ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編
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温暖化によって、植物の分布や季節的な反応が変わってきていると聞きますが、どのようにすれば私にもその変化を見ることができるのでしょうか?

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回答者:小出 大
小出 大
気候変動適応センター
気候変動影響観測研究室
小出 大

変化が生じやすい場所や対象を注意して見ると良いでしょう。生物種ごとの分布の北限・南限や、開花日などの生物季節は、温暖化に対して反応が出やすい感度が高い場所・対象と考えられます。しかし目で見ただけでは気づきにくいので、地図やグラフの上で過去のデータと比較すると変化を見やすいと思います。また1 人では目の届く範囲も狭いですし長く続けにくいので、できれば仲間を募って一緒に観察すると良いと思います。その際に、観察した場所や植物種をシェアして、モデルから予測された情報や過去の情報とも比較しながらみんなで観測すると楽しいのでは無いでしょうか。他の人達と繋がりながら、ゲームのように楽しめる工夫を入れつつ、専門家とも情報交換しながら変化を発見できると、自然の恵みを最大限楽しめてその変化も敏感に感じ取ることができると思います。

1. 気候変動による身近な変化

温暖化や気候変動の影響が注目を集めていますが、自然生態系の樹木や草花においてはすでに変化が起きていると考えられます。桜の開花の早まりはよく話題になりますが、そのほかにも秋の紅葉の遅れ、分布の南限における年輪生長量の減少や次世代を担う若い木の減少、分布の北限における若い木の増加、冷涼な気候を好む落葉広葉樹林から温暖な気候を好む常緑広葉樹林への変化など、様々な変化が見出されつつあります。さて、皆さんの周りではどうでしょうか?ここですらすらと身の周りの植物の変化を挙げられる人は少ないと思いますが、先に挙げた植物の変化は特別な場所だけで起こっているわけではありません。気温は多くの植物の活動を左右する重要な要因であり、温暖化はある1地域の現象ではなく全国的に生じることを考えると、皆さんの周りでもたくさん起こっていると考えられます。

2. 変化を観測・実感する方法

しかしそうは言っても、植物の変化は通勤通学や散歩の途中にチラッと見るだけですぐに分かるものではないと思います。ではどうしたら植物の分布や季節的な反応における変化を見出せる様になるのでしょうか?ここでキーワードになるのは、「感度」と「比較」です(図1)

図1:気候変動による植物の変化を検出するための「感度」と「比較」によるアプローチ
(概念的に示した図であるため、実際には異なる挙動を示す種もいる可能性があります)

気候変動というのは100 年などの長い時間スケールの中でだんだんと生じる現象であり、その年々や10 年とか20 年間における気温の変化幅は植物にとって小さなものです。そのため植物にとって「感度」の高い、少しの気温の上下で変化が生じやすい場所や対象を観測する必要があります。たとえば、分布の北限・標高的上限(寒い限界)や南限・標高的下限(暑い限界)などは、ギリギリで生きている極限状態の生活になっている可能性が高い場所です。こうした場所での気温のちょっとした変化は、植物種の個体数や生長量に大きな変化を生じさせやすく、気温に対する感度の高い場所と考えられます。こうした場所はなかなか行けそうもない場所だと感じられるかもしれませんが、意外と知らないだけで種ごとの分布域をまとめた分布予測図を丹念に調べると皆さんの近くにもいずれかの種の分布限界があるかもしれません。他にも温度の変化に対してすぐに植物の分布変化が起こりやすい例として、寿命の短い種(温暖化によって生育しにくくなると短期間で分布が消滅する)や、種子を遠くまで飛ばすことのできる種(温暖化で新しく生育しやすくなった場所に素早く分布を広げる)などが挙げられます。また、その年の気温に対して当年のうちに反応が現れる開花日、展葉日、紅葉日などの生物季節も「感度」が高い事象と言えるでしょう。

一方で「比較」ですが、今年撮った富士山の冠雪の写真を見ても、「綺麗だなぁ」と思うだけで、過去の写真と比較しなければ冠雪が少なくなっているかどうかが認識できない様に、いろいろなものとの「比較」は自然の変化を認識する上で効果的な手法と言えます。過去と現在の比較は最も基本的な気候変動の影響を検出するアプローチと言えるので、過去に撮影された写真に写っている場所や図書館などで調べた過去の調査が行われた場所を訪れて、現在と過去の間で植物種の分布や組成(組合せ)、生物季節などを比較してみるのは、直接的に変化を実感できる手法と言えます。また、過去の分布がどの環境条件のところに見られたかをまとめ、調査されていない地域の穴を補完した分布予測図と温暖化した現在の分布観測との比較も、効果的な変化の検出方法と考えられます。気象庁が観測を廃止した動物などの生物季節における過去データ(https://www.data.jma.go.jp/sakura/data/index.html)を使って、同じ地域で現在のデータを観測して比較すること(https://adaptation-platform.nies.go.jp/plan/institute_information/information_01.html)も大切です。現状まだまだこれらの「比較」を支援するスマートフォンアプリなどのツールが充実していないのでなかなか実感しにくいですが、今後はこれらのツールと共にみなさんの身の回りの変化の認識・検出が進んでいくのではないかと私は考えています。

3. ひとつの趣味として

色々と気候変動の影響を検出する方法を述べましたが、現状ではツールが無いこともあって少しハードルが高いかもしれません。また予算や時間・人員も限られている中で仕事として影響の検出を行う方の中には、「よく分からないし難しそうだなあと」いう感想を持たれる方も多いかもしれません。しかし一つでも楽しいところが見つかると、意外と抵抗感なく自然を見続けることができるのではないでしょうか。そこで、ひとつの趣味として、ゲームとしてこれらの活動を楽しんでしまうのはどうでしょうか。具体的には、山地などにおける昔の風景写真と同じ場所で写真を撮影し、過去と現在を比較して時間変化を楽しむゲームなどです。動かない植物が意外にも動いてる様が見られたら、面白くないでしょうか?このゲームでは過去の写真を撮影場所の情報などとともにみんなで集めるターゲット情報の掲示板(山岳写真データベース(http://www.mountain-photo.org/)など)を通して、情報のやり取りと報告した写真の数を競うゲーム性なども織り込んでいけるとさらに面白い活動になるかもしれません。他にも分布が予測されるエリアを描いた分布予測マップとポイントで示される過去の分布データ(GBIF サイト(https://www.gbif.org/ja/)など)を地図上に描いて、実際の分布より寒い場所に進出していそうな所を探して最前線の個体を探し出す、冒険家的なゲームなどもあり得るかと思います。あまり山に行かない人であれば、過去の気象条件と開花日・紅葉日との関係式から予測された桜の開花日やカエデ類の紅葉日の予報(気象庁、日本気象協会、ウェザーニュースなどで発表)に対して、あなたの周りの桜やカエデ類はどんな性格(おてんばさんなのでちょっと早くなる/おっとりさんでちょっと遅くなる)を持っているかを見るのも面白いと思います。科学的に言えば、気象への反応の個体差と周辺の環境条件の違いでこうした性格の違いは現れます。どんな場所であればどんな性格の子が多いのかが、通勤・通学途中に3 日に1 度程度の頻度で見て取れると、あなたの観察日記として楽しい春が毎年やってくる様になり、性格を一変させた年を大きな変化が現れた年として検出できる様になるかもしれません。遊び方は無限大なので、もっと面白いやり方を探すことも良いと思います。また気軽に楽しみたい場合には、普段の生活で見られた生物のデータをみんなで報告してシェアするプラットフォーム(iNaturalist、いきものログ、Biome など)に投稿して、研究者などに変化を解析してもらうやり方もあります。しかしこれらを楽しむ重要なコツとして、一緒に楽しめる仲間とのネットワークを作ることが重要でしょう。この点は地元の方々などの直接的なつながりや、地元の自然に詳しい方々(博物館学芸員、パークレンジャー、植物の会など)だけでなく、SNS やスマートフォンアプリを活用して、全国にネットワークとコミュニケーションを広げられるように工夫できるとさらに面白くなるかと思います。

4. 気を付けるべきポイント

ネットワークを作ることの利点はより楽しめるからだけではありません。お互いにデータをシェアして比較することで、より広い視野・視点で理解が深まり、植物の変化を楽しめることも重要です。ある場所・ある種で分布が北上していたとしても、もしかしたらその場所では過去に広範囲で木が伐られていて、そこから回復していく限定的な状況の中で北上が起きているのかもしれません。こうした場所や種による特殊な事象ではなく、普遍的に起きている温暖化に伴う現象なのかを確認するために、データのシェアや比較は重要なので、観測したデータはシェアできる形での蓄積を意識されるとより良いでしょう。また、ここまで温暖化や気候変動をメインに書きましたが、こうした数十年などの長期トレンドの影響以外に、年によってランダムにばらつく年変動による影響もあります。さらに実際の自然環境はこれら以外にも、土地利用変化、地形、地質など、様々な影響を受けています。そのため取られたデータや場所・種による歴史や背景を確認しながら議論する必要があります。こうした部分は是非専門家も巻き込んでみんなで議論し、その結果を受け取りながら楽しみつつ、みなさんの身近な自然をみんなで見守る形になれば、専門家としても嬉しいところです。

公開日:2021年11月22日 最終更新日:2021年11月22日

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