ステークホルダー調査を実施し、子ども向け適応パンフレットを制作
取材日 | 2022/1/17 |
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対象 | 高知県健康政策部衛生環境研究所 高知県気候変動適応センター 企画チーフ 市村岳二 環境科学課長兼チーフ(環境保全担当) 山下浩 環境科学課 主任研究員 谷脇龍 環境科学課 研究員 髙橋紗希 |
高知県気候変動適応センターの概要について教えてください。
市村さん:立ち上げは令和元年度ですが、その前の平成30年度、地方自治体の試験研究機関で構成される全国環境研協議会の会長県を勤めたのが高知県でした。それでいち早く、気候変動適応法の詳細や、各自治体に適応センターが努力義務で作られるといった情報が入ってきたこともあり、比較的前向きに高知県でも適応センターを作ろうという機運が高まったと聞いています。
立ち上げメンバーのなかに研究員が3名いますが、気候変動の専門家ではありませんので、特に設立1年目は国立環境研究所の気候変動適応センターが東京で主催した意見交換会では非常に勉強させていただきました。そこで各自治体がしっかりと取り組みをされているのを見て、大きな刺激を受けたんです。
刺激を受けて、まずはステークホルダー調査を開始したそうですね。
市村さん:高知県気候変動適応センターは、中四国のなかで一番早く立ち上がりましたが、最初は何から始めたらいいのかわからない状態でした。そこで各地域の適応センターの取り組みを学び「私たちがまず取り組まなければならないのは仲間を作ること」という結論に至ったのです。
参考にしたのは、三重県の取り組みです。かなり多くの生産者や事業者にお話を聞いていらっしゃって、その過程でネットワークを構築されていることもわかりました。
私たちも県内で気候変動について研究をしている機関や、適応策だという自覚がなくても適応を実施している事業者など、ステークホルダー調査を通じて知り合いになることを第一段階にして、みなさんから教えていただいたことを適応センター内で共有していきました。
知識や情報がある程度の量になったとき、適応センターがどんなことをやっているのかPRできるツールが必要だということで、パンフレットの制作に取り掛かったという流れです。
パンフレット『目で見る!高知の気候変動と適応図鑑』は、2022年3月にウェブでも公開されています。内容について教えてください。
市村さん:パンフレットの対象は、小学校高学年以上です。ほかの自治体のパンフレットは大人向けが多かったのですが、子どもを対象にしたものを作れば確実に大人にも理解してもらえます。加えて、作りながら私たちの理解も高まり内容の整理ができるのではないか、という思惑もありました。
印刷物の配布先は県内各小学校で、まずはサンプルとして1冊ずつお送りし、教材として使いたいと思われたらホームページからダウンロードや印刷を自由にしていただけるようになっています。(※パンフレット「目で見る!高知の気候変動と適応図鑑」はこちら)
内容については、高知の特産品などにフォーカスしました。適応だけでなく、高知のおいしいものや楽しいもの、産業について知ってもらう機会に繋げたいという思いもあります。
例えば高知の地酒である土佐酒は、気温や湿度が高い時期が続くと雑菌が繁殖しやすくなるため、発酵タンクの部屋を冷房で冷やすなどの対策を取っています。また酒米に麹菌を加えたあと、温度が高いと糖化しにくくなり生産量が減ってしまうので、糖化する力の強い麹菌を使ったり、量を増やしたりして調整をしているそうです。
山下さん:農作物も適応策を取っています。高知県は温暖なので以前から早場米を作ることのできる環境にありましたが、近年では気温が高くなりすぎて、米が割れたり白く濁ったりする被害が見られていました。一等米比率が低く「早場米はあまりおいしくない」というイメージもあったため、それらを払拭させるために14年かけて品種改良を行い、生まれたのが『よさ恋美人』というお米です。高温でも品質のいいお米が育ち、コシヒカリ並みと同等の評価を受けています。
谷脇さん:水産業に関しては、ブリの漁獲量が増える一方で、宗田節の原料となるマルソウダは減っていると聞いています。気候変動の影響とはっきり言い切れないところもありますが、理由のひとつになっているのではないでしょうか。
その他、水温の上昇によりウニなどの藻を食べる生物が増え、沿岸で海藻がなくなる磯焼けが起きているため、ウニの駆除にも力を入れています。
高橋さん:ダムについても貯水量の調整に幅を持たせて、最大級の洪水でも下流が氾濫しない仕組みづくりをしています。年間雨量は数字で見るとそれほど増えていないのですが、年により差があることと、ゲリラ豪雨などが増えたことから、洪水リスクは過去と比べて増え始めているという見解です。
気候変動適応センターの運営について、苦労されていることはありますか。
高橋さん:気候変動の専門家が集まってできた組織ではないため、まだ勉強中のこともたくさんあります。環境研の協力のもと、わからないところをウェブミーティングなどでお話しして教えていただけるので、かなり助かっていますね。
市村さん:関連して、今後の人材育成は大きな課題です。人材の異動により活動自体がリセットされる懸念もあり、せっかく身につけたスキルが伝授されにくいという問題もあります。我々が既定路線を敷いておけば、後任にも伝えていきやすいという意味で、パンフレットはひとつの指針となってくれると思います。
近年はコロナ禍で出前授業なども行うことができず、県民のなかで適応の認知度がまだ低いため、底上げも課題ですね。
高橋さん:2021年はせっかく準備していた適応の企画展もほとんど人の目に触れないまま終わってしまいましたので、今年度は開催したいと思っています。
どんなところにやりがいを感じていらっしゃいますか?
谷脇さん:衛生環境研究所では、中学生の体験学習を毎年行っています。2021年度は気候変動のメニューも取り入れたのですが「こんなことが気候変動に関連していたんだ」という生の声を聞けたのは楽しかったです。まだ機会は少ないのですが、市民から反応があるとやりがいも増しますね。
市村さん:パンフレット制作や企画展などが進んでいくことはやりがいのひとつで、広く広報をしたり、メディアに取り上げていただいたりするためにどうしたらいいか、考える作業はワクワクしますね。ステークホルダー調査は人に会って話ができる、というだけでも個人的には楽しいです。
今後の展望について教えてください。
山下さん:ステークホルダー調査でも「必要に迫られてやっているだけで、自分のやっていることが適応かどうかなんて考えたことがない」という事業者や生産者は多いです。そこで「あなたがやっていることは適応なんですよ」と伝えていくことで、今後も啓蒙し続けることが大切だと思っています。
市村さん:無意識に適応している民間の事業者に対してアドバイスをするのが我々の仕事と思うなかで、適応の概念を広めるところから一歩進んで、適応をビジネスや暮らしのなかに溶け込ませる必要もあると感じています。そういう意味でA-PLATには、適応ビジネスの事例も掲載されていて、とても参考になります。
まずは我々の作ったパンフレットの反応を見たうえで、次のステップに進めたらと思っています。
高橋さん:企画展示など、ダイレクトにリアクションが返ってくるものをまだあまりやれていないという現状がありますので、2022年度は成果が見えることによりいっそう力を入れていきたいです。
他県の定期的な報告会の様子を見ると刺激になりますし、励みにもなります。頑張らなければ、という気持ちでいっぱいです。
谷脇さん:正直なところ、今の職場に配属されるまで気候変動への対策は緩和のイメージしかありませんでしたが、ステークホルダー調査を通じて、様々な適応策があることを知りました。
センターの広報活動を通して、自分が事業者の方から適応策について教えてもらったときの驚きや感動を、地域の方と共有していきたいです。
(2022年6月6日掲載)
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