気候予測・影響予測の概要
ここでは下記の観測及び研究成果に基づくデータを示しています。
- 気象官署による観測
- 「環境省環境研究総合推進費S-8温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究(2010~2014)」における影響評価の研究成果(S8データ)
- 気象庁「地球温暖化予測情報 第9巻」における気候変化予測結果(気象庁第9巻データ)
気候
日本付近の気候変化予測については、「21世紀末における日本の気候」(環境省・気象庁, 2015)や「地球温暖化予測情報第9巻」(気象庁, 2017)などもあります。詳細は、気象庁の地球温暖化情報ポータル(これからの気候変化)をご覧ください。
観測データ
- 気候変動による影響を知るためにまず、過去から現在の気候がどのように変化しているかを知ることが重要です。
- 本サイトでは、都道府県別の気候(観測値)は、気象庁の気温と降水量のデータ(正常値と準正常値)をもとに、観測開始年から2015年までの年平均気温と年降水量をグラフで表しています。統計期間中の観測地点の移転などの影響を取り除く補正は行っていません。
- 全国の気温と降水量の値は、気象庁が日本の気温の長期変化傾向(年平均気温偏差)を求める際に用いている15地点の年平均気温のデータと、日本の降水量の長期変化傾向(年降水量偏差)を求める際に用いている51地点の年降水量のデータから、平均を算出したものを使っています。
- 出典
- 気象庁 WEBサイト「各種データ・資料」
全国の年平均気温のデータは公表されていないため、気象庁が公表する日本の年平均気温偏差のデータから値を算出したものを使っています。
日本の年平均気温偏差の算出に使用した地点は
- 網走,根室,寿都(すっつ),山形,石巻,伏木(高岡市),飯田,銚子,境,浜田,彦根,宮崎,多度津,名瀬,石垣島
であり、これら15地点の年平均気温の平均を求め、1981~2010の30年間の平均を求めます。この値が基準値となります。
各年の日本の平均気温偏差は「日本の年平均気温偏差 = 15地点の年平均気温の平均(全国の年平均気温) - 基準値」によって計算されます。
よって、ある年における15地点の年平均気温を取得することにより、基準値が求められ、上記の式から全国の年平均気温が求まります。
- 参考
- 気象庁「日本の平均気温の偏差の算出方法」http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/clc_jpn.html
- 気象庁「日本の年平均気温偏差(℃)」http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/list/an_jpn.html
気候予測
- 将来の気候予測は、私たちがこれから温室効果ガスの排出をどれくらい削減できるかという仮定(排出シナリオ)によって大きく変わります。ここでは、IPCC第5次評価報告書で用いられたRCPシナリオ*を用いています。
- 排出シナリオに基づいて、将来の気候をシミュレーションするモデルを気候モデルと呼びます。環境省環境研究総合推進費S-8温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究(2010~2014)では、CMIP5と呼ばれるプロジェクトで開発されたIPCC第5次評価報告書に利用された気候モデルから、それぞれに異なる特徴を持つMIROC5、MRI-CGCM3.0、GFDL CM3、HadGEM2-ESの4つの気候モデルを選択し、その気候予測の結果をまとめています(S8データ)。
- 本サイトでは、1981~2000年を「基準期間」として、「21世紀半ば」(2031年~2050年)と「21世紀末」(2081年~2100年)の気候予測の結果を提供しています。
- 気候予測に関する詳細については、例えば、環境省・気象庁による「21世紀末における日本の気候」にまとめられています。(ただし、本サイトの予測とは異なるものであることにご留意下さい。)
気候モデル | 開発機関 | 特徴 |
---|---|---|
MIROC5 | 東京大学/国立研究開発法人国立環境研究所/国立研究開発法人海洋研究開発機構 | 日本の研究機関が開発した気候モデルであり、当該モデルを利用して日本を含むアジアの気候やモンスーン、梅雨前線等の再現性や将来変化の研究が実施されている。 |
MRI-CGCM3.0 | 気象庁気象研究所 | |
GFDL CM3 | 米国NOAA 地球物理流体力学研究所 | 日本周辺の年平均気温と降水量の変化の傾向を確認し、そのばらつきの幅を捉えられるように選ばれた気候モデル。 |
HadGEM2-ES | 英国気象庁ハドレーセンター |
- また、本サイトに掲載されています気象庁「地球温暖化予測情報 第9巻」は、文部科学省気候変動リスク情報創生プログラムにおいて、気象庁の協力のもと、気象庁気象研究所が開発した全球気候モデル(MRI-AGCM3.2S)及び地域気候モデル(NHRCM05)によって計算された結果に基づく気候予測です(気象庁第9巻データ)。
- 排出シナリオはRCP8.5と2.6となっています。現在気候は1980~1999年、将来気候は2076~2095年(「21世紀末」)の気候予測の結果を提供しています。
- なお、気象庁「地球温暖化予測情報 第9巻」では、4種類の海面水温変化パターンを想定して、気候予測を行っていますがここではこれらの気候予測を平均した結果を示しています。
RCPシナリオは、将来の温室効果ガスが安定化する濃度レベルと、そこに至るまでの経路のうち代表的なものを選び作成されたものです。RCPとはRepresentative Concentration Pathways(代表的濃度経路)の略称です。RCPに続く数値が大きいほど2100年における放射強制力*が大きいことを意味しています。
*放射強制力:地球温暖化を引き起こす効果のこと
2081年から2100年における地球全体の平均気温上昇量(1986~2005年比)の関係は次の通りです。
影響
本サイトでは、分野ごとに評価の対象(指標)を決めて、気候変動がこれらの指標に及ぼす影響の予測結果をまとめています。
「気候」と同様に、「基準期間」(1981~2000年)、「21世紀半ば」(2031年~2050年)、「21世紀末」(2081年~2100年)の3期間の影響予測情報(計算値)を提供しています。
農業(農業・林業・水産業)
○ コメ
日別の気象データから出穂期や成熟期などの発育段階や、乾物生産量の算定をすることにより、コメの収量を予測するモデルを使用して、日平均気温と日日射量等の変化による影響と、適切な作期の移動(田植えの時期をずらすこと)を行った場合の影響を評価しています。評価を行なうに際して、以下の二つの条件を検討しています:
- 収量を重視
- 収量だけでなく品質も重視
対象となる品種はコシヒカリです。なお、評価対象の範囲には、山地など水田耕作が困難な地域も含まれていることにご留意ください。
○ 果樹(ウンシュウミカンとタンカン)※現在WebGISでは提供していません。
果樹は継続して40年ほど栽培されるため、長期間にわたりその果樹の栽培適地であり続ける必要があります。ここでは、日本で最も生産量の多いウンシュウミカンの栽培適地の変化を評価しています。
また、将来気温が上昇すれば亜熱帯性果実の栽培可能地域が広がることが予想されるため、亜熱帯性果樹であるタンカンの栽培適地の変化も評価しています。
水環境・水資源
○ クロロフィルa濃度変化
ダム湖では、クロロフィルaの濃度が年平均値8 μg/L、年最高値が25 μg/Lを超えると富栄養湖に分類され,水質的な問題が発生する可能性が高まります。
ここでは、水道水源となっている全国37のダムを対象に、クロロフィルa濃度を予測するモデルを作成し、気候パラメータの将来値を用いて、クロロフィルaの濃度を評価しています。
自然生態系
○ 森林潜在生育域
ここでは、ブナ、アカガシ、シラビソ、ハイマツの樹木の分布情報と気候条件等から、それぞれの生育に適した条件を予測するモデルを用いて、生育可能な地域「潜在生育域」の変化を評価しています。
樹木は寿命が長いため、気候条件が変わり潜在生育域から外れても、すぐにその樹木がなくなるわけではありません。しかし、生育に適する条件から外れることで、種子の生産や稚樹の生育などに負の影響を与え、衰退が進む可能性があります。
自然災害・沿岸域
○ 斜面崩壊発生確率
斜面崩壊現象の発生確率を予測したものを、斜面崩壊発生確率と呼びます。ここでは、地形、地質と降雨量変化に応じた地下水上昇の条件を、全国における過去の斜面崩壊の実績に基づいて決定し、年最大日降水量の将来値を用いて評価をしています。なお、この発生確率は、何年間に1回発生するといったものではなく、年最大日降水量の変化による斜面崩壊の確率を示すものです。
○ 砂浜消失率
海面上昇の将来予測に基づいて、全国の砂浜の消失率を評価しています。
健康
○ ヒトスジシマカ生息域
ヒトスジシマカは、デング熱などの感染症の媒介蚊で、これが分布する気候条件は、年平均気温が11 ℃以上ということが明らかになっています。ここでは、年平均気温の将来予測から、ヒトスジシマカの生息域を評価しています。
○ 熱中症搬送者数
過去の熱中症搬送者数と搬送された日の日最高気温の間の関係式をもとめ、その関係式にもとづいて将来の熱中症搬送者数を評価しています。
○ 熱ストレス超過死亡者数
人間は気温が高くなると、汗をかいたりして体温を一定に保とうとします。また、長時間高温にさらされると、脱水やけいれん、意識障害などを引き起こすこともあります。このような気温上昇による身体への負荷を熱ストレスと呼びます。高温にさらされた人の状態によっては、脱水などの軽い影響でも死亡する場合があります。それも含めて熱ストレス死亡と呼びます。
ここでは、気温による死亡者数がもっとも少なくなる気温「至適気温」をもとにして、これを超えた気温での死亡者数から至適気温での死亡者数を引いたものを超過死亡としています。熱ストレス超過死亡者数の予測は、至適気温が将来にわたって一定であると仮定し、日最高気温の将来予想値から評価しています。
気候変動による将来の予測には、さまざまな不確実性(①将来の温室効果ガス排出量の不確実性,②気候変動予測の不確実性,③影響評価地球温暖化予測)が含まれることに留意する必要があります。
①に関しては、温暖化対策(緩和策)の達成度合いに大きく左右します。気候予測や影響評価の予測結果を利用するときには、どのRCPを用いたものであるか留意する必要があります。
②に関しては、例えば、気象庁の「地球温暖化予測情報 第8巻」1.4 地球温暖化予測の不確実性をご参照ください。
②に関しては、モデルや手法に不確実性が含まれることや、同じ影響項目を評価する際、異なるモデルを用いている場合には、モデル間の不確実性にも留意が必要です。
本サイトに掲載されている気候予測や影響評価の情報を引用する場合は、その情報が唯一無二の値ではなく、様々な不確実性を含んだものであることをきちんと解説しておくことが重要となります。
(最終更新日:2021年9月29日)