インタビュー適応策Vol.48 葉山アマモ協議会

気候変動から葉山の海を守る『ワカメDAY 2024』開催

取材日 2024/3/30
主催・協力 湘南漁業協同組合葉山支所
葉山アマモ協議会
リトルブルー(フリーダイビング&スキンダイビングスクール)
レフェルヴェソンス(フレンチレストラン)

3月下旬、神奈川県葉山町の真名瀬海岸にて『ワカメDAY 2024』が開催されました。これは相模湾の藻場の保全・再生に取り組む葉山アマモ協議会が主催となり、地元のマリン関係者とともに定期的におこなっている海の保全活動。ワカメの旬である春に合わせて開催されたこのイベントに、今回は葉山町の子どもたちとその保護者が合わせて60名ほどが集まり、地元でとれる身近な海藻であるワカメについて学びました。まずは3チームに分かれて、ビーチクリーン、ワカメの釜茹で、ワカメ干しをローテーションで体験します。

葉山町に住む人たちは海を愛し、積極的にゴミ拾いをしているため、海岸は比較的いつもきれいに保たれています。しかしワカメDAY前日は風が強く大荒れだったせいもあり、海岸には流れ着いた大きなカゴやガラス、ペットボトルなどのゴミがあちこちに散らばっていました。少ないながらも、拾い歩くとゴミはバケツいっぱいに。

同時に、打ち上げられたワカメも山のように採取できました。浜辺のワカメは持ち帰ることができますが、近年、海水温が高く不漁が続いており、おいしく食べられるワカメは貴重なのだそうです。

次に、ワカメの釜茹を体験。まずはワカメの根本についている、ひだ状の「メカブ」の部分と、穂先の朽ちている部分を切り取ります。こちらは子どもたちもお手伝い。

大きな釜でワカメを茹でると、茶色だったワカメが一瞬で鮮やかな緑色に変わり、歓声が上がります。葉山アマモ協議会の山木克則さんが「海中では青色の光が通りやすいため、海藻にはこの青色を吸収する茶や赤色の色素が含まれています。お湯につけるとこの色素が抜けて緑色になるんですよ」と説明してくれました。

切り落としたメカブも捨てることはありません。すべて茹でて、ワカメと一緒に干していきます。「メカブは厚くて乾きが悪いので、真ん中の軸を半分に切って、効率的に乾かします」と話すのは、漁師の長久保晶さん。

一方ワカメは、よく晴れた日は1日程度で乾くため、お天気を予想しながら収穫を行っているそうです。晶さんたちが手間をかけてくれたおかげで、昨日干したワカメはカラカラに乾いていました。茹でたワカメを干す前に、まずは取り込みます。

半分に切って干されているメカブ
漁師の長久保晶さん

「天然のワカメは硬くて肉厚で、養殖よりも香りが強いです。でも8年くらい前から水温が高くなってきて、ワカメの生育が良くない年があります。また、乾かすと表面に白い点々がつくこともあり、ワカメの品質にも影響します。白い点は、人間でいう毛穴のようなもので、『毛藻』と呼ばれるワカメの器官です。食べても味は変わりませんが、干すと少し目立ってしまいます」

温暖化は、ワカメの生育や質にも影響するようです。

「少し食べてみますか?」と晶さんに促されて天然の干したメカブを口にすると、しばらくして濃い磯の香りが口の中に広がりました。「干したメカブを食べる機会もなかなかない」と、その強いうま味にみんな驚きます。

干してカラカラになったメカブ。旨みと粘りが強いです
干してカラカラになったメカブ。旨みと粘りが強いです
ワカメ
コンブ

その後はワカメのほか、養殖コンブについてもひたすら干していきます。みんなで集中して取り組んだおかげで、たくさんあった海藻がみるみるうちに干されていきました。

少しお腹が空いてきたころ、フレンチレストラン レフェルヴェソンスのシェフ、生江史伸さんが作るワカメを使ったランチが始まりました。

ワカメを調理している生江史伸さん
ワカメを調理している生江史伸さん

前菜は、メカブのカツレツ。肉厚なメカブの歯応えとサクサクの衣、そしてほどよい油がちょうどよくミックスされて、子どもにも大人気です。

そしてメインは、ワカメのパスタです。同じ相模湾内の真鶴でとれた無農薬のレモンの皮をすりおろし、旬の春キャベツと、ごま油で和えたワカメを絡ませました。フレッシュな酸味と磯の香りがよく合います。

メカブのカツレツ。ソースとマヨネーズでいただきます
ワカメのパスタ。参加者はお皿と箸も持参しました

「ワカメが海藻の森を作ってくれると、いろんないいことがあるんです。人が食べてもおいしいし、お魚が育つ場所にもなります。また、ワカメが大きくなるときは海の栄養分を吸収するから、海がきれいになるんです。また最近では、海の二酸化炭素を吸収して、海底に貯留するブルーカーボン効果も注目されています。葉山では地域活動で保全・再生した藻場により、毎年約50トンのCO2が海底に貯留されており、クレジット化されています」

食後に開かれたワカメの勉強会で、そう話してくれた山木さん。しかし、温暖化による海温上昇とウニによる食害で、葉山のワカメも年々減少しています。

葉山アマモ協議会の山木克則さん。ウニの食害対策に関しては、葉山小学校保護者の有志がウニを堆肥にするプロジェクトもおこなっています
葉山アマモ協議会の山木克則さん。ウニの食害対策に関しては、葉山小学校保護者の有志がウニを堆肥にするプロジェクトもおこなっています

「ワカメの赤ちゃんが育つ冬の海水温が上がってしまい、うまく育たないんです。あとはウニの動きが活発になって、ワカメの芽が出始めたころに食べちゃう。だから僕らは、ワカメをはじめとする海藻を増やす活動をしています」

そこで山木さんが取り出したのが、スポアバッグです。これは自然に分解する素材でできた袋で、このなかにメカブを入れて海の中に沈めます。そうするとメカブからワカメの胞子が放出され、さらなるワカメの芽生えに繋がるという取り組みです。

スポアバッグの中にメカブを入れていきます
スポアバッグの中にメカブを入れていきます

「海の中に投げ入れた時に流れないよう、石を拾って一緒に入れてください」と山木さん。ちょうど干潮のタイミングだったので、なるべく岩を渡って沖まで行き、次々にスポアバッグを投げ入れていきます。

放り込まれたスポアバッグはやがて藻場の再生に寄与し、海をさらに豊かにしてくれるでしょう。

いつも生活と共にある海、そして海藻。それらがいまどのような状況に置かれているか、そして自分たちにできることは何か、改めて知り、行動することの大切さを実感した一日となりました。

この記事は2024年3月30日の取材に基づいています。
(2024年5月20日掲載)

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