ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編
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私のまちの将来の気候変動影響が知りたいです。どうすれば分かりますか?

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回答者:岡 和孝
岡 和孝
気候変動適応センター
気候変動適応戦略研究室
岡 和孝

気候変動により、自然環境や私たちの生活の至るところでいろいろな影響が生じることが予測されています。国が公表した「影響評価報告書」にはさまざまな分野における将来の気候変動影響が整理されています。気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)では影響をマップで見ることができます。なお、現状の影響の予測精度を考えると、予測結果の細かな値を気にするよりも、その影響が将来悪化するのか、改善するのか、その変化はどの程度なのかを知るためにご覧頂くのに有効です。また、マップの見られる影響も限られていますので、今後は予測精度の向上や知見の充実が重要な課題と言えるでしょう。

1. 迫りくる気候変動による影響

「真夏日が以前よりも多くなった」、「大雨が増加している」など、自然の変化を実感している人も多いのではないでしょうか。これらの変化の全てが気候変動によるものとまでは言えませんが、気候変動が確かにこのような変化の主な要因の一つとなっていることが、最新の研究によって明らかとなってきています。また、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出がこのまま増加すれば、更なる影響の顕在化も見込まれます。「気候変動によって自分が住んでいるまちは将来どうなるのだろう」と心配されている方も多いのではないのでしょうか。

2. 気候変動がもたらす影響

そもそも気候変動によって具体的にどのような種類の影響が生じるのか、みなさんはご存知でしょうか。気候変動の影響というのは、実は自然環境や私たちの生活の至るところで生じることが予測されています。国が公表した「日本における気候変動による影響に関する評価報告書」(以下、「影響評価報告書」と略す1))では、気候変動による影響が7つの分野(①農業・林業・水産業、②水環境・水資源、③自然生態系、④自然災害・沿岸域、⑤健康、⑥産業・経済活動、⑦国民生活・都市生活)に区分され、それぞれの分野における影響について、現在の状況と将来の予測に関する科学的知見が整理されています。例えば、①では農作物の品質の低下や収量の減少等、②では湖沼・ダム湖、河川での水質の悪化等、③では自然林・二次林、人工林の分布範囲や植物種の変化等、④では洪水や土砂災害リスクの増加等、⑤では気温上昇による熱中症搬送者数の増加等について言及されています。また、⑥では産業分野における影響について、⑦では文化や歴史への影響について言及されています。それ以外にもさまざまな影響が紹介されています。図1に「影響評価報告書」の整理結果を掲載します。重大性、緊急性及び確信度の観点から、科学的知見に基づく専門家の判断による評価となっています。

図1:気候変動影響評価の概要(出典:環境省「平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」)

3. マップでみる将来の気候変動影響

気候変動影響・適応に関する科学的知見等を公開することを目的に、気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)と呼ばれるWEBサイトが国立環境研究所より公開されています2)。このA-PLATには、気候変動影響をマップ上で見ることのできるツール(WEB-GIS)が公開されています3)。このツールを使うと、次のような指標の影響を見ることができます。なお、A-PLATでは将来の気候についてのマップも公開されています。

表1:A-PLAT で公開されている気候変動影響マップ
図2:マップで見る将来の気候変動影響(気温の場合)

例として、⓪気候の「気温」の場合のマップを図2に示します。この図では、MIROC54)という気候モデルで、RCP2.64)という(温室効果ガス)排出シナリオ下において21世紀末には日本の年平均気温が基準年(1981-2000年平均)と比較して1℃~3℃の範囲で上昇することが示されています。このA-PLATに実装されている影響のマップは「影響評価報告書」に掲載されている影響のほんの一部ですが、どのような影響が生じるかの、一例の把握としてご利用ください。今後も最新情報が追加される予定です。

なお、気象庁は将来の日本の各地域における気候の変化をまとめたレポート5)を、農林水産省は地域の主要な農林水産物に係る影響や適応情報をまとめた報告書6)を公開しており、その中にも気候や影響に関するマップが掲載されています。また、気候変動による影響を対象としているわけではありませんが、国土交通省は身のまわりで発生する危険性のある災害を事前に把握するために「ハザードマップ」を公開しています7)。住んでいる地域を知るための情報として是非ご活用ください。

4. 将来影響の予測結果をどのように理解すれば良いの?

いざA-PLATで公開されているマップを見てみると、気候モデルや温室効果ガス排出シナリオを選択する必要があり、またその選択によって将来の影響の予測結果が異なることに困惑されるかもしれません。将来の気候変動がどうなるかは、今後我々が排出する温室効果ガスの量に依存します。また、どの気候モデルを用いるかによっても将来の気温や降水量の予測値に違いが生じます。将来の予測結果は一意的なものではなく、気候モデルや温室効果ガス排出シナリオの違いにより差が生じます。将来に不確実性があるなかでどのような社会を目指すかを検討する必要があります。

A-PLATのマップでは最も細かくても1㎞四方のマス目ごとに影響が表示されており、身の周りで生じる影響をより詳細に(例えば数十m単位で)把握したい方は、がっかりされるかもしれません8)。理想的にはより細かい空間解像度で影響評価が出来ればよいのですが、計算機の性能やその計算に必要となる気候観測や影響評価のための情報が十分ではない等の理由のため困難であるのが現状です。また、そもそも気候予測や影響予測の精度にも限界があります。このため、A-PLATのマップの利用に際しては、隣り合うメッシュや領域等の予測結果を比較したり、予測結果の細かな値を気にしたりするよりも、ある影響が将来改善するのか、悪化するのか、そしてその変化はどの程度なのかを知るために利用するのが適切と考えられます。

5. どのような指標についても影響の予測結果はあるの?

前述の「影響評価報告書」にはさまざまな影響が紹介されています。では、あらゆる指標についての予測が記載されているのでしょうか。残念ながら現状ではそうではありません。これにはさまざまな理由があります。例えば、現時点においては気象と影響の関係がよくわかっていない、また影響を検討するために十分な観測データがないといった科学的知見の不足等が存在します。また、日本全国を対象とした予測結果はあるものの、ある地域やまちの中の影響を詳細にみるほどの予測精度がまだない場合も多々あります。これらの課題はすぐには解決できませんが、知りたい影響のニーズと提供できる科学的に正しい知見とのギャップをどのように埋めていくかは重要な課題と言えるでしょう。

6. 最後に

気候変動影響に関する研究は今後もどんどん進展していきます。2020年のうちに最新の研究成果を盛り込んだ「第2次気候変動影響評価報告書」が公開される予定です。

また、地域の影響や適応に関する情報の収集、整理、分析等を行う拠点である地域気候変動適応センターが設立されている自治体もあります。国立環境研究所は、地域気候変動適応センターやその他関連機関とも協力しながら、今後も予測結果に関する最新の知見をA-PLATに追加し、よりわかりやすく情報を発信していく予定です。

さらにくわしく知りたい人のために

1)平成27年3月中央環境審議会地球環境部会気候変動影響評価等小委員会「日本における気候変動による影響に関する評価報告書」

2)気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)

3)A-PLAT 気候変動の観測・予測データ WebGIS

4)気候予測・影響予測の概要

5)気象庁「日本の各地域における気候の変化」

6)農林水産省「平成30年度気候変動への影響への適応に向けた将来展望」

7)国土交通省「ハザードマップポータルサイト」

8)影響評価の際に利用される地域の気候予測は、全球規模の気候予測を空間的にダウンスケール(以下、DS)することで作成されます。このDSに不確実性が含まれるため、作成された地域の気候予測の精度にも限界があることにご留意ください。DSについては「Q5気候予測情報のバイアス補正とは何ですか?」を参照ください。

公開日:2021年2月10日 最終更新日:2022年10月26日

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