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ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編
05

気候予測情報のバイアス補正とは何ですか?

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回答者:石崎紀子
石崎紀子
気候変動適応センター
気候変動影響評価研究室
石崎紀子

気候予測情報は気候モデルによって計算されますが、過去や将来の気候を完璧に再現したり予測したりすることは簡単ではありません。そのため、計算結果の精度や誤差を評価しておく必要があります。過去の気候であれば測候所や衛星による観測値との比較ができます。過去を再現した気候モデルの結果を観測値と比較したときのギャップ、すなわち「それぞれの気候モデルが持つ系統的、または規則的に見られる誤差」をバイアスと言います。この現実とのギャップ(バイアス)が気候予測情報に含まれると、気候変動影響の評価を適切に行えません。バイアスを含む気候予測情報を、観測の情報を使って補正することをバイアス補正といいます。

1. 気候予測はどのように行われているか

気候予測は、天気予報と同じように主に全球気候モデルを使って行われています。気候変動の主な要因である大気中の温室効果ガスの排出量に応じて、気温や大気の循環、雨の降り方がどう変化するかなどを物理方程式に従って計算(シミュレーション)するのです。気候予測は特定の日の天気の予測ではなく、その時期の平均的な天候の傾向を長期間にわたって予測しているので、天気予報とは少し異なります。全球気候モデルは様々な国や地域の研究機関等で開発されていますが、それぞれのモデルには特徴があり、同じ温室効果ガスの増加に対しても同じ予測結果を出すわけではありません。

シミュレーションは、地球表面を格子状に区切って行われます。私たちが生活する地上の気候状態は、地表面の状態、上空の空気の状態や流れに影響を受けて変化します。そのため、それらを表現するために上空だけでなく地面の中も何層にも区切ります。全球気候モデルの格子の水平方向のサイズは数十 km から 100km 程度で、一つの格子はその広い範囲を代表する気温や降水の情報を持っています。

2. ダウンスケーリング(気候予測情報の高解像度化)

全球気候モデルの結果から世界中の国や地域の気候予測を調べることができますが、日本国内の都道府県ごとの気候予測情報を詳しく知るためには、数十 km から 100km という格子間隔では粗すぎるという難点があります。自然界では数 km から数千 km まで様々なスケールの現象が複雑に絡み合って気候を形成していますが、格子の大きさよりも小さなスケールの現象は表現されないためです。そのような場合には、全球気候モデルが計算した粗い気温や降水などの気象データを基に、細かい気象データを作成する手法を使います。これをダウンスケーリングと言います。格子に区切って物理方程式を解く「数値モデル」を使って限られた領域だけを細かくする力学的ダウンスケーリングと、数百 km スケールの大規模な場と数 km スケールのローカルな場の気象変数の統計的関係を用いる統計的ダウンスケーリングがあります。ダウンスケーリングされたデータも基本的に格子ごとに値を持つ情報ですが、カメラの画素数が上がることによって画像が鮮明になるのと同じように、格子のサイズが小さくなるのでより詳細な分布が得られます。このように、対象とする地域やスケールによって様々な格子間隔の気候予測情報があり、気候変動の影響評価や、適応策や緩和策を検討するための材料として利用されています。

3. バイアスとは

上述した通り、格子で区切った気候モデルの中では格子サイズよりも小さいスケールの現象を表現できません。簡略化したり近似したりして表現される小さいスケールの現象もありますが、自然界で起こっている全ての現象を完全に表現できる気候モデルは残念ながら存在しません。そのため、気候モデルによるシミュレーションの結果から得られた気候情報と、観測が示す気候情報の間にはズレが生じます。このズレが現実と気候モデルの間に生じる系統的な差である場合に、バイアスと呼びます。気候モデルが常に現実より 3℃高い気温を計算する場合は、その 3℃をバイアスと呼びます。このように定量的に示すことができるものの他に、定性的に表現されるバイアスもあります。例えば、梅雨前線があまり北上しない、太平洋高気圧の中心が東に偏るなどといったものです。全球気候モデルに限らず、力学的ダウンスケーリングに用いられる数値モデルにもバイアスがあります。

気候モデルでは、将来の予測を行うだけでなく、過去についてのシミュレーションも行います。過去については観測データの蓄積があるため、モデルが現実の場をどのくらいよく表現できているかどうかを観測と比較して評価することができます。過去のシミュレーション結果やバイアスの特徴を詳しく調べることで、気候モデルの問題点を把握し、改良が行われています。

4. バイアス補正とは

私たちの生活や農業、水資源、自然生態系などが気候変動によってどのような影響を受けるかということを調べるために、気候モデルによってシミュレーションされた気候予測情報や、ダウンスケーリングした気候予測情報を使います(図 1 参照)。大きなバイアスがある気候情報をそのまま使うと適切な影響評価ができないので、観測値を使って気候モデルの予測情報を補正します。これがバイアス補正です。観測値の存在する期間でまず補正方法を検討し、その関係を将来予測にも適用することで、将来予測の結果もバイアス補正されます。図 2 はバイアス補正の一例を示しています。観測された日本の陸上平均気温を示す黒い実線に比べて、ある気候モデルの結果を表した青色の実線は 3℃ほど高い傾向があることがわかります。観測と比較できる期間で補正手法を検討し(例えば予測結果から 3℃低い値に修正する等)、それを過去から将来まで適用した補正結果を赤色の実線で示しています。

バイアス補正は、都合のいいようにモデルの出力を加工する「データの捏造」とは異なり、「気候モデルにはバイアスがあるが、気候変動に対する気候システムの変化は信頼する」という前提の下に行われる、シミュレーションを行う様々な分野で必須のプロセスと位置付けられています。身近な地域の気候予測情報の多くはバイアス補正されたデータが使われています。例えば、国立環境研究所の A-PLAT(気候変動適応情報プラットフォーム;http://a-plat.nies.go.jp/webgis/index.html)で公開しているコメの収量や暑熱に関する予測情報は、バイアス補正された気候データを使って評価されたものです。また、気象庁による温暖化予測情報第 9 巻では、気候モデルの結果を観測地点でバイアス補正した気候変動情報が示されています。

(図1)気候予測情報の創出から影響評価への利用までの流れ
図 1:気候予測情報の創出から影響評価への利用までの流れ
(図2)日本の陸上平均気温の補正例。黒線は観測値、青線は過去から将来における気候モデルの結果、赤線は気候モデルの結果を補正したもの。
図 2:日本の陸上平均気温の補正例。黒線は観測値、青線は過去から将来における
気候モデルの結果、赤線は気候モデルの結果を補正したもの。

5. いろいろなバイアス補正

「バイアスをどのように定義するか」や、「何に注目するか」によって様々なバイアス補正手法の選択肢があります。簡便な手法の一つとして、モデルで計算された将来の値と過去の値の差や比(将来変化分)を取り出し、過去の観測値に加算または乗算する「スケーリング法」があります。他の代表的なものには、ある期間の観測と気候モデルの気象データをそれぞれ小さい値から大きい順に並び変えて、値の大きさの順位に応じた補正量を決定する「クオンタイルマッピング(Quantile Mapping; 分位数での比較補正)」という手法があります。図 3にその一例を示します。ある場所の気温について、観測値とモデル出力の時系列があります。気温を昇順に並び替えをして、小さい値同士、大きい値同士を比較して補正量を決定します。補正後の時系列は観測値と一致するわけではありませんが、補正を行った期間全体では平均値や標準偏差の値が一致します。目的や変数(気温、降水量、日射量等)に応じて多様な補正方法があり、バイアス補正されたデータの空間解像度や時間解像度だけではユーザーにとって適切な方法かどうかを判断することはできません。不適切な手法で補正されたデータを使用した場合、誤った影響評価結果を導く可能性もあるので、補正データの特性をよく確認してから利用することが必要です。また、極端な豪雨や滅多に発生しないような現象についてのバイアスは、補正手法が適切かどうかを判断することが難しいため、バイアス補正をせずに将来変化を議論する場合もあります。

6. バイアスをなくすことは可能?

全球気候モデルの格子間隔は、計算するコンピュータの能力とも深く関わっています。計算機能力は年々向上しており、全球気候モデルの格子間隔は以前に比べて細かくなってきています。格子間隔が細かくなると、再現できる現象が増えます。しかし、それでもバイアスをなくすことは困難です。気候状態を説明するための変数は気温と降水を含めて様々なものがあり、ある変数については観測とよく合っていても他の変数はあまり合わなかったり、平均値は合うけれど変動成分は合わなかったりすることもあります。

ダウンスケーリングによって格子間隔を細かくしても、同じ問題がつきまといます。格子間隔が大きいことで表現されなかった山岳域の気温分布や、地形性降水、フェーン現象などの再現性は力学的ダウンスケーリングによって向上し、これらの現象に関連するバイアスは小さくなることが期待されます。しかし、例えば台風がほとんど発生しないような全球気候モデルを力学的にダウンスケーリングしても、対象とする領域の中で台風が作り出されるわけではないため、台風時における強い降水を予測することはできません。また、統計的ダウンスケーリングでは、数百 km スケールの大規模な場は適切に再現されていることが前提なので、その大きな流れが実際と比べてずれていると、ダウンスケーリングされた結果が意味のあるものではなくなってしまう可能性もあります。このように、ダウンスケーリングだけではバイアスの問題を解決できないこともあるのです。また、時には観測値に問題がある場合もあります。気候モデルの開発者たちは、バイアスの原因について様々な視点から調査し、改良を重ねているのです。

(図3)クオンタイルマッピングを用いた気温の補正の事例。青色は補正前の気候モデルの結果、赤色は気候モデルの結果を補正したもの。
図 3:クオンタイルマッピングを用いた気温の補正の事例。
青色は補正前の気候モデルの結果、赤色は気候モデルの結果を補正したもの。
参考 さらにくわしく知りたい人のために

1)ココが知りたい地球温暖化 温暖化の科学 #16「コンピュータを使った 100 年後の地球温暖化予測」

2)ココが知りたい地球温暖化 温暖化の科学 #17「気候のシミュレーションモデルはどんな結果でも出せる?」

3)飯泉仁之直,西森基貴,石郷岡康史,横沢正幸 (2010) 統計的ダウンスケーリングによる気候変化シナリオ作成入門 . 農業気象 , 66, 131-143.

4)気象庁(2017)地球温暖化予測情報第 9 巻

公開日:2020年9月30日 最終更新日:2020年9月30日

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