「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

インタビュー地域気候変動適応センターVol.26 京都

京都気候変動適応センター

京都府の地域特性、センター設置の経緯や組織体制についてお聞かせください。

(1)京都府の地域特性

京都府は、地理的には北は日本海に面する丹後半島から南は奈良県・三重県と接する山城山地まで、北西から南東に、約150 kmの長さ、平均40km程度の幅で、細長く横たわる形をしています。北部・中部は山地、南部は京都盆地などの平野部が広がっていますが、総面積の約74%を森林が占めています。府内には標高1,000 m以上の山がないため、ほとんどの地域が暖温帯に属しています。気候は、ほぼ中央に東西に連なる丹波山地や丹波高原を境にして、北部は秋から冬にかけて時雨や雪がよく降り、山間部では1m以上の積雪もみられる日本海側気候であり、京都盆地を中心とする南部は、夏はむし暑く冬は底冷えする季節変化の大きい内陸性の気候です。京都市が位置する京都盆地には、平安時代以降明治時代開始まで千年以上都が置かれ、長い歴史の中で築かれた生業・産業と伝統的な文化に培われた社会が現在も続いています。

(2)気候変動適応センター設置の経緯

京都府・京都市は、従来、緩和策について協働体制をとってきましたが、適応策についても、府市協調で地域気候変動適応センターの設置を進めることとし、府市合同の研究会である「京都気候変動適応策の在り⽅研究会」において、センターに求められる機能も含め、京都における適応策の在り方について議論しました。そして、気候変動影響分野における分析等が可能な学術研究機関との連携が必要という観点から、京都府・京都市と、大学共同利用機関である総合地球環境学研究所(地球研)との共同設置に至りました。設置に当たっては、三者の間で令和3年4月に「地球温暖化対策及び地球環境研究の推進に向けた包括連携協定」を締結したうえで、同年7月に「京都気候変動適応センターの設置に関する協定」を締結し、地球研内に「京都気候変動適応センター」を設置しました。
組織体制としては、京都府、京都市、地球研各々の担当者から成る事務局と、三者各々の業務責任者および外部有識者から成る運営委員会を設けています。

地域適応センターの活動内容について、現在取り組まれていることや今後予定されていることがあれば教えてください。

国民参加による気候変動情報収集・分析委託事業 (環境省)も活用し、京都における気候変動影響や適応に関する情報収集・分析や情報発信、適応策の検討等を行っています。具体的には、令和3年度に実施した、気候変動影響が生じていると考えられる分野における関係機関へのヒアリング調査等の結果から、京都において優先的に対応が求められると考えられる気候変動影響を抽出し、令和4年度は、水稲への気候変動影響評価および農家の方々との双方向でのワークショップ等を通じた対策の検討、京都の特産であるお茶への気候変動影響評価及び包括的適応策の検討、景観・庭園への気候変動影響とそれに伴う文化・観光への影響の検証、府民・観光客の健康や文化への暑熱の影響の検証等を行っています。得られた成果については、オンラインシンポジウムやセンター通信、センターのホームページ等を通じ、府民や事業者の皆様に分かりやすく発信していきます。関係機関との協力体制・ネットワークの構築等も進めています。

庁内関係部局との連携や地域住民、事業者の適応推進において工夫されている点や課題などありましたらお聞かせください。

<センター>
地域住民については、適応に関する認知度が低いため、引き続き、分かりやすい発信を続けていく必要があると考えます。事業者の適応推進については、これから取り組んでいく分野ではありますが、適応策の自立的な普及に向け、事業者も巻き込んだ適応策の検討を進めていく必要があると考えています。
<京都府>
京都府内でも治水、健康、農林水産業、自然生態系など多くの分野ですでに気候変動の影響が顕在化しています。京都府では令和3年に「京都府地球温暖化対策推進計画」を改定し、緩和策(温室効果ガス排出削減対策)と適応策の双方に取り組むこととしており、適応策については、庁内各部局で構成する「京都府地球温暖化対策推進本部」(本部長:知事)に適応策に関するWGを設置し、適応センターが集約する情報や知見を活用しながら、関係機関が連携して部局横断的な取組を検討し、京都府における適応策を推進していきたいと考えています。
<京都市>
気候変動の影響を受ける分野は多岐にわたるため、多くの主体が適応策の必要性を認識し、適応策の検討を行う必要があります。京都市では、京都市基本計画において、緩和策と適応策を両輪とした脱炭素型のまちづくりを重点戦略の一つに位置付けるとともに、適応策について全庁横断的に取り組んでいくため、平成29年に各局の部長級職員を構成員とした推進体制を構築しています。センターで得られた知見をもとに、本市において必要な適応策を検討し、関係部局に対して、適応策の必要性について積極的に働きかけていきたいと考えています。

現在の業務に携わるやりがい、今後の展望をお聞かせください。

<センター>
これまで、様々な分野の方々に気候変動影響についてのヒアリング調査を行い、京都においても各分野で深刻な影響が現れていることが明らかになってきました。ヒアリング調査で多くの生の声を聞けたことはセンターの貴重な財産です。府、市、地球研3者のそれぞれの視点を持ち寄って、センター外の研究者や機関の協力も得ながら、さらなる調査・研究を進め、変革的適応につなげていきたいと考えます。
<地球研>
これまで気候変動を促進してきた責任を負う先進国の一員として、気候変動による負の影響を他地域や他国に転嫁することなく、公正で長期的視野に立った変革的適応の在り方を追求する必要があると考えています。その意味では、京都地域特有の課題に向き合いつつも、同時に、世界の他の地域においても応用可能な「京都モデル」とも表現し得る規範、ないし枠組みを追求し得ることは、業務における大きな意義だと捉えています。
今後の展望としては、いま述べたような観点から、京都地域における適応に関わる問題について、この地域での気候緩和策との連携を含めた変革的適応の在り方について追求したいと考えています。さらに、地域に根差す視点と共に、他地域やグローバルな視点での含意と意義も含めて、気候変動に強靭な社会の発展(IPCCが提唱するClimate Resilient Development)に寄与できる活動をめざしたいと考えています。
<京都府>
気候変動は我々の暮らしや産業、伝統文化、自然環境などきわめて多岐にわたる分野に影響を与えつつあり、気候変動への適応策を立案・実行するには、幅広い知見に基づいた大局的、長期的な視野が必要とされます。しかし、施策には実行に時間がかかるもの(農作物の品種開発など)やすぐには効果が検証しづらいもの(都市計画、グリーンインフラなど)もありますし、実際に実行されて効果が出てきたときにはすでにその施策が時代に合わなくなっている可能性さえあります。喫緊の課題でありながら立案・実行には慎重な検討が必要とされるというのは難しい点ではありますが、適応策の推進を通じてよりよい社会の実現に貢献できることには大きなやりがいを感じています。京都という一地域から全世界へ発信できるような取組を生み出していきたいと考えています。
<京都市>
気候変動の影響は市域にとどまるものではありません。センターにおいて、京都府や地球研とともに、京都における気候変動影響について調査・研究を進めることは、京都市に閉じることなく幅広い知見をいただくことができ、非常に刺激になり、また貴重なことだと感じます。得られた成果は、行政が抱える課題とも結びつけながら、本市の適応策にもいかしていきたいと考えています。

稲と総合地球環境学研究所の写真

稲と地球研

空から撮影した総合地球環境学研究所の写真

空から撮影した地球研

この記事は2022年8月25日の書面による回答に基づいて書いています。
(2022年10月4日掲載)