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インタビュー地域気候変動適応センターVol.4 富山県

独自の研究と3つの事業(研究会、広報・啓発、環境教育)に取り組む富山県気候変動適応センター

取材日 2020/7/6
設置機関 富山県環境科学センター
対象 富山県環境科学センター 所長 中島浩薫
富山県環境科学センター 次長 島田博之
富山県環境科学センター 副主幹研究員 相部美佐緒
富山県環境科学センター 研究員 岩倉功貴

設置背景

富山県気候変動適応センター設置までの経緯を教えてください。

中島さん:2018年12月に気候変動適応法が施行され、各都道府県に地域気候変動適応センターを設置することが求められました。環境科学センターでは、これまで地球温暖化に関する様々な調査研究に取り組んできたことから、富山県では当センター内に設置すべきということで、2019年6月頃から所内でプロジェクトチームを作り具体的な検討を始めました。
 まずは全国の取組みについて情報収集から始め、それから当センターとして何ができるか議論を重ね、予算要求、予算化にこぎつけることができました。そして2020年4月1日に富山県気候変動適応センターを設置し、開所式を4月9日に行いました。

富山県環境科学センターの主な業務について教えてください。

中島さん:当センターは環境に関する調査・監視・研究などを行う試験研究機関です。環境の調査だけでなく、工場・事業場の監視・立入検査まで幅広く行っている全国的にも数少ない機関だと思います。
 気候変動に関しては、これまで降雪に関する調査や不快指数の変化、WBGT指数の将来予測などを行ってきました。また、近未来の気候を県民に分かりやすく伝えるために、文部科学省の「気候変動適応研究推進プログラム(RECCA)」に参加し、シミュレーションにより、2030年の降雪量の変化を予測し、富山市から見る立山連峰の景観(積雪)の変化の動画を用いて可視化するなど、研究成果の発信も行っています。

独自研究と3つの事業計画

富山県環境科学センターの気候変動適応に関する研究について教えてください。

岩倉さん:1つは「温暖化による降雪の将来変化と消雪用地下水の合理的利用に関する研究」です。本県では、積もった雪を解かすため、地下水を汲み上げて散水しています。そのため温暖化によって将来の降雪がどのように変化するのか、消雪用地下水の汲み上げへの影響を把握することが必要です。
 RECCAでは、降雪は平均的には減少すると予測されていましたが、本研究では「気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)」のデータを活用し、大雪時の降雪を解析し、地下水モデルを用いて、消雪用地下水の汲み上げによる地下水位の低下を予測しています。これまでに、2018年の大雪のデータを入力し、大雪時の地下水位の低下が再現されていることを確認し、モデルの実用性を検証しました。現在は、このモデルに入力する将来の大雪の降り方を解析しています。

島田さん:2つ目は「立山の融雪モニタリングによる気候変動の影響の評価」です。立山の融雪時期の長期的な変化の解析や植生への影響を把握するため、2008年度から富山大学と立山カルデラ砂防博物館と共同で融雪モニタリングを行っています。標高約2,500mの立山室堂山に地温センサーと水温・水圧センサーを設置し、年1回データ回収をしています。地温が春先に1度を超えると雪が解けると考えており、10年間継続していますが、まだ経年のトレンドは見えていません。ただ、2016年にエルニーニョ現象(暖冬)だった時には、融雪が早いことが分かりました。融雪時期の早さは植生分布にも関係があると考えています。今後もモニタリングを継続し、長期的なトレンドと気候変動による影響を把握していきたいです。また、モニタリング結果と積雪深や気象データとの関連性を解析し、共同研究者による植生モニタリング結果と合わせた植生への影響評価にも取り組みたいです。

3つ目が「富山県における温暖化に伴う水質変動に関する研究」です。県内でも年平均気温が上昇しており、河川をはじめとする公共用水域の水温を含む水質の変化が懸念されています。そこで、公共用水域(河川、海域)における1981年度から2019年度までの38年間の水質変動の解析に取り組んでいます。そこで得られた結果から、水温や温暖化に伴う変動の可能性がある水質項目について影響を予測します。本研究で得られた将来の水温上昇予測、水質変化及び水生生物の生育環境への影響予測は、気候変動適応センターの業務として、関係機関に提供していく予定です。また、セミナーなどを通して県民への普及啓発にも活用していきたいです。

富山県気候変動適応センターの業務内容について教えてください。

中島さん:大きく3つの事業を進めています。
1つは気候変動適応研究会の設置です。県内の試験研究機関や大学の学識者・専門家と情報交換を行い、各分野の気候変動適応に関する調査研究を推進したいと思っております。
2つ目はニュースレターやウェブを活用した広報・啓発活動です。ニュースレターは年4回ほど発行したいと思っています。
3つ目は環境教育の推進です。当センターの講堂を改装し、子供たちにも分かりやすいパネル展示のほか、図書を揃え、クイズコーナーを設けるなど工夫を凝らした環境学習室を整備する予定です。子どもたちが、学校帰りに立ち寄り、気候変動や適応、環境全般に関する情報について、見て、触れて、学べるような施設を作りたいと思っています。現在、2020年10月のオープンに向けて準備を進めています。

相部さん:ニュースレターは4月に第1号、7月に第2号をリリースしています。第1号は適応センターの設置についての説明や適応とは何かということについて特集しました。第2号は2020年の記録的な暖冬の要因について気象庁が発表した分析結果を紹介するとともに、新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」における熱中症予防行動について注意喚起しています。

県内で把握される気候変動による影響の事例はありますか。

中島さん:伏木(富山県高岡市)の年平均気温は100年間で1℃上昇しており、近年は上昇傾向が顕著に現れています。また近年、温暖化による雪の減少は身近に感じています。

島田さん:富山市内の市街地には、ここ2年は、ほとんど雪が積もっていません。その前の年は豪雪だったのですが、富山県は車通勤の人が多く、大雪が降ると交通渋滞が起きます。列車通勤の場合も列車が遅れて動かなくなることがあり、大雪は県民の生活と密接に関連し、雪は富山県民の大きな関心事です。雪が降らなくなったら、雪かきも必要なく、通勤で朝早く起きることもなく、喜ぶ人が多いかもしれません。一方で、スキー場は死活問題です。また、降雪は、水資源と関連があり、農業に携わる人々には、気候の変化を感じ不安を抱かれる方もいると思います。

岩倉さん:農業といえば、本県西部にある砺波市ではチューリップが特産で、毎年GWごろにチューリップフェアというイベントを行っています。担当者によると、開花時期が少しずつ早まり、GWに開花を合わせられるようにシートをかぶせて開花を遅らせているようです。こうした取組みも気候変動への適応といえるかもしれません。

今後の課題や展望などについてお伺いできますでしょうか。

中島さん:当センターが設立して今年で50年という節目を迎えました。
 今年、富山県気候変動適応センターを設置して新たな仕事に取り組めるということは、意義深く、私たちも非常にやりがいを感じております。当センターは以前は富山県公害センターという名称で、主に公害の監視や調査を行っていたのですが、環境科学センターに名称変更し、地域の快適な環境づくりに努めてきました。また富山県の地域特性を生かしながら、酸性雨や雪、黄砂、PM2.5などの調査研究に取り組み、業務の幅を広げてきました。これからは温暖化、気候変動への適応という面で、調査研究や環境教育などの事業を展開していきたいと思っています。

相部さん:個人的には県民に情報提供をするとき、難しいことを難しい言葉で伝えるのではなく、誰にでもわかるような言葉で伝えるということを念頭に置いています。専門用語やカタカナを、いかに翻訳していくかが課題です。

岩倉さん:私自身、気候変動の専門家ではなく、日々学ばせていただく立場にあります。気候変動は幅広い分野に関わるため、ここで知識やノウハウを培い、今後どのような場所に配属されても対応できるように自分を高めていけたらと思います。

島田さん:気候変動適応は、気象や社会事象などとの関連もあり、非常に幅広い分野にわたっています。全国的にみても地方環境研究所の職員は化学分析の専門家がほとんどです。本県の場合は、気候変動適応センターの職員は兼任体制でもありますので、既存の人材を活かして能力形成していく必要があります。国立環境研究所も適応に関する研修などを企画されていますが、より拡充していただけると大きな効果を上げて地域気候変動適応センターのネットワーク形成にも役立つと思います。そうしたことが、富山県だけでなく全国の専門家の底上げにつながっていくと思います。今後ともぜひ協働できればと思っていますので、よろしくお願いします。

この記事は2020年7月6日の取材に基づいて書いています。
(2020年8月21日掲載)

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