでの動きと、3年後にひかえた『適応計画』策定への取り組みについて、温暖化対策課課長・小塩浩司さんと副課長兼推進班長・吉村陽さん、計画班主査・仲川直子さんにうかがいました。

先行している他府県に倣って15行からのスタート

前計画の『第3次兵庫県地球温暖化防止推進計画』に適応策を位置付けようと思われた背景と策定までの経緯をお聞かせください。

写真:上:仲川さん、下:小塩さん

仲川さん:平成26年3月にこれを作ることになったとき、すでに「適応策」に取り組んでらっしゃる都道府県さんがおられたのですね。東京都さんですとか、埼玉県さんですとか。それで「全く何も盛り込まず、このまま策定してしまっていいのか」という話が策定間際に出てきまして。急きょ他府県さんの情報を集めて、これなら本県でもできそうだという取り組みを3つ掲げさせていただきました。それが①既存施策の体系化、②庁内連携体制の構築、③情報発信です。最初の作業としましては、庁内の施策から「適応策」に当たりそうなものをピックアップし、その施策の担当各課室に、当時の担当者が「庁内検討会に入ってほしいこと」「施策体系表」に入れさせてもらいたいこと」の2点をお願いして回りました。

小塩さん:まったくのとっかかりなのでね。当時は「適応策」という言葉自体、県庁内でもほとんど認知されていない状態だったので、取組内容もわずか15行程度。そこからスタートせざるをえなかった、ということです。

仲川さん:まだ国の適応計画ができる前でしたので、①の取り組みとしてとりまとめた体系表の施策の数もいまの半分くらいですかね、確かA4一枚に収まっていましたから。

図:これまでの地球温暖化対策に関する計画と新計画の対象期間

ご自身たちも「適応策」の知識がないなか、関連部局の協力を得なくてはならないということでご苦労も多かったのではないでしょうか。

仲川さん:当時の担当者によると、ひとつの担当課に1時間以上話して回ったそうです。最初はどこも「これは気候変動を見すえた施策ではないです」という反応で。でも同じ県の職員同士ですし、「いまある施策をそのまま体系化するだけなので、これから気候がどうなっていくか一緒に勉強しましょう」という誘い方をしたので「それくらいなら」という感じになっていきました。積極的に、「行くよ」という担当課はあんまりなかったみたいですけど。

小塩さん:農林、土木、災害など、気象や温度に関わっている分野だと比較的すっと理解できますが、例えば観光だと「なんで暑いのが観光に影響するの?」となりますよね。われわれサイドが説明できないものを理解してもらうのはなかなか大変やったろうと思いますよ。

仲川さん:そうなのです。最初は、産業労働部の施策からわれわれが拾い出すことができなくて、施策体系に加えることができず、庁内検討会の参加に声かけするだけという感じでした。庁内検討会はその年の7月に立ち上がって、これまで年に1~2回のペースで行っています。今年は6回目の検討会と県民みなさんのフォーラムを同時開催し、国立環境研究所の肱岡靖明先生にご講演いただきました。

庁内において「適応」の認知度があがった実感はありましたか。

写真:仲川さん

仲川さん:そうですね。でも国の適応計画ができたときがやっぱりワンステップあがったときです。私たちもやっとこういうのが適応策になるのだというのがわかったというか。ものすごい数だったので読むのも大変だったのですけども、それを読んで改めて本県の別のいろいろな総合計画と照らし合わせてみたら、まだまだ体系表にのってないものがあるということもわかりましたし。各部局の担当者も、「国の適応計画ではこうですよ」と説明すると、すっと納得してくれるようになりました。

兵庫県は、環境省が行う「平成27年度地方公共団体における気候変動影響評価・適応計画策定等支援事業」のモデル自治体11団体に選出されましたが、支援を受けられてみていかがでしたか。

仲川さん:この事業に参加すると、ほかの10団体の情報は必ずいただけたのですよ。こちらとしては、とにかく他府県の情報が知りたいというのがありましたので、先行されている他府県の情報をいただけたのが一番ありがたかったですね。支援事業では温暖化のどういった影響が兵庫県に及ぶかについてのかなり詳しい表も作っていただきました。自分たちでやろうと思ったら時間も労力もかけないとできませんから、お願いして出来上がってくるというのはありがたかったです。

「想定外を想定内に」防災の視点を生かして

国の適応計画にない「防災体制」という項目を独自に設けている点が兵庫県の最大の特徴だと思われます。特に兵庫県住宅再建共済制度「フェニックス共済」はほかに例を見ない取り組みですが、「防災体制」を項目立てした経緯とその思いについてお聞かせください。

左:吉村さん、中:小塩さん、右:仲川さん

仲川さん:27年度に「防災」から異動してきた担当者がおりまして、災害時の情報発信など私たちがあまり知らなかった防災の施策を全部知っていたということが大きかったですね。

小塩さん:阪神淡路大震災以降、兵庫県は関西広域連合のなかでも防災をリードする立場をとっており、人材、予算ともにそれだけつぎ込んできた経緯がありましてね。彼らには想定外をできるだけ減らそうという意識があるのです。想定外というのは、ある意味行政の言い訳、言い逃れかも知れないと。「想定外のものを想定内にするんや」ということでずっと取り組んできて、そのなかで防災を充実させてきたわけです。しかし、どんなにハードを整備して、どんなにソフトでケアしていったとしても、やっぱり災害ですから想定外のことが起こりうると。それをフォローするためには、「フェニックス共済」のような保障制度を県独自で作っていかなければならないというようなところまで追い込まれてたんだと思うのですよ。

そういう意味では温暖化対策もまったく一緒で、温暖化が進めばいままで想定内だったことが想定外になってくる。そういうことがどんどん年を追うごとに起こってくるわけで、彼らの防災に向かう姿勢そのものがまさしく温暖化に対する対応そのものかなということもありまして、ここはやっぱり売りにすべきやろうと。ですから適応策として何かを作ったというよりも、すでにあったものをパッケージングして適応策として打ち出させてもらったといいますか。われわれ温暖化対策課の成果ではなくて、兵庫県が先進的に取り組んでいたものが、いま適応策という切り口ができたゆえにそういう評価をしてもらえるようになったのじゃないかなあという気はしますよね。

フェニックス共済とは?

「防災体制」としては、ほかにも防災システム運営などユニークな取り組みが行われていますが、外国人向けの情報発信ツール「ひょうご防災ネット(ひょうごEネット)」を適応策として盛り込んだ理由をお聞かせください。

小塩さん:これは、阪神大震災の強烈な教訓ですね。やっぱり、避難されていた外国人、被災されていた外国人に対して情報が、圧倒的に届かなかったのですよ。もう、これは行政やっとるものは涙が出るほど悲しくてですね。その強烈な教訓から当然神戸市はじめ兵庫県もそうですけど、外国語を話すかたへの情報提供というのは当時からずっと課題でした。今後、外国人のかたがそういった体制に組み込まれていないと大変なことになりますよ。

去年、県民アンケートをやりましてね。「温暖化でどういうところが気になりますか」と質問したら、一番多かったのはやっぱり防災です。で、二番が農作物。この2つが突出して一番、二番。だから兵庫県の取り組みもこの2つに重点がいってるっていうのは確かですよね。

ワークショップを通じて各地域の思いをすくいあげる

今後「県民協働による温暖化影響事例調査ワークショップ」を開催予定とのことですが、これをやろうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。

グループワークのパネル

仲川さん:27年度に近畿地方環境事務所から支援の申し出がありまして、そのとき法政大学の白石信雄先生も「地元学」という適応策のワークショップを行う場所を探されていて、それじゃあということで県内2か所でのワークショップが実現しました。参加いただいたのは何らかの形で環境に関わっている県民のかたがたと、市や町の職員です。やってみて、みなさんがいろんな意見をお持ちだということ、「適応」の概念を理解していただくのが難しいということがすごくよくわかりましたので、適応に関する理解促進と県民が考えていることの吸い出し、その両方がいっぺんにできるワークショップを今度は県独自に行いたいなと思ったのがきっかけです。将来予測やシミュレーションは県レベルではできませんから、国や大学などのデータをいただく。その科学的知見が出てくるまで県ができることといったら、県民の思いをすくいあげることなのです。兵庫県は県域が広いですから、とにかく各地域の県民のみなさんの意見がほしいと思いました。

小塩さん:兵庫県でも但馬と丹波と瀬戸内と淡路島、みんな違うのですよ。瀬戸内の人は「いかなご、いつまで食べられるんやろ」と思ってるし、丹波の人は「黒大豆の枝豆いつまで食べられるんやろ」と、思ってることも違う。そういった各地域の声を拾おうと思ったら、やっぱり相互交流しかないですからね。それも兵庫県みたいに気候も含めて地域性の差が大きいところは、それぞれに相互交流をやっていかないと適応策に広がりを持たせられないのじゃないのかなというのがわれわれの結論なのです。

吉村さん:ワークショップは今年度から3年間かけて、県内9地域で実施する予定です。そのなかで、適応策について理解を深めてもらうだけでなく、温暖化の影響をどのように感じ、どんな影響に不安を感じているかを話し合ってもらい、それをそれぞれの地域の地図に落とし込んでもらおうと思っています。3年後には兵庫県全域の影響マップを完成させたいと思ってます。

仲川さん:今年度は神戸、阪神北、但馬の3地域でワークショップを実施する予定です。お住まいの地域の影響について話し合うだけじゃなくて、それに対する適応策を個人でできること、地域でできること、事業者や行政にしてほしいこと等主体別に考えてもらい、今後策定する「適応計画」に反映させたいと思っています。

「こうなったらこうします」適応の発想を浸透させていく

『地球温暖化対策推進計画』の進捗管理をされるなかで、現在課題となっていることがありましたらお聞かせください。

写真:小塩さん

小塩さん:正直な話、みなさん進捗管理には消極的です。課題に対して正解が得られればそうではないのでしょうが、適応の取り組みは期限までに正解が得られないことがほとんどですからね。「来年はもうこの産物は採れなくなる」、あるいは「産業としては成立しなくなる」というふうに、対応策のないままいわれても行政としてはやりづらい部分がありますので、進捗管理、進行管理というのは正確な意味でなかなか難しいと思いますね。もちろん、なかには成果が表れてくるものもありますので、そこについてはできるだけ公表してもらえるように各部局にはお願いをしている最中です。最近は、徐々に適応策として認知されつつあるので、これまで「風評被害につながる」とか「産業自体不利益を被る」という理由で出してもらえなかったデータもかなり公開してもらえるようになりました。そういったことをわれわれとしては浸透させていって、ゆくゆくはきちっとした検証につながるような形にもっていきたいなと思っております。

施策を実施していくには当然ながら予算が大きく関わってきますが、各部局で気候変動を見すえて予算を確保したり、施策を打ち出していったりするなかで形になって出てきたものはありますか。

仲川さん:いまはまだですね。例えば河川整備にしても使うのはたぶん過去データに基づく数値だと思います。それが、将来予測に基づく数値を活用するように変わっていけば、県でもそういう整備になっていくのだと思います。

小塩さん:ここにあげてる計画はうちが計画を作る前にできたもので、「将来の気候変動に備えて段階的にこういう整備をしていきます」といった仕立てにはなっていないのです。そういうことも含めて、各部局でも計画づくりの際から適応の観点を加えてくださいよ、という意識改革を庁内検討会やらフォーラムの機会を通じて県幹部に訴えているのが現状ですね。

いまのわれわれの計画とか予算のとり方というのは、「こうだから、こうします」なのです。これは、過去を振り返っての視点なので非常に理解しやすい。でも、適応の場合は「10年後にこうなったらこうします。20年後にはこうします」というように段階をおって施策を発展させていくといった発想なので、これを県レベルで具現化していけるようにするのがひとつの目標です。ですから、次の基本方針を越えて2020年策定予定の『適応計画』に昇華していく段階では、防災の計画であろうと、河川災害の計画であろうと、豪雨に対する計画であろうと、そういう発想でもって作りこみをしていかないと将来の温暖化に適応できない計画になる、という考えをわれわれは浸透させていく必要があると思います。

写真:淡路島からみた神戸の風景

淡路島からみた神戸の風景

この記事は2017年9月14日の取材に基づいて書いています。
(2017年12月22日掲載)

ページトップへ