気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)
パソコンの検索マーク
携帯の検索マーク
インタビュー適応策Vol.18 北海道

Eco-DRR(生態系を活用した防災・減災)を活かした街づくり

取材日 2020/9/14
対象 北海道大学大学院生態系管理学研究室 中村太士教授

北海道大学生態系管理学研究室における、中村先生の研究内容についてお聞かせください。

テーマは大きく分けると3つ「自然資源の持続的な利用」「生物多様性の保全」「生態系の再生」です。具体的に行っている一部の事例を紹介します。まず、気温上昇に伴って水温が上昇する河川と、気温の変化の影響を受けにくい湧水河川の両者による、生物相の違いの研究です。魚はもちろん、季節ごとの羽化昆虫量の変化による食物連鎖などを通して、湧水河川と通常の河川が流域に存在する意味を深掘りしています。
もうひとつは、グリーンインフラについて、人口減少により道東や道北で農地の放棄地が増えており、その結果、失われていた湿地植生が復活し始めています。それにより起こる、鳥をはじめとする生態系の変化や、地域経済も踏まえた上で災害に対して寄与できるような放棄地の使い方の検証を行っています。

日本におけるEco-DRRの取組についてお聞かせください。

私が関わったモデルケースのひとつに、舞鶴遊水地があります。石狩川は、千歳川からの水が合流して日本海に流れています。石狩川の水位が高い時に遊水地が水を一旦貯留し、水位が落ちた時に吐き出します。当初は洪水対策を目的として作られましたが、結果的に大きな湿地となり、失われた生態系がよみがえることで、今年初めてタンチョウの繁殖に成功しました。OECM(Other effective area-based conservation measures)の拠点としても、遊水地が機能するということがわかったのです。
また2016年の北海道豪雨では、釧路湿原がいったん水を吸収して川の水位上昇を防いだおかげで、大被害を免れたという例があります。生物多様性を保全するためにも非常に重要な場所ですが、Eco-DRR(Ecosystem-based disaster risk reduction)としても機能しており、地域住民もこの事例によって釧路湿原の重要性を理解するきっかけとなったようです。

気候変動や人口減少下におけるEco-DRR等の推進について、自治体や地域気候変動適応センターが取り組む際に必要とされるリソースや工夫点をお聞かせください。

気候変動が一因で起こる災害については、それを日常にどう受け入れるかを考えることです。適応策の出口を私たちのQOL(Quality of Life)の向上とするならば、例えばダムを作ったり、川幅を広くしたりということも大切ですが、「こういう地域にしたい」という目的をはじめに立て、バックキャスティングでこの街に必要な適応策を考えていくという方法が適当なのではないでしょうか。
都市部においては、川が氾濫した時に湿原に吸収させて被害を回避するといった選択肢はほとんどありません。湿原を造成できる土地がないからです。しかし都市部でも、雨水浸透や屋根での貯留などはできます。まずは、その地域について考え、基幹産業や人口、街が抱えている問題について、様々な関係者と議論することです。例えばこの町で洪水が起こったら何がどう大変なのかなどを明らかにした上で、地域づくりと共に適応策を考えていくことが重要なのだと思います。

そういった議論は、自然発生的に出てくるべきとお考えでしょうか。

補助事業からスタートさせるやり方もあると思いますが、それは例えば生物多様性やバイオマスエネルギーのモデル地域認定など、目的ありきで行われるものだと考えます。そうなると、一部にターゲットを当てた議論になってしまい、結局上手く機能しないこともあり得るでしょう。コップを横から見ると長方形で、上から見ると円であるように、多様な側面があるのに一方向からしか物事を見ないで地域に当てはめてしまうと、地域全体がギクシャクしてしまいます。地域住民も「私とは関係がない話題が展開されている」と思ってしまうのではないでしょうか。Eco-DRR等の推進については、一人ひとりに自分事化してもらうことこそが大事なのだと思います。災害が頻繁に起きている今、この問題についての注目度はとても高いでしょう。ただ、それはあくまでも「被害をどう軽減するか」という議論が中心です。災害時の安全弁としてだけではなく、平常時にもその場所を使いながら社会経済を回していくべきですし、それは可能なことだと思います。

国の大学研究機関として取り組まれるやりがいやモチベーションは何でしょうか。

研究には、ある意味、今までクローズされていた場所を開けるような楽しさがあります。それがモチベーションになっているとは思うのですが、どこかでじれったい思いもあります。自然再生に関わると、どこまでうまく進むか結果が出るまでに相当な時間がかかります。一方で、常に成功事例を作りたいと思っています。正直、舞鶴遊水地にタンチョウが来たときも「まさか」という思いでした。こういう場所を作れば、ちゃんとタンチョウも見つけてくれるのだと思うと、とても嬉しかったです。社会経済と自然環境を、どういう形で結びつけていくか。自分の中では、今、その責務が一番大きいと感じています。日常性は社会経済がどう回るかということと表裏一体なので、それが上手くまわるように様々な課題解決に貢献していきたいと思っています。

この記事は2020年9月14日の取材に基づいています。
(2020年10月12日掲載)

ページトップへ