「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

インタビュー適応計画Vol.8 富山県

科学的知見を活かした「新とやま温暖化ストップ計画」

富山県は、標高3000m級の山々が連なる立山連峰、「世界で最も美しい湾クラブ」にも加盟している神秘の海・富山湾、本州一の植生自然比率を誇る森林など、美しく豊かな自然環境に恵まれ、特に、豊かで清らかな水環境が特徴です。県の重要な水資源を守り健全な水循環系の構築を図るため「とやま21世紀水ビジョン」等も策定し、地球的規模の水問題なども含め取組みを進めています。
令和2年4月には「富山県気候変動適応センター」が新設され、富山県環境科学センターと連携して適応推進に取り組む富山県生活環境文化部環境政策課の森友子主幹、伊東千里主任に話をうかがいました。

計画策定の経緯

令和元年8月に地域気候変動適応として位置付けた「新とやま温暖化ストップ計画」策定の経緯を教えてください。

森さん:地球温暖化対策計画として平成16年3月に「とやま温暖化ストップ計画」を策定し、取組みを進めてきました。平成25年度から26年度にかけてはIPCCによる温暖化影響に関する報告書の公表や国の気候変動影響報告書のとりまとめを受けて、地方でも先駆的に取り組むべきだと感じていました。そこで、平成27年3月に第2期となる「とやま温暖化ストップ計画」を策定した際、農林水産業や自然生態系、自然災害、健康の4分野における気候変動影響と適応策について初めて整理しました。平成29年度からは環境省や農林水産省、国土交通省による連携事業である「地域適応コンソーシアム事業」にも参加し、本県の積雪や融雪時期と水資源利用に関する調査研究に取り組みました。このような経緯から、本県では比較的早い段階から気候変動影響と適応策について取り組んできたと思います。平成30年の気候変動適応法の施行や国の適応計画の策定を踏まえ、令和元年8月には「新とやま温暖化ストップ計画」を策定し、7分野に拡充して適応策についても記載しました。

将来予測データ等の科学的知見を積極的に活用されていましたね。

伊東さん:前計画では、当時環境科学センターが文部科学省の「気候変動適応研究推進プログラム(RECCA)」に参画していたこともあり、その研究成果である将来予測データ等の科学的知見を活用しました。本県では、環境職種での採用があり、私たち担当者は環境政策課と環境科学センター間を異動する人事交流があります。実は、私たちも環境科学センターで研究員を務めた経験があります。そのため、研究成果や科学的知見を行政施策に適切に反映するための体制があるのも強みだと感じています。

森さん:令和元年8月に策定した「新とやま温暖化ストップ計画」では、こうした科学的知見を積極的に採用したほか、2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)も視野に入れて策定しています。現時点で見直しの予定はありませんが、社会情勢や取り組むべき適応策など、新たな知見に応じて改定を検討していきたいと思います。

庁内関係部局との横断的な連携

今年4月には富山県気候変動適応センターが新たに設置されましたね。

森さん:行政組織に「適応」を専門に扱う部署ができたことは大きいです。まずは、ここを核として、研究レベルで部局横断的な組織を作り、有識者からも意見をいただきながら、関係部局の適応に関する事業の掘り起こしや、適応策を進めるための基礎データの収集・共有が図れることを期待しています。10月には環境科学センターに環境教育施設を開設する予定なので、これをきっかけとして若年層に向けても普及啓発に繋がれば嬉しいです。

伊東さん:今後は庁内関係部局に適応の理解を深めていくことが重要です。自治体規模が大きくない本県だからこそ、連携が取りやすく、担当部局を把握しやすいメリットがあると感じています。

森さん:富山県は豊かな水環境が特徴です。「富山県地下水指針」や「とやま21世紀水ビジョン」など他県ではなかなか見られない地下水や水資源の保全に特化した計画を策定しています。気候変動により、降水・降雪量の変化やそれに伴う河川流量や地下水賦存量の変動が懸念されるため、影響予測や適応策にも取り組んでいきたいと思っています。

今後の展望についてお聞かせください。

伊東さん:私は平成26年度に環境政策課に入り前計画の策定に携わりました。その6年後に再び「新とやま温暖化ストップ計画」に携わらせていただき、少しずつですが適応に関しても前進していることを実感しています。現に水環境・水資源、産業経済活動、県民生活の3分野を新計画に追加できたことは大きな前進だと思います。

森さん:今年の冬は雪が少なく、冬季の国体実施が危ぶまれる程でした。雪不足が一因となり、標高の低いスキー場が廃止となった事例もあります。昨今の激甚災害の状況や気象庁の発信等を受けて、県民の方々も気候変動による影響を身近に感じる機会が増えていると思います。今後は適応センターと連携を図りながら、的確な情報発信にも努めていきたいです。適応の分野は幅広いので、地方でしっかりと連携を組むためにも、国レベルで関係府省庁の連携がさらに推進されることを願っています。

この記事は2020年7月7日の取材に基づいて書いています。
(2020年10月5日掲載)