自然災害から暮らしと地域を守る「フェニックス共済」
記録的な大雨が襲った2017年の九州北部豪雨災害2017年の九州北部豪雨災害では、1,300棟を超える家屋が全半壊の被害を受けました。RCPシナリオによると、滝のように降る雨(1時間降水量50㎜以上)の発生回数は今後増える傾向にあり、現在のように温室効果ガスを排出し続けた場合、21世紀末には全国平均で2倍以上になると予測されています。
兵庫県では、2005年9月に県独自の共済制度「フェニックス共済」を創設し、自然災害で被災された方の自力再建を支援しています。県が住宅再建にかける想いと、この新しい「共助」のしくみについて、兵庫県防災企画局の山本龍太郎さんとフェニックス共済の運営を行う公益財団法人・兵庫県住宅再建共済基金の安藤浩志さん、福永敏広さんにうかがいました。
阪神・淡路大震災の教訓から生まれた県独自の「共助」のしくみ
自然災害から住まいや家財を守るための備えとしては「地震保険」や「JA共済」などもありますが、フェニックス共済は一般的な保険とどう違うのでしょうか。
安藤さん:「地震保険」や「JA共済」などの共済保険は、住宅に受けた損害を補填するしくみですので、実際に被害を受けた損害の程度に応じて保険金が給付されますが、私どもは住宅を再築、購入、補修する際に給付させていただく、というところが一番大きな違いです。そのために「自助」「公助」「共助」*のうちの「共助」という形で負担金をいただき、それを積み立てていきますので、個人が入る「自助」の保険制度とはまったく異なるものといえると思います。
※「自助」は自助努力により災害時に自分を守ること。「共助」は地域コミュニティやボランティアなどによる助け合いのこと。「公助」は行政など公的機関による支援。
山本さん:フェニックス共済は、条例に基づいて県が行う県民相互の助け合いの制度です。県内に住宅を所有している方であればどなたでも加入でき、住宅の築年数や規模などに関係なく、年額5,000円の負担金で半壊以上の住宅再建に最大600万円を給付します(図1)。もちろん、一から建て直すとなるとこの金額では足りませんが、「公助」や「自助」とうまく組み合わせてもらえれば、住宅再建へ大きく一歩を踏み出せる力になると考えています。
図1 出典/兵庫県「フェニックス共済チラシ」
火災保険や地震保険は、加入や支払いに制限が設けられていますが、フェニックス共済は組み合わせてこそ威力を発揮するということですか。
山本さん:その通りです。フェニックス共済は、地震保険やほかの共済に入っていても加入できますし、給付も受けられます。図2はあくまでも金額の一例ですが、「公助(国からの支援金)」と「共助(フェニックス共済)」の金額は変わりませんので、「自助」の部分、いわゆる地震保険やほかの共済を再建資金に合わせて備えを充実させることで、もしもの時に持ち出しがほとんどなく家を再建することが可能となります。
負担金が定額というのも特徴的ですね。
安藤さん:住宅所有者による助け合いの制度ですので、負担金は一律が良いと考えています。
被災者支援については各都道府県で独自の制度が行われていますが、兵庫県が全国に先駆けて共済制度を作られたきっかけは何だったのでしょう。
山本さん:もともと根底にあるのが阪神・淡路大震災です。当時は、高齢者をはじめ多くの方が住宅再建を断念せざるを得なかったんですね。そういった方たちが他地域や他県に避難され、そのまま戻られないケースが発生しました。コミュニティを離れ、つながりが断ち切られたことにより、知らない土地で「孤独死」された方もおられます。ひとたび住まいを失えば、生活の根幹まで脅かされることになりますので、被災者が住み慣れた土地に自力で住宅を再建できるようにしたい、という県の強い思いがあったんです。
安藤さん:住宅再建が進まなかったことで、結果的に地域の復興が遅れてしまいました。兵庫県は、震災直後から「住宅地震災害共済保険制度」を提唱するなど、全国的な支援制度の創設を国などに求めました。残念ながら全国制度としての共済は立ち上がりませんでしたが、1998年に「被災者生活再建支援法」が法制化され、2回の改正で最大300万円まで公費で支援するようになりました。ただ、実際のところ300万円で家は建てられません。しかも、2004年までは支援金の使途が家財道具の調達など身の回りの生活用具に限定され、新築・補修費への支給は認められませんでした。だったらまず兵庫県から、と県独自に所有者相互の「共助」のしくみを作り、住宅建設本体に給付できるようにしたのです。
図2 出典/兵庫県住宅再建共済基金
「フェニックス共済チラシ」
ニーズに応じて進化するも伸び悩む加入率
これまで、どのくらい給付されているのでしょうか。
福永さん:2017年8月末までに、20件の自然災害に対して6億530万円を給付しています。一番金額が多かったのが、2009年に佐用町を襲った台風9号による水害で4億4,680万円。この時は家財の被害が多かったのですが、当時は家財のための制度がなかったので、翌年新たに家財再建制度を創設しました。次に多かったのが、2013年の淡路島を震源とする地震災害で6,860万円。この時は一部損壊が被害の大半を占めており、これも給付の対象外でしたので、翌年一部損壊という特約を設けています。
被災地ならではの俊敏な対応ですね。フェニックス共済は手持ち資金が少ない方にもうれしい制度だと思いますし、加入されている県民の方も多いのではないでしょうか。
福永さん:残念ながら全体の加入率は9.5%で、創設時からの目標である15%には届いておりません。2017年8月末時点での加入戸数は16万7,311戸で、あと10万戸ぐらい加入いただかないと達成できないんですね。
兵庫県では、2009年以後毎年のようになんらかの自然災害が起こっていますので(図3)、県民のみなさんは自然災害への危機意識が高いのではないかと思いましたが。
福永さん:確かに、災害があった地域にお住まいの方の意識は高いですね。佐用町の加入率は県内市町で一番高く、30%を超えています。淡路地域も南海トラフに備えておられて、全体的に高めです。一方、マンションの多い都市部はどうしても低い傾向にあります。マンションは頑丈なイメージがありますし、住宅再建は所有者が対象ですので賃貸マンションではオーナーさんしか加入できませんのでね。
安藤さん:あれだけ大きな地震があり、被害も大きかったなかで、当初は入ってくれるだろうという期待はあったんですが、震災直後に住宅再建共済の全国制度化を目指して現在の形になるまで、結局10年もかかってしまったんですね。その10年の間に県民のみなさんの危機意識が若干薄れてきたのかなあというのが個人的な印象です。
給付金を支払った災害
(平成29年5月31日現在)
図3 出典/兵庫県住宅再建共済基金「パンフレット」
保険会社とタッグを組んで地域の防災力を高める
加入率が伸びない要因として、どんなことが考えられますか。
安藤さん:2年前に当基金でインターネット調査をしたんですね。1,000人ほどの回答があったのですが、「加入している」あるいは「内容を知っている」という方はわずか22.2%で、過半数が「知らない、なにそれ」という結果が出まして。われわれもいろいろPR活動をしているなかで、かなり衝撃的な数値でした。これはいかんなあということで、2016年から9月を強化月間として集中的にイベントや街頭キャンペーンを行っています。
他にも、うちわを配ってのPRや自治会さんにお願いしてチラシを全戸配布するなど、県民のみなさんに少しでも知ってもらえるよう努力しています。チラシのポスティングは、昨年4市町に協力いただき14万部を配布しましたが、今年は23市町に枠を広げ、部数も倍増しました。また、各市町の広報紙に小さいコーナーを設けてもらっています。こちらも昨年は12市町だったのを、今年は20市町に増やしました。
イベントやキャンペーンなどは、県民の方と直接ふれあえるいい機会だと思いますが、みなさんのリアクションはいかがですか。
安藤さん:PR活動をしていると「入ってるよ、県民共済でしょ」といわれることが多いんです。共済にしても保険にしても乱立していますので、そのあたりの区別をどう説明していけばいいのか非常に悩ましいところですね。もう一方で「公助」「共助」「自助」のこともありますので、「地震保険」と「フェニックス共済」、お互いに入ってもらいましょうということで、他の共済さんに加えて昨年度から一部の損害保険会社さんと新たな取り組みを始めています。
山本さん:2016年7月に三井住友海上火災保険株式会社さん、損害保険ジャパン日本興亜株式会社さんの二社と相互協力協定を締結しました。保険会社さんが所管されている地震保険の代理店さんでフェニックス共済のPRをしていただくなど、相互に地域の防災力を高めるために協力しています。
今後、気候変動の影響で台風の大型化や局地的豪雨が頻発するだろうといわれていますし、先ほどお話にありました南海トラフ地震の発生確率も高まっています。給付額が積立金を上回る可能性も出てくるのではないでしょうか。
山本さん:給付金額は、過去100年間の被害状況からシミュレーションして決めています。今の時点でその想定被害を超えたことはないですし、積立金も現在約70数億円ありますので、ある程度は賄えるのではないかと思っています。ただ、南海トラフ地震により大きな被害が発生した場合は、厳しいかもしれません。一時的な積立金の不足には、共済基金が金融機関から借り入れを行って対応いたしますが、多くの方に加入いただくことで、より強固な「住宅所有者相互の助け合い」が可能になるのでは、と思っています。そういう意味でも、兵庫県は引き続き、全国展開に向けて働きかけていきたいと考えています。
(2018年2月22日掲載)
関連サイト(2022年10月14日更新)