インタビュー適応策Vol.57 食品ロス特集

野菜や果物の色そのままに、子どもが学べる楽しいクレヨン

取材日 2024/7/25
対象 mizuiro株式会社
代表取締役 木村尚子
日本では現在、年間を通じてさまざまな食品を手に取ることができます。しかしその背景には、大量の食品廃棄物問題が社会課題となっています。一方、生産現場では、気候変動による高温障害などを理由とした農作物の品質劣化も増え始めています。こうした状況に対して、食品廃棄物や廃棄される見込みのある農産物を、新たな付加価値を持たせて再利用する動きが各所で取られています。気候変動対策の緩和と適応、両方につながり、農業生産者を守ることにもつながる取り組みです。4社の事例をご紹介します。

おやさいクレヨンとは、どのようなものですか?

米ぬかからとれる米油とライスワックスをベースに、廃棄される野菜や作物の色を顔料として使用したクレヨンです。
私は青森県出身で、フリーランスでデザインの仕事をしながら、プロダクトデザインにも興味を持っていました。おやさいクレヨンのアイデアを思いついたのは2011年で、「地元の特産品を使って、デザイナーの立場でちょっと変わった切り口のプロダクトを作ることはできないか」と思ったのが始まりです。
まだ娘が小学校2〜3年生のころだったので、一緒に遊べるものがいいと考え、「野菜の色で絵を描くのはどうか」と思いつきました。あくまで趣味の延長でしたね。

どのような作業から着手していかれましたか?

そもそも最初は「野菜で絵を描く」という発想だったので、クレヨンではなく絵の具はどうかと考えていました。しかしジュースをしぼり、筆で色をつけるところまではおそらく誰でもできると思うのですが、それを製品化して流通させるとなると、腐敗や劣化などについても考えなければなりません。突き詰めていくと、そんなに簡単なことではないということがわかりました。

そこで、ほかの画材として色鉛筆やクレヨンといった選択肢が出てくるわけです。色鉛筆だと芯を焼く工程があるのですが、焼くということは高温で野菜や果物を焼かなければいけないので、ちょっと難しいのではないかというところに行きつきました。そこでクレヨンがなにでできているのか調べると、ワックスと顔料ということがわかったんですね。顔料の部分を野菜に置き換えることは可能か検証するために、溶かしたろうそくを製氷機に入れて、ジュースを混ぜて作って描いてみたら、思ったより色が出たんです。

木村尚子さんの写真
木村尚子さん

最初はご自身の実験から始まったのですね。

はい。趣味の延長だったのであまり深くは考えていなかったのですが、異業種交流会などに参加したとき、その段階でアイデアを周りの人たちに話していたんです。そうしたら、たまたま6次産業化支援の窓口の方がそこにいらっしゃって、「面白いアイデアだから、事業化したらどうか」とアドバイスをくれたんですね。

具体的に補助金もあるというので何度か窓口に足を運んで、補助金申請をすると採択されたので、本格的にクレヨンを作る流れになりました。

いま、製造を依頼している工場にはどういう流れでお願いすることになったのでしょうか?

すべて自分で探しました。日本絵具クレヨン工業協同組合に加盟している工場をリストアップするなかで、たまたまYouTubeでクレヨンの作り方の動画をあげていた名古屋の工場を見つけたんです。それが11〜2年前の動画で、そんな前から投稿をしているということは、新しいことに対して感度が高いのかもしれない、という予想のもと、電話をしてみました。

電話に出たのがいまも担当してくださっている方なのですが、当時は青森から「野菜でクレヨンを作りたい」と話したところ、あまり意味がわかっていなかったようでした(笑)。そこで詳しくお話をすると、手伝ってあげると言ってくださったんですね。
こんなことに協力しても、事業にはならないだろうと思っていらっしゃったようですが、ちょうどご担当の方も、新しいクレヨンを作りたいと考えていたタイミングだったようです。

そもそも、廃棄野菜を手に入れてから、どのような工程でクレヨンを作っていくのでしょうか。

まず、収穫時期にまとめていただいた廃棄野菜は、最初に粉末加工します。そうすると、数年間はもつんです。
その野菜パウダーを、米ぬかからとれるライスワックスと米油でブレンドし、金型に流し込んで冷やして作ります。
乾燥機を持っていらっしゃる生産者さんは、乾燥までして渡してくれますね。ない場合はこちらで引き取って、加工場で一気に乾燥からパウダー加工までしてしまいます。

おやさいクレヨンは10色ですが、配色のバリエーションは最初から変わらないですか?

最初のバリエーションとはちょっと色が違います。どうしても生産できなくなってしまった野菜や果物があるからです。たとえば最初は、青森県産カシスのジュースの搾りかすをいただいていたのですが、後継者不足で畑の維持ができなくなったという理由で、クレヨンにも使うことができなくなりました。
いまは、個人というよりもう少し大規模な工場から出る残渣を譲っていただいており、青森県産のものだけ使用しているわけではありません。

そもそも、クレヨンの色の構成には結構悩んだんです。ベースが野菜なので、色が緑と黄色に偏ってしまったんですね。こんなに使いにくい配色のクレヨンで大丈夫なのか、という葛藤はありましたが、よく考えたら畑には青がありませんし、自然にある色をそのまま商品化してもいいのではないか、と思い、決めることにしました。

クレヨンの写真
現在の配色。年によってバリエーションに変化がある場合もありますが、青森県産のリンゴは残っています

食品の加工場も、何社か取引があるのですか?

はい。最初は青森県庁の農林水産課に相談して、ご紹介いただいたところとご縁がつながり始まったのですが、現在は地方の農協にお願いして紹介してもらうこともあります。弊社はOEM(他社ブランドの製品を製造すること)も請け負っているため、企画によってはお客さまに「この産地のものがほしい」と言われることもありますね。

そのほかにも、食物が循環しているという企業のPRとして、食品メーカーから出た残渣を使ってクレヨンを作ることもあります。最近では、自社製品とOEMの比率は半々くらいです。

ストーリーのあるクレヨンということで、注目する企業も増えているということですね。

生命保険会社が3年間、既存のおやさいクレヨンを全国の支社から子どもたちに寄贈するという社会貢献をしてくださったこともありました。多くの子どもたちに、このクレヨンが届けられたのはうれしかったですね。かなり大規模な展開で、結構な量のクレヨンを作ったんです。その結果、多くの廃棄野菜や残渣が活用できました。

廃棄作物で製造した商品の写真
クレヨンのほか、廃棄作物を使ったカレンダーやノート、ちよがみなどもOEMで製造

認知度も高くなってきたおやさいクレヨンですが、ワークショップも頻繁に開催されていますね

要望が多いんです。単純に塗り絵をする回もありますが、透明なジェルにクレヨンを削って着色するキャンドル作りや、野菜で染められた布におやさいクレヨンで絵を描くワークショップなど、内容は多岐に渡ります。企業とコラボレーションして、企画を考えることも多いです。

お子さんもたくさん参加されると思うのですが、ワークショップを通じて多くの人に伝えたいことはありますか?

商品自体は単なるクレヨンなのですが、買って終わりではなく、それを使う時間に心が温まるような記憶が残るといいなと思います。
このクレヨンが野菜からできているということの説明は、小さい子には難しいかもしれないのですが、遊びを通じて少しずつ学んでいくことで、大人になったときに「あのときお父さん、お母さんは、クレヨンから食べ物の大切さを伝えたかったのかな」と思い出してくれるかもしれない。それが、社会の意識を高める一端になるのではないかと期待するところもあります。廃棄食物が増えているという問題も、小さな積み重ねの教育でしか変えられないと思うからです。

今後の展望について教えてください。

いまは地元のJAアオレンが作っているリンゴジュースの残渣で、リンゴジュースのダンボールを作ろうとしています。これが実現するとかなりの枚数のダンボールを作ることができ、残渣を配合したダンボールでリンゴジュースを出荷するというひとつのリサイクルの形ができます。

クレヨン1本1本に入っている野菜の量は、さほど多くはありません。それでもこの10年間の蓄積で、ある程度の結果は出たのではないかと思います。ここ10年でアップサイクルの概念が広まり、各所で続々と新しい商品が誕生しました。もしかしたら、私たちが最初のきっかけ作りになることもあったかもしれません。そういう意味でも、まずは継続させることが大事だと実感しますね。

リンゴジュースの搾かすから生まれた商品

この記事は2024年7月25日の取材に基づいています。
(2024年11月28日掲載)

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