インタビュー適応策Vol.27 高知県

美しいサンゴを守るべく、四国太平洋沿岸でおこなわれる保全活動

取材日 2021/2/1
対象 公益財団法人 黒潮生物研究所
所長 目崎拓真
研究員 喜多村鷹也
研究員 小枝圭太

四国太平洋沿岸の気候変動影響について、現在実感されていることを教えてください。

目崎さん:私の専門であるサンゴは、近年徐々に増えてきています。パターンは大きくふたつに分かれています。ひとつは、もともとサンゴが多かった高知の西南部から、徐々に四国の広い範囲に拡大していったケース。もうひとつは、南の方からやってきた南方系のサンゴが新たに増えているケースです。

特にサンゴは海中の生物のなかでも、基本的に一度岩にくっつくと動けない生き物なので、ほかの移動性の生き物と比べて、環境の影響を受けやすいのです。その影響を乗り越えてサンゴがいまここに増えてきている現状を見ると、やはり気候変動の影響を感じざるを得ません。

サンゴのモニタリングはどのようにおこなっているのでしょうか。

目崎さん:気候変動に対する沿岸環境生態系の変化を見るという意味で、四国の33か所で定期的にモニタリングをおこなっています。サンゴの健康診断は、年に一回です。サンゴそのものがどのくらい変化したか、量がどのくらい変化したか、白化が起きていないか、オニヒトデはいないか、サンゴを食べる貝はいないか、などをチェックします。

なぜモニタリングが必要かというと、海の中は陸から眺めていてもまったく情報が入ってこないからです。基本的には現場に行って海の中を覗いて、泳いで、サンゴや生き物を観察します。その結果を記録し続けることで、肌で感じにくい変化についてもはじめて知ることがたくさんあるのです。

先ほどお話のなかに出てきた「白化」 とはどのような現象ですか?

目崎さん:夏のある一定期間、サンゴの生息する水深2〜5m付近が28℃から30℃の高水温になると、サンゴが体内で共生している褐虫藻と呼ばれる藻が失われ、白くなる白化現象が起こるのです。1998年ごろに初めて四国で記録が出始め、以来、何年かおきに一度、サンゴの白化が四国や南太平洋沿岸で確認されています。

サンゴの白化は海水温上昇の指標となっており、気候変動の影響をわかりやすく知らせてくれます。1998年は、沖縄をはじめとする日本、ひいては世界規模で白化現象が起き、注目された年でした。サンゴが増え始めている四国でも白化が始まるということは、非常に驚きだったんです。それが近年、何年かに一回という確率で起こる白化のスパンが短くなっている印象があり、そういう意味でも海水温の上昇を、サンゴを通じてより身近に感じるようになりました。また冬場の海水温上昇に伴い、越冬する生物が見られることによる、海洋生態系の生息域の変化も確認されています。

一方で四国の場合、冬季に急激に低水温となることでサンゴが大量に白くなってへい死してしまう現象も見られています。これは高水温の白化とは別で、温暖化の真逆の現象なのですが、土佐や徳島南部などで見られているのも事実です。

また、先ほど「オニヒトデ」という名前も聞かれました。これはサンゴにどのような影響を与えるものですか?

目崎さん:サンゴの増加とともに、サンゴを食べる生き物も増えていきます。その代表格が、オニヒトデです。2004年ごろから高知県西南部あたりで増え始め、現在は四国の南沿岸、特に愛媛県や徳島県の南部など、広範囲でオニヒトデによるサンゴの食害が進行しました。一部では、かなり壊滅的な被害が出ています。

気候変動との関係から見ると、オニヒトデは冬の低水温では暮らしにくいという生態があります。夏の高水温というよりは、冬の水温が下がりにくくなり、オニヒトデが越冬しやすくなったのではないかと考えられています。これまであまりオニヒトデが多くなかったところにも被害が出ていることから、駆除活動をしてサンゴ保全に取り組んでいるところです。

喜多村さん:オニヒトデ の背中には毒があり、自分から刺してくることはないにしろ、たとえば手で触れると、場合によっては死に至ります。水槽では死んだ魚をはじめ、いろいろなものを食べるとされていますが、基本的にはサンゴを食べる生き物です。サンゴのなかでも、成長の早い緑種科というグループを好んで食べることで知られています。
50m四方15分間のモニタリングで、オニヒトデが0から1個体いるのが通常ですが、近年は5から10個体いる場所もあり、大発生といえます。増えた原因は温暖化や、オニヒトデの天敵となる生き物を取りすぎることなどさまざまな説がありますが、はっきりとはわかっていないというのが現状です。

サンゴやオニヒトデ以外の魚種に変化はありますか?

小枝さん:このあたりのエリアは、黒潮が近くを流れていることもあり、昔とまったく同じ比較はできないのですが、本来は熱帯に住んでいるような南方形の魚種が近年見られるようになりました。厳密にいうといままでも見られてはいたのですが、冬に死んでいたものが、水温が以前より上がっていることにより越冬しているというような変化はあります。
ここ20年ほどで、水温が3℃程度は上がっていると言われており、それは海の中でもかなり大きな変化だと思います。

昔は、カサゴのような魚もたくさんいました。もちろんいまでも見られるのですが、メインで取れる魚とはいえず、カサゴの代わりにいまはアカハタという魚が入ってきているようです。アカハタ自体もおいしい魚で商業価値があり、いい値段がついているので、水産業としては大きな問題にはなっていないかもしれませんが、魚種の変化はあったといえると思います。

目崎さん:これまで、四国太平洋沿岸は海藻の海というのがひとつの生態系だったのですが、それが衰退したり、場所によってはサンゴが増えたりということがありました。生態系の基盤となる生物群集が変わってくると、そこに暮らす生き物も変わってきます。これまで取れていたトコブシやアワビなどが、海藻が消えることで取れなくなった場所も高知県では確認されています。そこに現在サンゴがたくさん広がっているという現状です。

では他の生物は一切住まないのかというとそうではなく、やはりその環境に合わせた生物が生息するようになります。その資源は今後、みんなで知恵を絞って利用していきたいです。やはり、これまで慣れ親しんだ魚がなくなったという意識の方が強く残るのは当然のことです。サンゴが増えたことで増えた魚を、すぐに取って食べようとはなかなかならないかもしれません。多くの人が苦労されていて、たしかに時間はかかるかもしれませんが、新たな資源をどう利用できるか、私も考えていきたいと思います。

観光業など、気候変動によるプラスの影響はあるのでしょうか?

目崎さん:サンゴが増えることによる観光面での新しい取り組みも、四国南岸の太平洋沿岸で盛んにおこなわれています。これまでは、サンゴを含めたいろいろな海の生き物を見るという目的でダイビングが大きな観光要素だったのですが、最近ではグラスボートでサンゴを覗くというアクティビティも人気です。

サンゴは蛍光発色をするので、夜グラスボートからUVライトを当てると、海の中がキラキラ光る光景が見られるのです。このように、増えたサンゴを観光業に生かすという新たな取り組みは、楽しみのひとつでもあります。

一方で、サンゴの白化も進むなか、陸上で種苗生産も実現しているとのことですが、詳しくお聞かせいただけますか。

目崎さん:黒潮生物研究所では開所以来、陸上でのサンゴの種苗作成に取り組んできました。これまでに、多くのサンゴの繁殖に成功しています。

海の中では住みにくかったサンゴや、繁殖が難しかったサンゴを陸上で増やすことで、万が一海の中で死滅してしまったとき、陸上で増やしたサンゴを海に戻せる可能性があります。

サンゴは国内で約400種類生息していますが、そのうち四国全体で約140種類が記録されています。そのなかで、種苗の生産に成功しているのはおよそ15種類です。主要な種は生産できるようになったので、今度は珍しい種の生産に挑戦したり、よりきれいなサンゴを作る方向性にシフトしたりしています。

サンゴ研究のやりがいはなんですか?

目崎さん:黒潮の影響のおかげで、日本では世界で最も北の方までサンゴが分布しています。サンゴ礁のある沖縄から、岩盤上にサンゴが生息する四国まで、南北の勾配も長く非常に特徴的。日本でサンゴを研究する楽しさは、そういうところにもあると思います。

またサンゴは生態系のなかでも非常に重要な存在で、生体的にも面白い要素がたくさんあり、多くの研究者が興味を持って研究対象にしていると思います。環境を作る生き物でもあり、死滅してもなお記録者として残るという意味でも面白いです。 過去のサンゴを取って研究する人もいれば、原生のサンゴを調べる人、サンゴの生息環境を調べる人、サンゴの周りに住む生き物を調べる人など、さまざまです。ある意味、「サンゴ礁生態系」はひとつのファクターとして、興味深い分野といえます。

私は子どものころに沖縄に住んでいて、サンゴは身近な生き物でした。四国ではまだそこまで身近な生き物ではないかもしれませんが、せっかくたくさんいるのだからもう少しみなさんに親しんでもらいたいと思うことが研究のモチベーションになっています。

サンゴは表情がある生き物ではないので、愛玩的な要素はありませんが、私からはかわいらしく見えます。繊細で、立体的にもきれいな構造で、骨の模様も美しいです。そんなサンゴという生き物を、多くの人にもっと知ってもらいたいと思っています。

この記事は2021年2月1日の取材に基づいています。
(2023年11月27日掲載)

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