中部地方初の愛知県気候変動適応センター
取材日 | 2021/9/14 |
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対象 | 愛知県環境調査センター 企画情報部 部長 渡邉省吾 主任研究員 小島徳久 技師 松田涼樹 |
愛知県の地域特性について教えてください。
渡邉さん:愛知県は太平洋側に位置し、日照時間が長く、住宅用太陽光発電施設の設置台数は15年連続で全国第1位です。また、工業・産業県であり、製造品出荷額等は1977年以来43年連続で全国第1位です。特に、自動車に代表される「輸送用機械器具」は圧倒的な全国シェアを占めます。花きやキャベツをはじめとする農作物の生産や、鰻や鮎の養殖業も盛んです。人口は2020年度調査で約755万人、全国第4位となっています。
愛知県気候変動適応センター設置の経緯と、その組織体制について教えてください。
渡邉さん:愛知県では2019年2月22日、『あいち地球温暖化防止戦略2030 第5章』を気候変動適応法第12条の規定に基づく『地域気候変動適応計画』に位置付けました。そして同年3月22日に、気候変動適応法第13条第1項に基づき中部地方初の『愛知県気候変動適応センター』を設置しています。この適応センターは、県内の気候変動影響や適応に関する情報を収集して地域に情報提供を行うことで、事業者や県民などの各主体に、適応への取り組みを強化してもらうための拠点となっています。適応センターは、愛知県環境調査センター企画情報部内に設置しています。従前から環境保全に対する調査研究や、その他環境情報の収集分析などを行っていることから、愛知県環境調査センターに設置することが適切であると判断されました。企画情報部長である私と、正規職員二人が業務に当たっています。また、県の適応計画については、適応センター設置などを踏まえ、本県における更なる適応策の充実を図るため、2020年7月に改定しています。
県庁内の関係部局の方々とは、どのように連携を取られていますか。
渡邉さん:本庁の環境局地球温暖化対策課が県の適応計画に基づき、県庁内の各関係部局を主体とした適応策や地球温暖化対策を推進するなかで、適応センターから関係部局への情報共有や提供などを通して連携を図っています。
市町村との連携は、今後どのように検討されていますか。
松田さん:2021年度は市町村や県関係者向けに、気候変動影響や適応策に関する助言を得る場として研究会を開催しました。第1回目は8月に開催し、気候変動全般をテーマとしました。第2回目は11月に国民生活・都市生活の分野をテーマとして開催する予定です。参加者は環境関係部局の方が多いですが、関係部局の参加が増えるよう第3回のテーマや今後の進め方をしっかり検討していきたいと思います。
定期発行されている『愛知県気候変動適応センターだより』の内容がとても充実していますが、どのように企画を立て、情報を整理されているのでしょうか。
松田さん:『愛知県気候変動適応センターだより』は気候変動影響や適応などについて、A4サイズ1枚に記事をまとめた刊行物です。身近な季節の話題、気候とその影響、適応等に関する内容をわかりやすく取り上げることを目指しています。適応センターを設立して以来、広く県民や事業者に向けて毎月発行しています。
毎月発行ですから、例えば2021年6月号では梅雨の雨に対する注意喚起について、7月号では熱中症警戒アラートについて紹介するなど、季節に即した話題を取り上げ、きめ細やかな情報提供を心掛けています。
渡邉さん:愛知県環境局が毎月発行している環境情報誌『環境かわら版』に掲載するとともに、適応センターのWebページ上でも過去1年分のバックナンバーをご覧いただけます。環境かわら版については発行開始から25年目を迎え、最近300回を超えました。かなり昔から、環境に対する啓発が大事という意識で続けています。
環境省「国民参加による気候変動情報収集・分析事業」における愛知県の取組内容をお聞かせください。
小島さん:環境省から委託を受ける形で進めさせていただいて、今年で3年目になります。2019年度には、気候変動についてどのくらい知っているか、日頃感じている影響にはどんなものがあるかなどを県民や事業者に答えてもらい、その結果を分析してフィードバックし、地域の気候変動への理解促進を図りました。適応センターとしては、気候変動適応への認知度が問題だと考えています。アンケートの結果でも「まったく知らなかった」「あまり知らなかった」の回答を合わせると、60%近くにのぼりました。緩和と両輪で普及啓発していくことの必要性を強く感じており、この取り組みを継続して行っています。
2020年度には、1年目で得られた県民が日頃感じている影響の中から、地域にとって優先的に対応が求められると判断された気候変動影響を抽出し、詳細な情報収集と将来リスクを推定するための計画を立案しました。
3年目となる本年度は、昨年度立案した計画をブラッシュアップし、熱中症発症の将来推計を行い、暑熱対策に関わる適応オプションを検討、整理して、適応策の促進を図ります。愛知県は夏になると、三重県の鈴鹿山脈などから湿気を含んだ高温の風が濃尾平野に吹き込むなど、気温が上昇しやすくなる気象特性もあって、温暖化に伴い暑熱に対する適応の必要性が高まると考えています。
今後、3年間の成果を発信することで、熱中症発症件数の抑制をはじめ、適応策の推進を図るとともに、地域適応計画の今後の充実にもつなげていきたいです。
3年目となる将来の影響予測について、どのように検討をされていますか。
小島さん:幅広い気候変動影響の中から、暑熱対策、熱中症対策に絞り込むと、どんどん専門性が増してきます。やはり専門家の知見が必要ですので、お力を借りながら進めているところです。
今後、気候変動リスクに対応していくためには、情報収集もそうですが、適応センターも組織としてノウハウを積み重ねていくことが大事です。国からのご提案で関わらせていただいたことが大きな力量アップにつながっており、大変ありがたく思っています。
今後の展望や予定などありましたら教えてください。
渡邉さん:環境調査センターは施設の建替えに伴い、最新の設備を兼ね備えた環境学習の拠点『あいち環境学習プラザ』を2020年4月にリニューアルオープンしました。そこで気候変動適応に関する学習支援も行っていきたいと、工夫を重ねているところです。
環境学習プラザの展示映像施設には、ハンズオン展示や、動画タブレット端末などを使いながら、SDGsも含めて様々な学習ができる仕掛けがあります。環境に配慮した行動を促すプログラム展示や、気候変動適応に関するコンテンツも展示中です。また、リサイクル工作や各種実験などを行う環境学習講座も開催しています。講師は『あいちecoティーチャー』という名称で、中高年のみなさんが活躍中です。現在、30人ほど登録いただいています。
最後に、気候変動適応の業務に携わるやりがいをお聞かせください。
渡邉さん:適応センターも3年目になりますが、これまで様々な情報収集や情報発信に力を入れてきました。毎月の『愛知県気候変動適応センターだより』の発行は職員への負担も大きいですが、自ら情報収集し、学び、発信していくプロセスを通して、組織としての成長が感じられています。
小島さん:気候変動の影響は、今後も程度はどうあれ、大きくなっていくことが予想されます。適応関係の普及啓発を担うセンターの重要性は、今後もますます高くなっていくと思います。このように重要度の高い業務に携われているということが、やりがいにつながっています。
あとは、影響が広範囲にあることから、多種多様な分野の問題に触れることができるというのもやりがいのひとつではあります。県民の快適な生活の維持が、適応策が目指すところと思いますので、それに役立つ情報を収集し、今後もわかりやすく提供していきたいです。
松田さん:私は修士時代に研究で気候モデルや大気化学輸送モデルを扱っており、国立環境研究所のスーパーコンピューターを利用させていただくこともありました。そのような研究を通し、得られた気象や気候に関する知識や技術を、適応センターの業務のなかでこれからも活かしていけたらと思っています。
(2022年2月9日掲載)