インタビュー適応策Vol.30 茨城県

茨城県での「小ギク」「グラジオラス」の高温対策技術と品種育成

取材日 2021/8/24
対象 茨城県農業総合センター 専門技術指導員室 首席専門技術指導員 宮城慎
園芸研究所 花き研究室 室長 市⽑秀則、主任 吉屋康太
⽣物⼯学研究所 果樹・花き育種研究室 室長 郷内武、技師 稲﨑史光

茨城県農業総合センターの園芸研究所、生物工学研究所の概要を教えてください。

市毛さん:茨城県農業総合センターは、現在5つの研究所を有しています。そのなかの園芸研究所では果樹、野菜、園芸作物の栽培試験を担当しています。園芸研究所内に研究室は6つあり、そのなかの花き研究室では小ギクやバラ、グラジオラスなど、茨城県産主要花きの栽培に関する試験研究を行っています。

郷内さん:生物工学研究所では園芸作物の新品種の開発を行っており、メインである交雑育種に組織培養などのオールドバイテクやDNAマーカーのような先端技術を組み合わせて、品種育成までの期間を短縮できるように取り組んでいるところです。
小ギクは、茨城県内の切り花の生産額第一位。夏の東京都卸売市場のシェアを見ると、茨城県がトップという主要な生産品目です。また生物工学研究所は、国内唯一のグラジオラス育種機関でもあります。

茨城県を代表する小ギクの栽培について、その特性と気候変動への対策を教えてください。

吉屋さん:小ギクは7〜9月の盆、彼岸に特に需要が増え、単価が高くなります。この時期に安定して出荷を行うことが重要ですが、近年、出荷ピークが前後することが増えています。理由としては、小ギクは生育ステージによって温度に対する反応性が異なることが挙げられます。
定植から花芽分化のステージでは生育促進に適度な温度が必要となりますが、平年以上の高温下にさらされると、生育が前進することで開花時期が早まります。近年だと平成26年、27年、そして今年も比較的春先が高温で推移し、開花の前進が見られました。

その生育前半の高温に対する対策として、従来から行われてきたのが電照による開花調節です。小ギクは短日植物ですので、夜の長さが開花を制御します。夜が十分長ければ、開花刺激が増えて開花に至ります。そこで、夜間に、人為的に光を認識させて花芽分化を抑制するという技術が採用されています。
さらに、これまでは22時〜翌2時の時間帯に電照を行っていましたが、近年、後夜半の24時〜翌4時の時間帯のほうが、花芽分化抑制に効果が高いということが、小ギク品種での試験からわかってきました。この「後夜半電照」により品質低下が懸念されましたが、特にそのような影響は見られませんでした。

一方で、生育後半の花芽分化ステージ以降は、高温に当たると開花刺激が抑制され、開花が遅延してしまいます。一般的な対策として資材での遮光や、畝間の潅水等が有効と考えられますが、小ギクではあまり現実的ではありません。そこで、高温でも開花遅延しにくい品種の選定も行っており、平成26年度に6品種選定し、令和元年にも新たに6品種を追加しました。

グラジオラスについても、同様の質問をさせていただいてもよろしいでしょうか。

稲崎さん:茨城県のグラジオラスは、5月から11月が出荷期間で、なかでも6〜8月がピークです。この時期はやはり高温や強日射が問題になっており、それが理由で花穂周縁部が枯死してしまう「穂やけ症」の発生に頭を悩ませることが増えてきました。穂やけ症が発生すると等級規格が落ちたり、ひどい場合は出荷を控えたりしなければならないため、生物工学研究所では穂やけ症が少ない品種の育成に取り組んでいます。

まずは、穂やけ症が発生しやすい気象条件の解明をするところから始めました。昨年度の成果では、開花前の高温遭遇が穂やけ症の原因になっていることが明らかになっています。そこで、穂やけ症の耐性が異なる品種を複数作付けしていき、品種ごとの温度に対する反応を細かく見ていきました。特に34~35度を超えてくると、穂やけ症に強い品種と弱い品種の差が顕著になってくることから、高温遭遇する時期に開花時期を合わせるよう作付け、定植をして、穂やけ症の耐性評価をしようと試みているところです。

穂やけ症耐性品種としては、もともと穂やけ症に強いと評価されていた「プリンセスサマーイエロー」から生じた花色突然変異体である「常陸きらめき(仮称)」を品種登録出願中で、早期に生産現場への普及を図ります。

品種改良のほか、穂やけ症が出ないようにする栽培方法もあるのでしょうか。

稲崎さん:穂やけ症対策として、遮光栽培を実施されている人もいらっしゃいます。畝をまたぐように直管パイプを設置し、それに遮光ネットを被せて留めるという簡易的な遮光です。これにより、まったく穂やけ症が出なくなるわけではないのですが、重症化を防ぐ手段として有効に使われています。しかし設置に労力が必要だったり、強風の場合は遮光ネットごと倒されてしまったり、資材費がかかったりと問題もあります。そのほか、散水して温度を下げるという試みもありますが、それらに力を入れなくても強い品種を作るということを目標に私たちも取り組んでいます。

生産者から寄せられる要望等はありますか。

郷内さん:高温による開花遅延をしない品種の選定および育成のほか、小ギクについては条件の悪い気象や土壌条件下で栽培すると、株の下の方の葉が枯れ上がってきて、商品価値が下がるケースがあります。近年は高温のほか、豪雨で土壌が加湿状態になることも増えていますので、それが下葉枯れの原因のひとつという推測もあり、発生要因の解明と具体的な対策技術への要望が上がってきているというところです。

最後に、日々の取り組みについてのやりがいや難しさ、展望などをお伺いできればと思います。

吉屋さん:気候変動に関しては、今後も長く続いていく問題です。対策技術を作ってもどんどん気温が上がっていって、その対策だけでは十分でなくなってしまうようないたちごっこになる恐れもありますが、生産者の所得安定などに向けて、スピード感を持って仕事をしていけたらと思います。

市毛さん:研究所では試験研究をしたうえで、成果として生産者に伝達する役割があります。今後も生産者の期待に応えられるような研究成果を出して、品種や技術などを普及していけたらと思っています。

稲崎さん:グラジオラスに関しては、これから高温化が続く場合、穂やけ症に強いというところが標準装備になると思います。引き続きそういう品種の育成に取り組んでいきます。なおかつグラジオラスのなかでも白とピンクの需要が高いので、その辺りの育成に力を入れていきたいです。

郷内さん:品種育成の目標は、時代とともに変わります。気象変動で、さらに求められる形質も変化するでしょう。担当者の異動も伴い長期的に見通すことが難しい点もありますが、将来求められるであろう特性を適切に判断し、優れた品種を生産者に提供できるように努めていきたいです。

この記事は2021年8月24日の取材に基づいています。
(2021年10月21日掲載)

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