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インタビュー適応策Vol.28 北海道

百年先を見据えた酒造り -酒蔵の県外移転-

取材日 2021/5/17
対象 三千櫻酒造株式会社 代表取締役 山田耕司

1877年に岐阜県中津川市で創業し、2020年11月に本拠地を北海道東川町に移転。そのきっかけを教えてください。

ひとつは、蔵がとても老朽化していたということ。もうひとつは温暖化により、仕込みの際に蒸し米を冷却する作業がやりにくくなってきたということがあります。蒸して90度以上あるお米は、もろみタンクに投入する前に10度以下に冷却しなければなりません。外気温以下にはならないので、気温が高いときは氷を用意して冷まさねばならず、その手間とコストは大変なものでした。また、特に暑い年にできたお米の質では酒造りが難しい、と感じることも何度かありました。
そんなとき、北海道東川町で公設民営型の酒蔵を募集していることを知りました。東川町は米どころではありますが、酒造りのノウハウがないということで、町が建物を用意して酒蔵を誘致する計画でした。それに名乗りを上げたことがきっかです。

東川町に移り住み、この町の魅力と酒造りについてどのように感じていますか。

北海道のなかでも、特にユニークな自治体だと思います。役場や農協の反応速度が早く、コミュニケーションもスムーズです。
また、大雪山の雪解け水が潤沢にあり、水量が豊かです。これだけの米作地帯で広い田んぼが町内全域にあるにもかかわらず、水争いもなく水を張れるのは凄いことだと思います。
岐阜から北海道に移転し、酒造りに用いる水が変わることはそれほど懸念はしていませんでした。それは、過去にメキシコで日本酒造りを指導した経験から実感しています。日本の水は軟水ですが、岐阜の水は硬度8、兵庫の灘でも120程度で、これが日本で一番硬いといわれています。一方、メキシコの水は230という驚くべき硬水でしたが、三千櫻テイストのいい日本酒ができて、都内で行ったお披露目会が良かったのです。これなら国内であればどこでも酒造りができるという自信に繋がりました。
また、北海道における台風の発生は比較的少ないですが、近年の異常気象などで大雨が降るケースは増えていると感じています。ただ、まちの排水路や田んぼの面積が大きく、保水力があるので浸水被害には至らなかったです。それよりも強風の影響が懸念されていますが、外に出ている物を倉庫や蔵に入れるなどの対策をすることで、十分に備えられると思います。
中津川で悩みの種だった冷却作業も、外気温だけで十分に下がるようになり、手間とコストもずいぶん下がりました。北海道の冬はたしかに厳しいですが、基本的に外を出歩かないので、気温が低いことで生活しづらいとは感じていません。

原料となる酒米について、JAひがしかわと新たに作付けされた「彗星」「きたしずく」の特徴をお聞かせください。

彗星は2021年に初めて使いました。本州にいるときから北海道の酒米についてはさまざまな蔵元さんや杜氏さんと話をしてきたので大体の予想はしていましたが、実際に作ってみると思った以上に難しかったです。とても味が出にくいので、今後どうしていったらいいのか、という課題はあります。一方、きたしずくは4年前から使っていて、大凡は見当がつきますので、味の出方は予想通りです。初めて東川町産の米を使い、深みのある酒ができました。
気候変動のスパンがどのくらいかにもよりますが、少なくとも私の次の代くらいまでは順調に酒造りができるのではないかと踏んでいます。それでも、北海道も温暖化は進んでいると思います。そもそも米作の適地でなかったのに、いまは全国2位の産地になっているわけですから。
本州の酒造好適米である山田錦を、北海道で生産しようというプロジェクトも始動して5年になります。晩成品種で、本州でも10月10日前後にならないと刈り入れできないので、ある程度日照時間が確保されたところでしか育ちません。それを北海道で毎年作っていらっしゃる方がいて、ほとんど籾が入らないのですが、入った籾で翌年も作り、ようやく5年になるというわけです。来年はもう少し作付けを大きくして、北海道の蔵元さんに試験醸造をお願いする段階まできているそうです。
北海道の山田錦は本州と違い、菅が太く丈が短くなります。何年かトライしていればその土地に適応した酒米が着実に栽培されていくことを期待しています。

土地を変えて酒造りを続けるというケースは、今後も増えていく可能性があるのでしょうか。

うちはたまたま小規模で、機械もそんなになく、条件的に移りやすかったというのはあります。移転しようか悩んでいる酒蔵さんはたくさんいらっしゃいますが、設備の問題などでそう易々と移れるものでもありません。
また三千櫻酒造の歴史は140年ほどですが、200年、300年と地域に根付いて酒造りをされている人については、周りとの繋がりもありますし「じゃあ移転しよう」とはなかなか思えないのではないでしょうか。
本州ではいま豪雨や台風で大変な地域もありますが、そうそう簡単に動けるものではないので、基本的にはその場所に適応してやっていくしかありません。だから、大規模な設備を導入できない蔵はどんどん閉めていくでしょう。企業買収という形で、他の場所で酒造りを続けるケースもあるとは思います。そうなったとき、北海道は非常にいい選択肢のひとつではないでしょうか。
また、北海道は人口に対して酒蔵の数が少ないんです。道内全体で消費される日本酒のうち、道産酒は2割以下。8割は、本州から入ってきています。つまり、北海道には日本酒を消費するポテンシャルが十分あるということです。
いまは北海道のように大きな土地でも、蔵が15しかないんですね。昔は、旭川市周辺だけで30近くの蔵があったと聞いています。うちのように小規模でも、道内にもっと蔵が増えると面白いことになるのではないでしょうか。
いまは上川大雪酒造が昨年から帯広畜産大学で蔵を作るなど、産学共同で後進の育成にも力を入れています。素晴らしい試みだと思いますし、今後も増え続けると思います。

この記事は2021年5月17日の取材に基づいています。
(2021年10月8日掲載)

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