インタビュー地域気候変動適応センターVol.8 岐阜県

県と大学の共同運営!岐阜県気候変動適応センター

取材日 2020/9/8
設置機関 岐阜県環境生活部環境管理課 及び 岐阜大学
対象 岐阜県環境生活部環境管理課 居波慶春課長、高澤信宏主査
岐阜大学 野々村修一教授、村岡裕由教授、原田守啓准教授

設置背景

岐阜県気候変動適応センター設置の経緯を教えてください。

居波さん:岐阜県と岐阜大学は2015年度から2019年度までの5年間、文部科学省「気候変動適応技術社会実装プログラムSI-CAT」にモデル自治体として参画してきました。2018年度に気候変動適応法が施行され、これまでの連携体制を活かし、県と大学の共同運営という形で「岐阜県気候変動適応センター」を2020年4月に設置しました。看板は岐阜大学に置き、事務局は県で担う体制です。センター設置と共に県の職員が1名、大学に駐在する形となりましたが、現在、高澤主査が駐在職員としてセンターに関する連携や調整を担っています。知事はセンター設置の際に大学の知見や経験を活かす方針で、様々な気候変動による影響に危機感を抱いています。県のセクション(関係部局)と大学の共同研究もセンター事業のひとつです。県が実施したい研究を大学に提案できる仕組みとなっています。

原田さん:大学と県は以前から包括連携協定を結んでおり、センター設置に伴い適応の観点が新たに追加される形となりました。センターには、県のすべての研究機関が参画しています。試験場などで蓄積された現場知を大学に提供いただくことで、県のニーズと大学の研究シーズをマッチングする目的があります。センター予算としては県からの財源に加え、今年度開始した環境研究総合推進費や科研費等の研究資金も獲得しています。

野々村さん:岐阜大学は「地域に貢献すること」を目指しています。知事と学長以外にも、県と大学にはそれぞれキーマンと呼ばれる人材がおり、相互に働きかける体制を構築してきました。大学が行政や地域のコンサルタント業務を担い、対価を得る仕組みも整備しています。原田先生がセンター長を務める地域環境変動適応研究センターでは、他組織との連携も含めて柔軟に活動できる体制が特徴です。

活動内容

岐阜県気候変動適応センターの事業内容について詳しくお聞かせください。

原田さん:事業内容は6つ (1)情報収集・整理・分析、(2)共同研究、(3)人材育成、(4)普及啓発、(5)技術支援、(6)その他に分けられます。具体的には、地域気候変動適応計画の策定に向けて、県が影響予測等の情報を整理しており、大学は研究論文等の収集を支援しています。共同研究では、例えば気候変動に伴う柿の影響評価と転換品目を含めた栽培適地マップの作成に取り組んでいます。近年暑さによる柿への影響が生じており、栽培適地や代替物の検討などを行っています。基礎データを県の研究機関から共有いただき、大学がモデルを作り影響予測などを行っています。また、人材育成事業では小中学校向けの教材開発も実施する予定です。

村岡さん:高山市では、国立環境研究所と連携して森林のCO2循環の研究を続けています。その流れから適応として貢献することを含めて、自然教育について市と調整を進めています。

岐阜県で県民の方が感じられる気候変動影響などはありますか。今後20年, 30年先を見据えたなかで、気候変動による影響リスクと、それに対する備えをどのように推進されたいとお考えでしょうか。

高澤さん:県では今年7月、県政モニターの方々を対象に温暖化対策等に関するアンケート調査を実施し、744人の方から回答をいただきました。その中のひとつに「気候変動に関して県に期待する取組み」について項目を設けました。結果として「災害対策」「熱中症対策」「農業の技術向上・品種開発」が上位となりました。

居波さん:今年7月の豪雨により、本県では複数の地域で過去最高の雨量を記録し、想定していなかった場所での土砂災害や水位上昇が生じました。環境大臣と内閣府防災担当大臣の共同メッセージにもありましたが、災害からの復興にあたり「適応復興」という表現がされていました。単なる原形復旧ではなく、例えば、流域全体を俯瞰した堤防の改良や護岸工事、さらには土地利用のコントロールを含めた弾力的な対応を進めるアプローチが求められると考えています。

今後の展望

気候変動適応に携わるやりがい、今後の展望についてお聞かせください。

高澤さん:将来の生活環境を守るための仕事をできることはやりがいだと感じています。大学と協力し科学的な知見を積極的に取り入れ、県の施策を正しく実行するために努めていきたいです。

居波さん:適応は幅広い分野に関係しています。県職員だけでなく、県民や事業者等も含めて総合的かつ横断的に調整を行う過程で自分の視野も広がり、やりがいを感じています。本県でもカーボンゼロという目標を検討していますが、早急に対応できるものではありません。今後は気候変動に対する適応策を適切に講じていく必要があると考えます。

原田さん:私の専門は河川工学ですが、SI-CATを機に大いに勉強させて頂きました。その過程で、同士と呼べる県内外の繋がりもできました。なにも対策を打たなければ2030年、2040年には甚大な被害も想定されています。私自身、大学にとどまらず地域の方々と積極的に議論に参加することを大切にしています。施策の整備には時間を要しますが、ここ数年で気候変動適応法が施行され、少しずつ変化が生じている時だと思います。一つでも二つでも、地域に良い変化を与えられるように活動していきたいです。また、新型コロナウイルス感染症対策を考慮しながら、気候変動にも適応する地域の活動を強化していきたいです。

村岡さん:私は特に森林を対象として生態系分野でのモニタリング等に取り組んでいます。私たちの生活圏の地球環境の基礎である生態系やそこに生息する生物は、気象環境の変化に対して敏感に反応します。したがって、生態系や生物多様性の変化を検出することは、気候変動が生活環境にもたらしている影響をいち早く明らかにする「センサー」となります。身近な環境や生態系のデータは適応策の検討や評価のための基盤的な知見となるため、重要だと考えます。このような観点から、地域の気候変動適応に貢献していきたいです。

野々村さん:35年前、私が博士課程のときに太陽光発電に関する研究を行っており、当時、地球温暖化が進むと病原菌が増大して乳児に影響を与えるという大変な認識を抱いていました。それから緩和策としてFITなどが整備され、実際に導入されるまでに長い時間を要しましたが、今後、適応においても、同様の事態が起きる可能性があると危惧しています。大学として気候変動に関する情報を収集・整理・分析を行いながら、それらが県の施策に活きる支援をしていきたいです。気候変動による影響は待ったなしの状況です。私たちが今すぐにでも取り組むべき重要な課題だと思っています。

この記事は2020年9月8日の取材に基づいて書いています。
(2020年12月10日掲載)

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