中央府省庁の役割

中央府省庁の果たすべき役割

気候変動適応を推進していく上では、国全体での取組、地域ごとの特徴に応じた取組、そのいずれもが必要です。
特に、国においては、本来果たすべき役割として、全国的な規模もしくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施があり、これを重点的に担うことが求められています。
適応においても、こうした観点から全国的な視点に立って行うべき施策について、各府省庁が連携して取り組んでいます。

関係府省庁による連携の必要性

自然生態系や人間社会は互いに影響を及ぼしあっており、気候変動の影響も分野を越えて連鎖するとされています(例えば、降雨パターンの変化に伴い、生き物の分布が変わり、生態系サービスのあり方が変わって農業生産に影響が現れるなど)。
こうした分野を超えた影響への対応は、一つの府省庁の管轄する範囲だけでは完結しないため、連携して適応策を推進することが求められます。

また、適応策を実施していく上では、コベネフィット(相乗効果)のある施策や、反対にトレードオフ(ある目標を達成するとほかの目標が達成しづらくなる)の関係にある施策もあります。
こうした施策についても府省庁間での情報共有や連携が必要になります。

気候変動適応推進会議の設置・開催

求められる関係府省庁間の連携を推進すべく、国は、環境大臣を議長として関係府省庁により構成する気候変動適応推進会議を設置、開催しています。
この推進会議では、府省庁間の調整を行うとともに、進捗状況を定期的に共有しながら、政府一体となって適応に関する施策を推進しています。

推進会議は概ね1年に2回程度の頻度で開催され、気候変動適応計画の達成状況の確認や、各府省庁の取組の情報共有などが行われています。

各府省庁の取組

環境省

環境省は、「気候変動適応法」「気候変動影響評価報告書」といった気候変動適応の取組の基礎となる法制度等を制定し、日本の気候変動適応に関する取組を総合的に主導しています。

主な活動として、IPCC評価報告書など、気候変動に関する科学的知見や気候変動の影響や適応に関連した国内外の主要文献・資料を紹介するなど、気候変動に関するさまざまな情報発信に取り組んでいます。
また、地方環境事務所を所管し、国と地域との協働関係を構築し、地域の実情に応じた機動的かつきめ細かな環境政策を展開しています。

そのほか、適応に隣接するさまざまな分野の手引きやガイドラインも策定しています。例えば、近年では、自然災害の激甚化等をふまえ、生態系が持つ多面的機能の防災・減災への活用の実装を支援するため、「持続可能な地域づくりのための生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)の手引き」を作成し、また、生物多様性保全、グリーンインフラ活用などにも取り組んでいます。

持続可能な地域づくりのための生態系を活用した防災・減災の手引きが対象とする(Eco-DRR)
持続可能な地域づくりのための生態系を活用した防災・減災の手引きが対象とする(Eco-DRR)
(出典:環境省「持続可能な地域づくりのための生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)の手引き」)

内閣府

内閣府は、気候変動対応を含む持続可能な開発目標(SDGs)に係る施策の実施について、関係行政機関の連携のため、すべての大臣で構成する持続可能な開発目標推進本部を設置しています。

また、内閣府は世論調査の企画・実施を所管していますが、その中で地球温暖化等への国民意識に関する世論調査も実施されており、2021年に実施された「気候変動に関する世論調査」では、初めて「気候変動適応」も設問テーマに加わりました。

気候変動適応の認知度
気候変動適応の認知度
(出典:内閣府「気候変動適応に関する世論調査(令和5年7月調査)」)

金融庁

気候変動を金融機関の健全性や金融システムの安定性に影響するリスクとして捉え、金融機関におけるリスク管理や、金融監督に取り入れる動きが、国際的に進展しています。
こうした動きの中で、金融庁は、「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」を策定しました。金融機関において、気候変動が顧客企業や自らの経営にもたらす機会及びリスクを捉え、戦略的に対応を進めていくことが必要として、普及啓発に取り組んでいます。

これに関連して、金融庁は「気候変動関連リスクに係るシナリオ分析に関する調査」報告書を公表し、金融機関におけるシナリオ分析への理解向上を図っています。
また、金融機関によるサステナブルファイナンス(持続可能な社会を実現するための金融)、ESG投資(環境、社会、ガバナンス(企業統治)に対する企業の取組を重視した投資のこと)の促進や、これに向けた企業による気候関連開示の充実等について推進しています。なお、2023年1月より、企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、有価証券報告書等において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、サステナビリティ情報の開示が求められることとなりました。

気候関連リスクから金融リスクへの波及経路の概観
気候関連リスクから金融リスクへの波及経路の概観
(出典:金融庁「気候変動関連リスクに係るシナリオ分析に関する調査」)

総務省

総務省は、主に自然災害対策の行政評価などに関する政策を担っています。
災害時の住まい確保や、災害廃棄物対策、災害時の通信サービス確保、農業分野における災害復旧迅速化などについて、行政評価・監視などに取り組んでいます。

消防庁

消防庁は、熱中症による救急搬送の最新状況や、過去のデータなどの情報発信に取り組んでいます。
また、自主防災組織等の地域防災の人材育成や、地方公共団体における業務継続計画の策定状況調査などを通じて、地域のレジリエンス向上にも取り組んでいます。

外務省

外務省は、気候変動に関する国際的な枠組みや日本の取組について国内外に発信し、サミット、国際会議において、気候変動適応に向けた取組の国際協調について協議するなど、気候変動外交に取り組んでいます。
また、気候変動影響に脆弱な国への適応分野の支援を強化し、適応基金への拠出等を行っています。

文部科学省

文部科学省は、気候変動を中心とした環境問題の解決や産業競争力の強化等を目指し、環境エネルギー分野の基礎・基盤的研究を推進しています。

主な事業として、気象庁と共同で、国内外に提供するデータ統合・解析システムDIAS(Data Integration and Analysis System)を運営しています。これは地球規模/各地域の観測で得られたデータを収集、蓄積、統合、解析しながら、社会経済情報などとの融合を行い、地球規模の環境問題や大規模自然災害等の脅威に対する危機管理に有益な情報へ変換するものです。
また、持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)など、環境教育にも取り組んでいます。

DIAS 気候予測データセット2022
DIAS 気候予測データセット2022
(出典:文部科学省・気象庁「気候予測データセット(DS2022)」)

厚生労働省

厚生労働省は、熱中症関連情報や、気候変動によって流行が懸念される蚊媒介感染症など、健康被害に関する情報の集約・発信に取り組んでいます。
また、「渇水対策マニュアル」について気候変動に伴う渇水被害の激甚化への懸念も踏まえて改訂しています。

農林水産省

農林水産分野は温暖化の影響を受けやすく、気候変動による農林水産物の品質の低下や収量の減少等が懸念されています。
そのため、農林水産省では、気候変動による農林水産分野の被害を減らすため「農林水産省気候変動適応計画」に基づき、農林水産分野の適応策の実施を推進しています。

また、日本の食料・農林水産業が大規模な自然災害や地球温暖化、地域の生産基盤脆弱化等や、生産・消費の変化等の課題に直面していることをふまえ、将来に渡り食料安定供給を図るため生産力向上と持続性両立を実現する「みどりの食料システム戦略」を策定、推進しています。

みどりの食料システム戦略(概要)
みどりの食料システム戦略(概要)
(出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略」)

経済産業省

経済産業省は、活発化する気候変動をめぐる投資・金融の動きをふまえ、ESG投資やTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure:気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報を発信しています。
また、すでに有望な適応ビジネスを実施している企業の取組や、適応に関する技術を有する企業の活動を発信・共有し、民間企業の適応ビジネスの推進に取り組んでいます。

適応ビジネスチャンスが見込める分野
適応ビジネスチャンスが見込める分野
(出典:経済産業省「企業のための温暖化適応ビジネス入門」)

国土交通省

国土交通省は、国土交通省が取り組む環境関連施策を体系的に取りまとめた計画として「国土交通省環境行動計画」を策定しています。
この計画が2021年に全面的に改定され、気候変動緩和策・適応策や生物多様性保全等、環境施策全般の対策強化が盛り込まれ、「国土交通省気候変動適応計画」は、本計画に統合されることになりました。

特に自然災害、水資源・水環境、国民生活・都市生活等の分野や、科学的知見の充実及び活用に関する基盤的施策について、取組を強化する必要があるとしています。
自然災害分野では、自然災害の激甚化・頻発化への対応として、「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」を取りまとめています。また、降雨量の増加などを考慮した治水計画の見直しなどの取組についても実施しています。
水資源・水環境分野では、渇水の深刻化が予測されることから、渇水リスクの評価を踏まえた対応策を強化しています。

また、自然環境が持つ機能を活かしたグリーンインフラによって、持続可能な魅力ある国土・都市・地域づくりを推進すべく、「グリーンインフラ推進戦略」に取り組んでいます。

グリーンインフラの考え方と事例
グリーンインフラの考え方と事例
(出典:国土交通省「【導入編】なぜ、今グリーンインフラなのか」)

気象庁

気象庁は、気候の変化や温室効果ガスの変化など、地球温暖化や気候変化に関する観測及び将来予測を行い、その情報を発信しています。

具体的には、地球温暖化や気候変化に関する情報を掲載した「地球温暖化情報ポータルサイト」や世界及び日本の気候変動を中心に、気候変動に影響を与える温室効果ガス、さらにオゾン層等の状況について、最新の情報を公表する「気候変動監視レポート」や、IPCCのRCP8.5シナリオを用いた「地球温暖化予測情報」などを発信しています。
また、環境省や文部科学省、国土交通省など、特に多様な府省庁との連携に取り組んでいます。