インタビュー適応策Vol.38 スターバックスコーヒージャパン株式会社

気候変動からコーヒーの木と生産者を守り、エシカルなコーヒーを届ける

取材日 2022/8/5
対象 スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
コーヒースペシャリスト 若林茜
第17代コーヒーアンバサダー 望月芳美

コーヒー豆は生産地からどのようにしてスターバックス コーヒー(以下:スターバックス)に届きますか?

若林さん:赤道の周りには約70カ国の生産地があり、スターバックスはそのうち約30カ国からコーヒー豆を購買しています。三大生産地といわれるのはラテンアメリカ、アフリカ、アジア/太平洋です。弊社では特にラテンアメリカのコーヒー豆を多く取り扱っています。
スイスにあるスターバックス コーヒー トレーディングカンパニーが買い付けを行い、そこから日本を含めた世界各所にある焙煎工場に輸送され、焙煎されたコーヒー豆が店舗に届くという流れです。

高品質なコーヒーをつくるための環境要素について教えてください。

若林さん:コーヒー豆は、コーヒーチェリーという果実のなかの種のことです。コーヒーチェリーが熟すと主に手作業で収穫されます。
高品質なコーヒーを作るために必要なのは、標高、寒暖差、微気候です。コーヒーはゆっくり育てば育つほど、よりいろいろな風味を蓄えておいしくなると言われています。そのためには、日中の寒暖差が大切です。
そして、寒暖差を生むためには標高の高さがポイントです。さらに気温、日射量、降水量といった微気候が、コーヒーの味わいの違いを出してくれます。

昨今の気候変動により、農園にどのような影響が生じていますか?

若林さん:コーヒーは大きく、アラビカ種とロブスタ種の2種類の品種に分けられますが、特にスターバックスが多く採用しているアラビカ種の栽培適地が、気候変動により2050年に約50%減ると言われています。
理由のひとつは、気温上昇により寒暖差が減ることです。気温・湿度が高まることで、病害虫も発生しやすくなります。特にラテンアメリカ地域で問題になっている『さび病』は、葉の裏にオレンジ色のスポット(斑点)ができて光合成ができなくなる病気です。さび病にかかると、その年の収穫が0になる農園が出てしまうほど取り返しがつかなくなります。また、コーヒーの実を食べる害虫『コーヒーベリーボーラー』が気温上昇により大量発生することも問題視されています。

対策として適量の防虫剤を撒いても、雨が降るタイミングが気候変動によりずれると、薬が雨で流れてしまい、効果的な使い方ができないというケースもあります。
雨が降るタイミングのずれは、他にも影響を与えます。コーヒーは雨が降った後に花を咲かせ、その花が落ちた後に実をつけるのですが、雨が降り続くと実ができる前に花が落ちたり、実自体が雨で落ちたりして、結果、収穫量減につながってしまいます。
また、雨期のずれにより収穫時期がずれると、コーヒーの実を収穫するピッカーが例年通りに集まれないという問題もあります。

生産者の生活が脅かされる深刻な事態ですね。

若林さん:はい。コーヒー豆はほとんどが小規模農家なので、ワンシーズン収穫ができないだけで彼らにとっては大きなダメージです。それで農家をやめてしまったり、とにかくお金に変えようとして質の悪いコーヒー豆を売らざるを得なくなったりといった悪循環が起こっています。
だからといって寒暖差を求めて標高の高いところに農園を移動しようとすると、今度は森林伐採につながり、ますます気候変動の要因を作ってしまいます。

望月さん:私もスターバックスのコーヒーアンバサダーとして、現地の様子を知るために記事や動画をよく見ているのですが、やはり生産者がいまどれくらい苦しんでいるのかといったことを伝える内容が増えてきています。
そのような中でも、たとえばコーヒーを出荷するときにはなるべくCO2を出さないような方法を取るなど、さまざまな工夫がされている印象を受けます。
また適応に関しては、病害虫に強かったり、気候変動に耐えることができるものだったりと、ハイブリッドな品種の開発に向けた行動にも取り組まれています。

新しい品種の開発について、現在どのように進んでいるのでしょうか。

若林さん:弊社は、コスタリカにあるハシエンダ アルサシア農園を2013年に購買しました。ここは農園だけではなく、コーヒー研究開発施設を備えた場所。アグロノミスト(農学者)のリーダーを中心に、遺伝子組み換えではなく地道に接木を行い、木を植え替えて、気候変動に対応できる品種やさび病耐性の高い品種などの開発をしています。
そして2015年から展開しているのが、米国内の店舗で販売されるコーヒーパックが1袋売れるたびに、ハシエンダ アルサシア農園で開発されたコーヒーの木を1本農園に提供する“Starbucks One Tree for Every Bag”キャンペーンです。病原菌の影響でコーヒーの生産が困難となったメキシコ、グアテマラ、エルサルバドル、スマトラなどの農園が対象で、2025年までに1億本を目標に提供していく予定です。

2050年問題について、現場の農家の方々は意識されているのでしょうか?

若林さん:スターバックスには世界に10か所、生産者たちを支援するファーマーサポートセンターがあり、それぞれの国の文化やコーヒー栽培を熟知したアグロノミストが所属して実際に農園で生産者たちにアドバイスなどを行っています。
私たちはアグロノミストを通じて生産者の話を聞いていますが、やはり雨のパターンの変化や日々の生活、実際にさび病を目にするなどして、少しずつ変化に気づいているということです。

品種改良以外に、気候変動影響に対して取り組んでいることはなんでしょうか?

若林さん:コロンビアのファーマーサポートセンターに聞いたところ「まずは、シェードマネジメントが大切」ということでした。そこで、シェードツリーを植えて影で覆うことで、少しでも気温の上昇や激しい雷雨からコーヒーの木を守るという取り組みがあります。センターでシェードツリーの苗を育てて、生産者に植えてもらうという流れです。
この場合、バナナやマンゴーの木を植えて副収入にしたり、コーヒー栽培に必要な窒素を土に固定できるようなマメ科の植物を植えて肥料を少なくしたりと、さまざまな工夫がされているようです。逆に、特にアフリカで起こりがちな干ばつについては、土に草木や藁などでカバーをする『マルチング』が行われます。

2050年に向けて、さらに取り組んでいこうとしていることはありますか?

若林さん:スターバックスでは『C.A.F.E. プラクティス』をガイドラインとして、エシカル(倫理的)にコーヒーを調達しています。これは2004年に国際環境NGOコンサベーション・インターナショナルとともに定めた、コーヒー業界初の認定プログラムです。
品質基準、経済的な透明性、社会的責任、環境面でのリーダーシップの4つの観点から設けられた基準によって、コーヒー農園を評価します。2015年にはこの基準のもと、スターバックスのコーヒーは99%がエシカルに調達されたものであるという中間目標を達成しました。
まずはこのC.A.F.E. プラクティスに沿って、ファーマーサポートセンターとの連携のもと、生産者と目線を合わせながらよりコーヒーの品質と生産量を上げ、コーヒー生産者の生活をより良いものにしていくのが目標です。

望月さん:C.A.F.E. プラクティスに加えて、たとえばプラスチックの削減など、店舗ごとの取り組みも進めています。気候変動自体を和らげて生産者を守り、ひいては自分の暮らしを守るためにも大切なことです。
また、店長がコーヒーの生産現場で起こっている問題について学ぶ教育プログラムである、コーヒーマスタープログラムに参加し、店舗のパートナーに伝えるという取り組みも行っています。

さまざまなマイナスの影響が課題になっていますが、逆にその変化をプラスに変える機会として捉えている点はありますか?

若林さん:短期的にいえば、いままでコーヒー豆が生産できなかった場所でもつくれるようになったという部分はありますが、長期的な視点でいうと難しい印象です。

望月さん:環境問題に興味のない人が「2050年には品質の良いコーヒーが安価に飲めなくなる」という事実を知り、危機感を感じてエシカルな取り組みを始めたというケースを聞きます。しいていえば、そういう意識が芽生えるひとつのきっかけになっているのではないでしょうか。

今後の展望について教えてください。

望月さん:スターバックスのコーヒーは、C.A.F.E. プラクティスに沿ってエシカルに調達されています。お客さまがそれを飲むことで、おいしいと感じていただくだけでなく、生産者の暮らしをより豊かに、地球環境をよりよくしていくというポジティブなポテンシャルが込められているということを、全国のパートナーを通じてもっとお客さまに伝えていきたいです。
以前アンケートをとったところ「エシカルだから」という理由でスターバックスを選んでくださったお客さまが全体の5%程度いらっしゃいました。これはポジティブな結果と捉えていますが、一方で今後もっとその数字を増やしていくことが、コーヒーアンバサダーとして自分にできることなのではないかと思っています。

若林さん:望月が話したように、お客さまが地球の未来のことを考えるきっかけになったらと思っています。同時にコーヒーマスタープログラムを通して、全国に4万人いるパートナーにもスターバックスの取り組みをしっかり認知してもらえるよう努力していきたいですね。
大きなイベントとしては、9月8日から10日までの3日間開催される“Ethically Connecting Day”があります。今年は、スターバックスが品質と収益性向上のために支援を続けている国のひとつ、タンザニアの『タンザニアルブマ』を提供する予定です。ほかにもお店の黒板にスターバックスの取り組みやエシカルクイズなどを書いたりして、楽しみながらコーヒーのストーリーを学んでいただけるような工夫をします。

仕事に対する一番のモチベーションはなんですか?

若林さん:生産者を含め、スターバックス全体で、チーム一丸となっておいしいコーヒーをお届けしているという思いです。実際に生産地でコーヒー農園を見る機会もあります。チームの誰かが困ると私も困るという意識で、みんなで一緒に未来にコーヒーを届け続けるという気持ちも強いですね。

望月さん:入社前から環境保全に興味を持っていて、地球で起こっている問題を解決する取り組みや企業活動に加わりたいと思いスターバックスに入社を決めました。
コーヒーは莫大な量で貿易されていますが、生産国によっては不平等さを感じるところもあるため、すべてのコーヒーがエシカルなものに変わったら世界はもう少しよくなるのではないかと思っています。ただコーヒーを提供するのではなく、その先の未来を良くしていくためにコーヒーを届けたいという気持ちが、一番のモチベーションです。

この記事は2022年8月5日の取材に基づいています。
(2022年9月1日掲載)

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