インタビュー適応策Vol.23 東京都

気候変動に備える東京都の巨大雨水貯留管

取材日 2020/10/16
対象 東京都下水道局計画調整部計画課
奥田千郎緊急重点雨水対策事業担当課長、佐久間隆統括課長代理、若狹崇奨主任

東京都がこれまで取り組まれてきた、内水氾濫対策の概要を教えてください。

佐久間さん:近年の豪雨で言いますと、平成25年の7月、世田谷区や大田区など城南エリアを中心に1時間50ミリを超える非常に強い集中豪雨がありました。この非常に強い雨は、いわゆるゲリラ豪雨と呼ばれ、短い時間に局所的なエリアで強い雨が降るという特徴があります。下水道は雨水を川や海へ速やかに排除するという役割があり、特にこの様な短時間に降る強い雨に対して対応が求められています。
 降った雨水を川や海に排除できない、もしくは下水道管に取り込めないと道路が水浸しになり、床下や床上浸水を引き起こします。これを「内水氾濫」と呼びます。平成25年7月も700棟を超える浸水被害が発生しました。東京都における近年の洪水氾濫の87%は内水氾濫です。地方では河川の氾濫などの「外水氾濫」による被害が多く、内水氾濫は都市部の特徴とも言えます。

奥田さん:浸水対策には管タイプの貯留管と池タイプの調整池があります。どちらも雨水を貯めるという点では同じですが、管であれば将来的には河川等に流すことができますし、大きな用地が確保できて浸水の危険性が高い所が絞れるなら池タイプを選ぶことが多いです。

佐久間さん:近年は1時間50ミリを超える降雨がたびたび発生しており、整備水準をレベルアップした1時間75ミリの降雨への対応も進めています。予算と時間、施工業者の数にも限度があることから、すべての場所を1時間75ミリの降雨に対応することは難しいです。そのため、地下街への雨水の浸入による浸水被害の影響が大きい東京駅、渋谷駅、新宿駅のような大規模地下街を有する場所を優先し、1時間75ミリの降雨に対応する貯留施設等を整備しています。

 また、もともと畑だった土地の都市化が進んだことで下水道管への雨水流出が増加し、下水道管を整備した当時の管の能力では1時間50ミリの雨に対応できなくなった、ということも増えています。あるいは昔、川や水路だったところに下水道管を入れて下水道施設としているところでは、下水道管が浅く埋設されているため下水道管内の水位が上昇すると雨水が逆流して地上にあふれて浸水が発生するという場合もあり、両者とも重点地区として追加の対策に取り組んでいるところです。

奥田さん:降った雨が地中にしみ込まず下水道管に入ってくる割合である流出係数が50%相当の整備を下水道普及の当初は進めていました。しかし、都市化が進んだ現在の流出係数80%相当の整備は、まだ7割程度しか終わっていません。施設の整備には長い期間を要するので、特に窪地や坂下などの雨が集まりやすい場所を重点地区として整備を行い、早期に浸水被害を軽減させることに力を入れています。

和田弥生幹線の特徴について教えてください。

佐久間さん:和田弥生幹線は、貯留量15万㎡、直径8.5m、延長2.2kmの国内最大級の下水道の貯留施設です。平成19年度から本貯留を開始して以降、浸水被害の軽減に大きく貢献しています。令和元年東日本台風では貯留効果を最大限に発揮し、整備後、初めて満水となりました。

特に工夫されてきた点、苦労されてきた点を教えてください。

佐久間さん:まず、工夫している点です。規模の大きい施設が完成すれば確実に効果を発揮しますが、完成まで長い期間を要します。そこで浸水被害を早期に軽減させるため、一部完成した幹線などの施設を暫定的な貯留管として活用しています。また、小規模対策としてバイパス管を設置したり、道路管理者と連携して道路雨水ますを増設したりしています。
 次に、苦労してきた点です。規模の大きい施設は下水道管を築造するトンネル工事のために立坑等の用地確保が不可欠で、住民との合意形成に地元区の協力を得て実施しています。浸水被害が発生しやすいところに対策を行えば明らかに効果が出るので住民の皆様に喜んでいただけますし、工事に入るときには協力してくださる方もいらっしゃいます。ただ、地下深くの工事をするときに立坑用地として、たとえば区の公園などをお借りすることがあるのですが、工期が長くなると公園利用者にご不便をおかけしてしまうので、丁寧に説明をしてご理解いただいています。

国土交通大臣賞でグランプリを受賞されたそうですが、その内容について詳しく教えてください。

若狭さん:令和2年度、第13回国土交通大臣賞『循環のみち下水道賞』です。令和元年東日本台風では、都内で初めて大雨特別警報が出たのですが、そのときの浸水被害の軽減に大きく貢献したことが認められました。
 23区の中には56カ所の貯留施設があり、雨水を貯められる総量60万㎥の6割まで水を貯めることができたのです。また、低地部では河川等にそのまま排水できないところを助ける雨水ポンプが70カ所にあり、毎分11万㎥の雨水を排出できるようにしています。このように、最大限のストック効果を発揮し浸水を大幅に減らしたということで、表彰されました。貯留後に大きな浸水被害がないということで、これがいかに浸水被害の防除に寄与しているかということを示しています。

近年、気候変動によって短時間に強い雨が降ることが増えると思われますが、現場での対策はどのように検討されていますでしょうか。

佐久間さん:ハード対策は時間がかかり、一気に行うことは不可能です。しかし、雨は待ってくれません。そこでソフト対策として下水道局が持つ降雨レーダーによる降雨情報を『東京アメッシュ』として都民に公表しています。平成29年にスマートフォン対応になりました。かなり高性能で、極めて少量の雨まで表示されます。

奥田さん:年間6千万程のアクセス数があります。アメッシュを見ながら土嚢や止水板などを準備したり、家財道具を移動させたりするなど、自助につなげていただければと思います。

佐久間さん:あとは、コンピューター等を活用した流出解析シミュレーションを用いて、想定しうる最大の雨として時間最大雨量153ミリの雨が降った場合の結果を、浸水予想区域図として都では公表しています。それを基に、各区市町村が洪水ハザードマップを作成してお住まいの方々にお配りしています。

今後、気候変動がより進んでいくと想定される中で、東京都はどのような対策に取り組まれる予定でしょうか。また、関係部局との連携はどのように取られていますか。

佐久間さん:都では、近年の豪雨状況を踏まえ、東京都豪雨対策基本方針に基づく令和2年以降の取り組みについて、都庁内の関係各局と連携し、今後概ね5年間の浸水対策における行動計画として『東京都豪雨対策アクションプラン』を2020年1月に策定しました。2030年代を見据えて、下水道だけでなく河川部署や都市計画部署など、都庁内の連携を強化して安全・安心なまちづくりを進めていきます。
 関係部署との連携は、常に調整を行い進めています。下水道の整備ができたからといって、可能な限り下水道から河川に排水すると、河川整備が途上であれば川があふれてしまうことが考えられます。そこは河川管理者と協議して、河川の能力にあわせて下水道から河川への排水量を調整するなどの取組をしています。道路については道路管理者と連携をとります。たとえば区道上に降った雨水は区が設置した道路雨水ますから雨水を取り込んで下水道に流しているのですが、坂道では道路を流れる水に勢いがあるため、道路雨水ますに入りにくくそのまま坂下に流れてしまい、坂下で浸水被害が出ることがあります。このため、雨水の取り込みをよくしてもらうために道路雨水ますの数を増やしたり、ますの蓋を雨水が取り込みやすいグレーチングという網目タイプに変えてもらったりしています。
 このほか、たとえば大きなビルを建てたり、街を再開発したりする際は、合わせて雨水貯留施設や雨水が浸透する施設を作るよう、補助金等を出したり、指導を行うなど都市計画部署が協力をお願いすることもあります。

現在の業務に携わるやりがい、今後の展望をひと言お願いいたします。

佐久間さん:東京には多くの都民が生活をしており、政治経済を支える機能も集中しています。下水道は、これらの活動を支えるため、24時間365日休むことなく稼動しています。社会を支えるエッセンシャルワーカーとして、下水道を将来にわたり安定的に運営し、質の高いサービスを提供していくことにやりがいを感じています。引き続き浸水などの水害から都民の生命と財産を守り、首都の都市活動を支えるため、ハード・ソフトの両面から浸水対策を、積極的かつ効果的に進めることで安全・安心のまちづくりに取り組んでいきたいです。

若狭さん:下水道の機能は、人々が生活する上で止めることができません。そのような必要不可欠な仕事に関われているということは、大きなやりがいを感じます。また、今回視察した和田弥生幹線などの下水道施設は、普段は目に見えませんが、実際に見てみるととても大きな施設です。こうした大規模施設の計画などに関われることにも技術職としてのやりがいを感じます。

奥田さん:下水道事業には、和田弥生幹線など下水道施設を建設するために、東京23区だけで年間1800億円もの費用が使われています。私たちはエッセンシャルワーカーですので、下水道のことをよく知っているベテラン職員やバリバリ働き盛りの中堅職員も含めて若手の職員が都民のために働いていけるよう、人材育成と技術継承も必要です。都庁の管理職としてそういったことも考えつつ、都民の安心・安全を守るために仕事に取り組んでいきたいと思います。

この記事は2020年10月16日の取材に基づいています。
(2021年1月12日掲載)

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