ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編
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持続可能な開発目標(SDGs)達成できれば「適応」十分できていると言えますか?

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回答者:真砂佳史
真砂佳史
気候変動適応センター 気候変動適応戦略研究室
(現 気候変動適応センター 気候変動適応戦略研究室長)
真砂佳史

SDGsは、現在の世代や将来の世代が持続可能な形で発展を続けていくために、2030年までに達成すべき目標を示したものです。気候変動による影響に緩和・適応の両面で対応することもSDGsの目標13に掲げられています。しかし、気候変動による影響は2030年以降も続きますし、今後新たに発生する影響への適応も必要です。気候変動への適応はSDGsの期間内に完了するものではなく、より長期的な視野で進めていくべきものであることから、SDGsを達成しても適応が十分できているとはいえません

1. SDGs(持続可能な開発目標)とは

2015年9月25-27日に、ニューヨークの国連本部で国連持続可能な開発サミットが開催されました。そこでは、2015年から2030年までに世界が目指す方針として「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(原文:“Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development”、以下「2030アジェンダ」)」が採択されました。SDGsは、この2030アジェンダの中に示された、持続可能な発展を達成するための目標です。SDGsのD、“development”の和訳としてよく「開発」が使われますが、ここではもっと広い意味での人類の「発展」を意味しています。すなわち、SDGsとは、我々の世代だけではなく将来の世代の人間が持続可能な形で発展を遂げられるようにするために、2030年までに達成すべき目標を示したものといえます。その内容についての説明は他の資料にゆずりますが、現在問題となっている貧困、不平等、性差別、健康、自然資源、生態系などの課題の解決に向けた道しるべを示しています。

2. SDGsと気候変動

気候変動への対策はSDGsの重要な項目の一つです。 2030アジェンダには「地球が現在及び将来の世代の需要を支えることができるように、持続可能な消費及び生産、天然資源の持続可能な管理並びに気候変動に関する緊急の行動をとることを含めて、地球を破壊から守ることを決意する。」と記載されています。これを受けてSDGsの目標13に「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」とあり、その中に5つのターゲット(表1)が設定されています。

SDGs目標13:気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる

一方、目標13には「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う基本的な国際的、政府間対話の場であると認識している。」という注釈がついています。すなわち、SDGsで気候変動への対策についての目標やターゲットを定めるものの、その達成に向けての議論は気候変動枠組条約の下で行うことになっています。SDGs採択から3か月後の2015年12月に採択されたパリ協定では、この5つのターゲットをより具体的にした目標が記載されています。このような注釈は目標13以外にはついておらず、それだけUNFCCCでの気候変動についての議論が重視されていると言えます。また、SDGsの達成だけでは気候変動の対策は不十分であることを反映しているのかもしれません。

3. 誰一人取り残さない(No one left behind)

SDGsの大きな特徴として、「誰一人取り残さない(No one left behind)」という方針がよく取りあげられます。これは、SDGsの前に設定されていたミレニアム開発目標(Millennium Development Goals、以下「MDGs」)への反省が込められています。MDGsは主に発展途上国への開発支援を行う上で達成すべき目標であり、「飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる」「安全な飲料水と衛生施設を利用できない人口の割合を半減させる」など、具体的な数値目標を持つターゲットがたくさんありました。これは個別施策の実施や進捗管理の上で便利でしたが、一方対策を取りやすい地域に施策が集中し、対応が難しい農村地域や後発開発途上国への援助が後回しになったという批判を受けました。SDGsは、「すべての人間が尊厳と平等の下に、そして健康な環境の下に、その持てる潜在能力を発揮することができることを確保する」ことを目指しており、個々の目標やターゲットに “for all(すべての人に)” という用語がたくさん使われています。上記のMDGsの2つのターゲットはSDGsにも引き継がれていますが、その対象は “for all” となっています。
気候変動に関する目標13にもこの方針が明確に表れています。例えばターゲット13.1では「すべての国々において」災害に対する強靭性や適応能力の強化を図ることとされています。またターゲット13.bでは、気候変動による影響を最も受けるとされる後発開発途上国や小島嶼開発途上国での対策を重点的に進めるとしているのに加え、立場の弱い女性や子供、地方や社会的に疎外されたコミュニティに焦点を当てることが記されています。

4. SDGsと気候変動適応

さまざまな研究や国連の報告書などに示されているように、気候変動は地球や我々の生活の幅広い分野に影響を及ぼします。SDGsの目標13で「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」ことがうたわれていますが、それ以外にも食糧生産(目標 2)、水資源(目標 6)、エネルギー(目標 7)、生態系(目標 14、15)などの目標を達成するには、気候変動による影響を考慮し、それに適応することが必要です。すなわち、気候変動に適応した社会を構築することは、SDGsを達成することに含まれるといえます。

では、SDGsを達成することで、気候変動に適応した社会の完成となるでしょうか?気候変動による影響を回避、軽減させることはSDGsの目標やターゲットに含まれているので、答えは「Yes」であるように読めます。しかし、SDGsは2030年までに達成すべき目標を示したもので、その内容はSDGsが採択された2015年の時点で認識されていた課題に限られます。一方、気候変動による影響は2030年以降も続きますし、今世紀後半になって新たな問題が生じることも十分考えられます。また、今後の適応に関する技術開発や社会の変革など、より長期的な視野で考えるべき課題はSDGsには含まれていません。SDGsのあと(2030年以降)の国連の開発目標にもおそらく気候変動に関連した課題やその解決に向けた目標が設定されるでしょうし、国連気候変動枠組条約の下の議論も当然継続されます。したがって、気候変動への適応は、SDGsを超えた時間スケールで議論すべき課題であり、SDGsを達成するだけでは解決できないことになります。この意味では答えは「No」となります。

注:2030アジェンダやSDGsについて、カギカッコ内で示した日本語訳は、外務省による仮訳(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf)から引用しています。
参考 さらにくわしく知りたい人のために
公開日:2020年7月31日 最終更新日:2024年8月9日

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