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インタビュー適応策Vol.24 京都府

気象データを活用して「宇治茶」の伝統と歴史を守る

取材日 2020/10/16
対象 京都府農林水産技術センター 農林センター茶業研究所(宇治茶部) 主任研究員 岡留和伸
京都府茶協同組合 参与 極山映一
公益社団法人 京都府茶業会議所 事務局次長 戸塚浩司
宇治茶ブランド拡大協議会(特定非営利活動法人 京都・地球みらい機構) 花田幸

京都府の宇治茶生産の特徴についてお聞かせください。

戸塚さん:多種産地であることですね。日本の代表的な三茶種である抹茶、煎茶、玉露を生み出してきた強みがあります。

極山さん:宇治の場合は大規模な土地で大量に作られるというより、小さい単位できちんと肥培管理された多様なお茶が作られ、市場に出ています。それを原料として、さまざまな合組(ブレンド)がされ、茶葉それぞれの特徴を生かした非常に個性豊かな味わいのお茶を生み出します。それが代々受け継がれているのが宇治の特徴だと思います。
お茶の良し悪しを決めるポイントの半分は栽培。残りは仕上げの技術です。どちらか一方だけでなく、ともに優れていないと、価値は出ません。基本は生産者が「荒茶」という、お茶の形になる段階まで作業します。その後、昔ながらの問屋がお茶を買い入れてブレンドするのですが、毎年、どんな状況でも同じ味、同じ香りを保っているのです。お茶は農作物ですから、その年の気候によって味は変わるものですが、仕上げのブレンド技術が優れているため同じクオリティを保つことができています。市場に出るたくさんのお茶の味を見ながら、どのような配合でひとつの商品にしていくかという鑑定能力は、伝統技術ですね。

宇治がお茶の一大産地になった理由は、やはり気候が適していたからでしょうか。

岡留さん:宇治茶の歴史は、800年ほど前から続いています。雨は年間1500ミリ程度と比較的多い上に、宇治川が流れており土壌の水はけが良く、地理的には生産に適していました。

戸塚さん:あとは、霧が発生しやすいところですね。朝霧は霜よけにもなるのです。このあたりでいちばん低い京都盆地には宇治川が流れており、現在は干拓地で水田となっていますが、巨椋池という大きい池に川の水が流れ込んで霧が発生したと言われています。
また気候だけでなく、朝廷や将軍家などのお茶の消費地が近かったことと、茶の湯の発展に宇治の抹茶が使われたことも大きいと思います。将軍家に納めるということであれば、やはり生産者のなかでも切磋琢磨していいものを作ろうという空気があったでしょう。かつては肥料に使っていた下肥が京の都にたくさんあり、巨椋池で運ぶことができたのも大きかったようです。

極山さん:あるいは、日よけの覆いにする材料(よし)が多く自生していたこともありますね。今は素材が変わっていますが、当時は丸太を立て、梁に竹を使った、骨組みをワラ縄で組み、よしずとわらで遮光していました。

戸塚さん:複合的な理由で抹茶が進化していく過程の中で、煎茶や玉露が生まれました。宇治茶の産地の特徴がすごく表れていると思います。

気象観測機の最初の設置は2015年。設置当初に生産者から、気候変動による影響が出ているのではないか、といったご意見はありましたか。

戸塚さん:はい。そもそも気候変動があまりにも激しく、ベテランの茶農家でも予測がつかない、というのが設置のきっかけになりました。今まではある程度、経験値でお茶を作ってこられましたが、気候変動が激しくてそれが活かされなくなったというのが理由のひとつにあります。お茶の生育に一番重要なのは気温と雨で、いまモデルとして使用しているのは平均気温です。それ以外の要因も関わっていると思われますので、精度を上げるために解析しているところです。

摘採適期などの予測はどのように行っているのでしょうか。

岡留さん:宇治茶ブランド拡大協議会の取り組みとして、生産地の13カ所に気象観測機を設置しました。もともと害虫の発生予測などはしていたのですが、2020年からは50mメッシュ気温マップから気温予測も行い、各茶園の積算温度を推計して、生育や摘採時期、などの予測を行っています。
これまではそれぞれの生産者が新芽の伸び、経験、勘により、茶園ごとに作業の順番を判断していました。しかしそれでは新規就農者や雇用従事者が摘採時期を判断することが難しく、適期収穫ができずに減収につながったり、品質の低下を招いてしまいます。茶園ごとに気温などの推移が予測できるようにしたことで、摘採時期が正確に割り出せるようになりました。

花田さん:気象観測機は、気温、風速、風向、気圧、湿度、日射量、降水量、紫外線量、土中温度や湿り気など、計12項目が計測できます。

戸塚さん:傾斜地では温度が異なるほか、50m四方の中に複数の生産者が存在する場合もあります。ゆえに実測値で、ピンポイントに観測することの必要性も感じています。

岡留さん:先ほど述べた50mメッシュ単位で予測されるシステムは「茶生育等予測マッピングシステム」と言い、基本的に個人がスマートフォンを使って生産に役立てるシステムで、機能は降霜予測、摘採適期予測、害虫防除適期予測、気温の推移の4つです。今のところは試験運用段階ですが、2022年以降に本格運用をするために精度を上げるべく、データを収集して予測式を修正しています。

実際に生産者がデータを栽培に生かすところまで進んでいるのでしょうか。

岡留さん:生産者からは「もっとこうしてほしい」などと要望がありますので、参考にはされているはずです。茶生産予測マッピングシステムは試験運用中ですが、2022年の本格運用に向け開発を進めています。

戸塚さん:抹茶の原料である碾茶(てんちゃ)や、玉露など、種類によって摘採適期が違いますので、データを生かすにしても茶種に合ったものを適用しなければなりません。品種によって生育も微妙に違いますので、そこは課題です。

最後に、このお仕事のやりがいや展望などを教えてください。

岡留さん:高級茶を作る技術は後世に引き継がれるべきで、今後はそれを、ICTのような技術を使って伝えていけるよう研究していきたいと思っています。近年、ベテラン生産者でも気象予測をしづらくなってきているので、国の力も借りて気候変動に対応できるようにしていきたいです。

極山さん:いま、お茶の味を知らない人が増えているなかで、少しでもお茶の味を知っていただき、よりおいしいお茶が求められるニーズを作っていかなければいけないと思っています。そのうえで京都府茶協同組合としては、宇治茶のブランドを守るための管理もしていかなければなりませんし、その活動自体にもやりがいを感じています。

戸塚さん:気象観測機をつけることになったときに生産農家つけている農業日誌などを拝見したのですが、やはりアナログなんですね。気象観測機はデジタルデータの集積なので、ゆくゆくはそれらが組み合わさって次世代に継承されていくと、いいお茶を作ってもらいやすくなる。今後、茶業は輸出にも力を入れていかないと立ち行かなくなると思うのですが、輸出にしっかり対応するには栽培状況から肥培管理、農薬などのデータの蓄積・活用が必須だと思います。そういうところまで私たちがサポートしていけたらと思っています。

花田さん:私は「京都・地球みらい機構」という特定非営利活動団体に所属しており、代表はスリランカ人です。ご存じのようにスリランカは世界的に知られるお茶の産地ですが、気候変動により、多くの茶園が荒廃してしまいました。「同じ事態が日本の有名なお茶の産地で起こってはならない。」というのが契機となり、関係者が集まってこの事業に関わっていくことになりました。
気候変動は避けられませんが、それに対応して宇治茶の伝統や歴史、そしてブランドを守っていくために、“デジタル技術を使って次世代への継承に貢献していく一助となれば”と、活動を続けています。

この記事は2020年10月26日の取材に基づいています。
(2020年1月19日掲載)

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