計画策定の経緯

気候変動適応計画は、気候変動適応法第7条に基づき、気候変動適応に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために策定されるものです。その前身となる「気候変動の影響への適応計画」が2015年11月に閣議決定された後、最初の気候変動適応計画が2018年11月に閣議決定されました。その後、2020年に公表された気候変動影響評価報告書で示された最新の科学的知見を踏まえ、関係府省庁間における調整、中央環境審議会地球環境部会気候変動影響評価等小委員会における報告、パブリックコメント等を経て、2021年10月に改定されました。

計画の重要な考え方:適応の主流化

現行計画の基本戦略の一つとしても掲げられていますが、あらゆる関連施策に気候変動適応を組み込む「適応の主流化」という考え方が今日非常に重要になっています。

気候変動適応に関する施策の推進にあたっては、環境省の所管する施策だけでなく、防災、農林水産業、生物多様性の保全など、多岐にわたる施策においてその対応が必要となります。また、適応策は複数の政策目的との相乗効果を生むことも期待されます(例えば、都市部での樹木配置は、蒸散や日射の遮蔽によるヒートアイランド対策に貢献するだけでなく、炭素貯蔵の効果を発揮する、など)。
こうした観点から、日本においても、関係府省庁が連携し、幅広く関係する施策に適応の考え方が組み込まれる必要があります。

地方公共団体においても同様に、地域気候変動適応計画の策定を通じて、関係部局間の横の連携協力を進めていくことが求められます。例えば、担当部局が庁内部局の事業を調べ、既存の施策を適応策として捉え直すことを目的に情報収集を行ったり、農林水産部局の協力を得て、農業・漁業従事者への気候変動影響に関するアンケート・ヒアリングを実施したりといった連携が行われています。

計画の構成

現行の気候変動適応計画は、大きく次の3章で構成されています。

  • 第1章 気候変動適応に関する施策の基本的方向
  • 第2章 気候変動適応に関する分野別施策
  • 第3章 気候変動適応に関する基盤的施策

第1章では目標、計画期間、関係者の基本的役割、基本戦略、気候変動適応計画の進捗の管理・評価といった基本的な方向性を示し、第2章では分野別の施策、第3章では分野横断的に取り組む基盤的施策について書かれています。

また、改定された計画では、気候変動影響評価報告書で示された最新の科学的知見を踏まえ、「重大性」「緊急性」「確信度」に応じた適応策の特徴を考慮した「適応策の基本的考え方」も記載されています。
加えて、施策KPI の設定、国・地方自治体・国民の各レベルで気候変動適応を定着・浸透させるための指標設定等により、PDCA サイクルを回していくことなど、進捗管理の実施方法についても記されています。

施策の基本的方向

目標・計画期間

この計画では、気候変動適応に関する施策を科学的知見に基づき総合的かつ計画的に推進することで、以下の達成を図り、安全・安心で持続可能な社会を構築することを目指しています。

  1. 気候変動影響による被害の防止・軽減
  2. 国民の生活の安定
  3. 社会・経済の健全な発展
  4. 自然環境の保全及び国土の強靱化

なお、本計画の対象期間は概ね5年間とされています。

関係者の基本的役割

気候変動適応の推進に関しては、国だけでなく、地方公共団体、事業者、国民等、多様な関係者がそれぞれ果たすべき役割を担いながら、相互に密接に連携して取り組むことにより、相乗的な効果を発揮することが期待されています。

関係者には各々の役割がありますが、特に国民については、気候変動を自らの問題として認識し、適応に関心・理解を深めることや、国や地方公共団体が行う適応策の実施に協力することなどが期待されています。

基本戦略

本計画では、目標達成に向けて、次の7つの基本戦略が設定されています。

  1. あらゆる関連施策に気候変動適応を組み込む
  2. 科学的知見に基づく気候変動適応を推進する
  3. 我が国の研究機関の英知を集約し、情報基盤を整備する
  4. 地域の実情に応じた気候変動適応を推進する
  5. 国民の理解を深め、事業活動に応じた気候変動適応を促進する
  6. 開発途上国の適応能力の向上に貢献する
  7. 関係行政機関の緊密な連携協力体制を確保する

これらの基本戦略の下、分野別施策など具体的な取組を推進していくこととされています。

分野別施策と基盤的施策

分野別施策

本計画においても、影響評価報告書と同様、次の7分野が施策の対象とされています。

  1. 農業、林業、水産業
  2. 水環境・水資源
  3. 自然生態系
  4. 自然災害・沿岸域
  5. 健康
  6. 産業・経済活動
  7. 国民生活・都市生活

これら7分野について、影響評価報告書において重大性・緊急性が高いと評価された各項目を中心に、①影響(現在、将来予測)、②適応策の基本的な考え方、③基本的な施策が整理されています。
具体的な施策の内容については、次の図表や関連リンク先をご覧ください。

国立環境研究所「気候変動の影響と適応の施策(例)」
国立環境研究所「気候変動の影響と適応の施策(例)」

基盤的施策

適応を推進していくためには、分野横断的な取組が必要不可欠です。
そのため、いずれの分野とも関わりがある基本的な施策については、基盤的施策として次の5つの施策を中心に記述されています。

  1. 気候変動等に関する科学的知見の充実及びその活用
  2. 気候変動等に関する情報の収集・整理、分析及び提供を行う体制の確保
  3. 地方公共団体の気候変動適応に関する施策の促進
  4. 事業者等の気候変動適応及び気候変動適応に資する事業活動の促進
  5. 気候変動等に関する国際連携の確保及び国際協力の推進

計画のフォローアップ

気候変動適応は短期間で達成しうるものではなく、継続的な計画の推進が必要となっています。
そのため、本計画は、毎年、関係府省庁が実施した施策について、適応法に基づいて設置され、関係府省庁により構成される「気候変動適応推進会議」がフォローアップを行い、フォローアップ報告書を取りまとめることとされています。