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インタビュー適応策Vol.31 鳥取県

鳥取大学 梨栽培の気候変動適応策

取材日 2021/9/6
対象 国立大学法人 鳥取大学 理事(教育担当、国際交流担当)・副学長 田村文男
国立大学法人 鳥取大学 農学部生命環境農学科 竹村圭弘

気候変動による影響

鳥取大学農学部園芸生産学研究室では、どのような研究をされていますか。

竹村さん:果樹・野菜・花といった園芸作物が対象です。なかでも果物、特に温暖化の影響を大きく受けている梨の開花異常に関するメカニズムの解明等について、広く研究を行っています。

梨の開花について、気候変動影響を把握された時期とその内容についてお聞かせください。

田村さん:1990年ごろに研究を始めた当初から、毎年気象観測データを蓄積していましたが、天候や気象が異常と感じ始めたのは90年代の終わりあたりです。当初は梨への影響はさほどありませんでしたが、2000年代に入ると「明らかに今年の冬はおかしい」という状況が頻発し、影響も顕著になってきたように思います。
具体的には、鳥取県では頻繁に降雪があるのですが、降ってもすぐに溶けてしまうことが増えました。そのほかに顕著だったのが、秋の高温です。葉っぱの落ちる時期がだんだんと遅くなると同時に開花が早まったり、逆に冬期に急に寒くなって寒害を受けて枝が傷んだりといったことも起こり始めていました。

適応策の検討

それらの影響について、どのようなことから取り組まれましたか。

田村さん:梨は冬の間に寒さを蓄積しないと、春に芽が出てこないというメカニズムがあります。品種によってどの程度の寒さを必要とするかが異なるため、まずは各品種の低温要求量を調べるところから始めました。

竹村さん:落葉果樹は、動物でいうところの冬眠のように、冬の間眠ります。これを「自発休眠」と呼びます。植物は一度自発休眠状態に入ってしまうと、加温しても萌芽することはありません。そして冬の間に必要な量の寒さを蓄えて春に開花するのですが、昨今は暖冬の影響でなかなか低温が蓄積しづらく、休眠が春になってもなかなか解除されないケースが増えています。

田村さん:そこで、自発休眠を人為的に破る方法を取りました。植物はストレス状態に置くと、自発休眠をある程度破ることができるという特殊な性質を持っています。たとえば呼吸を阻害するような物質や、植物の成長を制御する植物ホルモンを投与することによって、一部の休眠が破れます。
冬の寒さが足りないときにはこのような方法で補うことが可能ということはわかりましたが、化学物質の多用自体はあまり喜ばしいことではありませんので、今後はできる限り低温要求量の少ない品種を栽培していくことが重要になります。あきづき、豊水、新甘泉などは、比較的低温要求量が少ないです。加えて品種改良についても20年ほど前に交配をはじめ、現在は竹村先生がその子どもや孫を研究しています。

品種改良について、詳しくお聞かせください。

田村さん:既存の品種は、これから気候変動が進むと、どの地域でも栽培が困難になることが予測されています。そこで現在私たちは、さらに低温要求量の少ない品種の育成を進めています。
交配をするにあたり、100種類以上ものニホンナシの中から遥かに低温要求性の低いものを調査したのですが、残念ながら見つけることはできませんでした。調査を続けていたところ、台湾に自生している梨に、非常に低温要求性の低いものがあることがわかったのです。それが、20年前のことです。

竹村さん:タイワンナシは低温要求量が少ないものの、現在のニホンナシと比べて食味はあまり良くありません。そこで、ニホンナシの品種になるべく近づけられるように交配を行っています。3回交配して、最終的なゴールとなる品種を育成しているところです。
現在はニホンナシを2回かけ合わせた品種ができておりますが、ここまでに約20年かかりました。植えてから開花するまでに約5年、そして果実を食べ比べて食味の良いものを選定してまた交配、という作業を繰り返すため、非常に長い時間を要しています。そこで育種と同時に、それを早期に選抜するDNAマーカーの開発にも着手しました。これにより、早期に有用な系統を選定して、育種の効率化に貢献したいと考えています。

もうひとつの適応策として、栽培地の選択があるかと思います。現在、どのような状況でしょうか。

竹村さん:これまで我々がつくってきた低温要求量モデルを利用して、日本のどのような地域で低温が蓄積しやすいのかを評価しております。たとえば、標高が高いところは平野部に比べて冬の低温が蓄積しやすいです。そこで栽培適地がどのように変化するか目視でわかるようにマップ化し、地域に適応できる品種の選択に役立てていただけるよう、新たな策定モデルとしての提言を考えています。

先ほど、梨における気候変動影響として、温暖化だけでなく寒害のお話もありました。結実不良との関係も含めて教えてください。

田村さん:植物は徐々に、寒さに慣れていきます。「低温馴化」というのですが、秋口の気温が高いとそれがうまくいかないのです。急に寒くなると人も風邪をひくのと同じように、植物の低温適応性が削がれて機能不全に陥り、最悪の場合は枯れてしまいます。
また開花期が早まると成熟期も早まるため、梨の単価も上がり生産者は喜ぶのが通例でしたが、あまりに早くなりすぎると、その分急な寒波が襲ってくるリスクが高まります。梨の花粉は15度以下になるときちんと発芽してくれないので、いくら春に人工授粉をしても結実できないということが起こるのです。また霜が降りたり雪が降ったりすると、花が凍え死んでしまうこともあります。これを回避するため、畑で火を炊いたり、防霜ファンを入れて霜除けをしたりするケースもあります。

今後の展望

苦労されている点と、研究の醍醐味について教えていただけますか。

竹村さん:梨については、自発休眠のメカニズムがわかっていないところから研究がスタートしているため、経験則で技術を開発しなければならないのが一番の問題です。メカニズムがわかっても、そこから適応できる品種を作り、種を蒔き、成果が評価できるまでに5年はかかりますので、どうしても根気が必要です。当然、対応してくれる学生たちは卒業後に初めて成果が見えることになります。
それでもやはり、いままでわからなかったことが研究によって解明されるとうれしいです。解明されても「もしかしたら違うかもしれない」と疑って検証を進めることも多く、一喜一憂の繰り返しではありますが、それがモチベーションにつながっている部分もあります。
また、新しい品種の誕生は大きな喜びですね。栽培して実際に実を口にして、学生と一緒に「これはおいしいぞ」と喜びを分かち合えたときは何よりうれしいです。

田村さん:「研究の成果は、誰が出してもいい」とかつて恩師に言われたことがあります。誰が研究しようと、新しい発見があり、それが最終的に世の中の役に立てばいいということです。研究者は、研究をすること自体が楽しく、楽しいことがモチベーションですね。生きがいのようなものです。

竹村さん:今後温暖化が進んでいくと、既存品種だけでなんとかするのは難しいと思います。特に、九州や西南暖地では梨の栽培がしにくくなるという予想も立っています。私たちが育種を進めている品種が多くの地域で導入され、その品種を使ってさらなる育種が全国で展開されたら、梨の生産量も維持できるのではないかと希望を抱いています。

田村さん:ニホンナシは、奈良時代から日本人にとって重要な果物のひとつです。ゆえに、既存の品種が環境に適応しにくいのは非常に残念です。秋の果物のなかで非常に大事な文化でもある梨を、どう伝えていくのか。適地と育種の道筋が立ってきましたので、今の研究の進展をもってすれば、なんとか将来も梨栽培を続けていけるのではないかと希望を感じています。

この記事は2021年9月6日の取材に基づいています。
(2021年12月9日掲載)

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