「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

インタビュー適応策Vol.45 株式会社寺本商店

徹底した温度管理と衛生管理で、高品質なホタテを国内外に

集合写真
取材日 2023/6/23
対象 株式会社 寺本商店
代表取締役社長 寺本 聡

御社の事業概要について教えてください。

1977年に北海道湧別町で創業し、オホーツク海産のホタテ貝の生むき身加工や、鮮魚の出荷などを始めました。1983年の女満別空港のジェット化を機に、道内だけでなく全国の量販店や地方市場にも商品を送ることができるようになり、やがてアメリカやヨーロッパ、中国などのアジア圏といった海外への輸出も実現しています。現在は従業員の高齢化などによる人手不足もあり、冷凍貝柱をメインに製造中です。

ホタテむき身
ホタテのむき身加工の様子

ホタテの品質保持のために、御社が工夫していることはなんですか。

お客さまに鮮度のいいホタテを提供したいという一心で、1日に剥く貝の量や、貝が届いてから剥くまでの時間に制限を設けるなどしています。現在は弊社と、外注の2社を合わせて、1日に剥くホタテの量は24トンから25トンです。

また、剥いたあとは貝柱の洗浄を行いますが、真水を使うと身が膨らんでしまうので、どこの加工業社も海水を使用しています。弊社から一番近いオホーツク海までは1〜2分の距離ですが、ちょうど湧別川の川下にあり真水の流入量が多いことから塩分濃度が薄いため、塩分濃度も水の透明度も高いサロマ湖まで海水を汲みに行っています。

さらに、洗浄に使う海水のなかにオゾンを溶け込ませることで一般生菌をゼロにしたり、冷凍焼けを防ぐための氷の膜(グレイズ)も極力薄いものにしたりと、安全かつ味を損ねない工夫をおこなっています。

水を汲んでいる様子

貝が届いてから剥くまでの時間に制限を設けるとおっしゃいましたが、やはり近年の温暖化による外気温の上昇などが大きな問題となっているのでしょうか?

そうですね。一番暑い7〜8月は、陸揚げしてからの処理が他の季節と比べてデリケートになります。海底から水揚げして船の倉庫にしまうとき、ホタテが乾かないように海水をかけるのですが、外気温が高いとホタテが煮えてしまうのです。朝から水揚げを始めても、正午以降までホタテをとらなければなかなか満船になりませんが、品質保持のために午前だけの水揚げで帰ってきてほしいとこちらから頼むこともあります。

陸揚げされたホタテ

トラックでホタテを受け取った後は、温度計を当てて貝の中の温度をチェックします。寒いときは10度を下回りますが、真夏は海面温度も20度を超えるため、貝の中が25度まで上がることもあるのです。そのまま置いておくと鮮度が下がりますので、ホタテをタンクに移すときに一緒に氷も入れて、すべての貝がしっかり冷えるように工夫をしています。

ホタテ

外気温は毎日気にして見ていらっしゃいますか?

もちろんです。外気温が高い日は、ホタテを保管するスピードや使用する氷の量に気を遣います。たとえば今日は天気予報で26度と高い予想だったので、ホタテ漁船も本来であれば30トン水揚げしたかったところ、20数トンで戻ってきました。漁業関係者も、お客さまにいいものを届けるために鮮度管理に気を配っています。

倉庫内の写真

海水温の上昇など、海洋環境の変化に関連して、漁業関係のみなさんが感じていらっしゃる問題はあるのでしょうか?

ホタテ以外にも、湧別町の浜では秋になると定置網で鮭をとっていますが、温度が高すぎて鮭が帰ってこないという話は近年よく聞かれます。鮭以外の魚も、例年より1か月も早く来遊することは珍しくありません。それによる、マーケットの混乱もあるようです。

鮭の代わりにブリなどの暖流系の魚も増えているようですが、ブリが増えると余計に鮭が寄り付かなくなるほか、魚価が鮭に比べて安価であることなど、さまざまな問題があります。

寺本社長

今後、さらに気候変動が進行した場合に備えて、御社が検討されていることはありますか?

私たちが取り扱う天然のホタテはまず海から幼生を採取し、1年間だけ蓄養して、ある程度の大きさまで育ったら海に放流し、3年後に水揚げしています。養殖のホタテはうきを使って一定の水深で管理するため、海水温が上がれば稚貝が死ぬなどの影響を受ける可能性はあるでしょう。その場合は、もう少し水温の低い海の底に深く沈めて育てるなど、管理方法を都度変化させながら対応していくしかないと思います。

お仕事のやりがいはどのようなところにありますか?

弊社の社長に就任する前はアメリカで流通の仕事をしており、水産物を地域のレストランやスーパーに卸していました。弊社のホタテも卸していたのですが、いつも本当に品質が良いとお客様からお褒めの言葉をいただいていたんです。アメリカで流通の会社を作ってはどうかと勧められたこともありましたが、自社で生み出した商品を提供してお客さまに満足していただく喜びを考えると、加工業以上に面白い仕事はないと思い、帰国してからはずっと現職です。弊社で加工するからには、自慢できる商品にしたい。いまに続く道を作ってくれた先代にも感謝しています。

ホタテは冷凍すると繊維が壊れ、どうしても食感が変わってしまうのですが、その変化を最小限にするため、いまよりさらに新しい冷凍技術が生まれたらぜひ挑戦してみたいです。現状に満足せず、もっといいものを作り続けていきたいと思っています。

ホタテの加工の様子

この記事は2023年6月23日の取材に基づいています。
(2023年7月31日掲載)