地域気候変動適応計画の策定
地方公共団体においては、地域の実情にあった地域気候変動適応計画の策定が進められています。
地域気候変動適応計画は2024年5月現在、都道府県47件、政令市20件、市区町村232件、合計299件が策定されており、すでに全都道府県で策定されるとともに、市区町村単位でも策定の動きが広がっています。
事例:豊田市における地域気候変動適応計画と策定に向けた取組
愛知県豊田市では、2019年にゼロカーボンシティ宣言をし、地域気候変動適応計画を策定することとなりました。
その前段階として、考え方の共有から始めるため、2018年から年に1度、職員向けの適応セミナーやワークショップを3年間にわたって行い、職員の認知度が約40%まで向上するなど浸透を図っています。
また、2019年度に暑熱調査、2020年度に庁内および市内の事業者、関連団体へのヒアリングを実施し、市民の意見を聞くためのワークショップも開催しています。
さらにこうしたヒアリングについて、インパクトチェーンという手法に着目して整理した上で、「気候変動のリスクと機会の輪」という図を作成し、緩和策と適応策の両方を推進するなど、計画策定に向けた先進的な取組が行われています。
A-PLATでは、現在策定されている地域気候変動適応計画の一覧を整理して掲載しています。あなたのお住まいの地域で、どのような計画が立てられているかぜひ見てみましょう。
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地域気候変動適応計画
地域気候変動適応計画とは、都道府県や市区町村等が主体となって、その区域における自然的、経済的、社会的状況に応じた気候変動適応に関する施策を推進するための計画を指します。
地域気候変動適応センター(LCCAC)の設置
地方公共団体においては、地域の実情にあった地域気候変動適応計画を策定するとともに、地域気候変動適応センター(LCCAC:Local Climate Change Adaptation Center)を設置しています。
LCCACは2024年5月現在、都道府県44件、政令市3件、市区町村17件、合計64件が設置されています。
LCCACは地方公共団体(および地方環境研究所)、区域内の大学などの組織が各地域の実情に応じてその機能を担っています。
事例:市町村と都道府県の連携によるLCCAC設置(戸田市・埼玉県)
LCCAC設置に関する特徴的な事例として、埼玉県と県内自治体の連携による地域適応センターの共同設置の取組があります。
埼玉県内の複数市が埼玉県との共同型の地域適応センターを設置しています[1]。
そのうち、埼玉県と戸田市が共同して設置している「戸田市気候変動適応センター」では、埼玉県気候変動適応センターから情報の提供や技術的助言を受けながら、市民や事業者に対し、情報提供を行っています。 また、市独自の取組として、過去の熱中症搬送者数の傾向などを公表し、熱中症への注意を呼びかけるなど、市民に近い市の立場から効果的な普及啓発に取り組んでいます。
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地域気候変動適応センター
地域気候変動適応センターは、地域における気候変動影響及び気候変動適応に関する情報の収集、整理、分析及び提供並びに技術的助言を行う拠点です。
地域独自のデータ・知見の収集・分析
気候変動影響に関するさまざまなデータが国や研究機関によって収集・分析されていますが、これに加えて、地方公共団体では、これまで気候変動影響という観点で認識されていなかったデータや、より地域に密着した独自のデータ収集・分析に取り組んでいます。
また、地域独自で気候変動影響や適応に関する情報を収集し、影響評価を実施している地域もあります。
事例:地域独自のデータの一元的な収集・分析(長野県)
海のない長野県では、地球温暖化の例としてよく挙げられるホッキョクグマやサンゴ礁への影響などの情報は、県民にとってピンとくるものではありませんでした。そうした事情から、まず長野県の関連事例を見つけ出すことが重要であり、そのために地域独自に気象データを収集して分析するといった必要がありました。
こうした背景から、長野県は、信州気候変動適応センターを設置するとともに、信州・気候変動モニタリングネットワークを構築し、気候変動に関わる観測データ等を収集・整理し、それらを活用した情報を発信しています。
長野県内のアメダスは雨の観測地点が45箇所、このうち気温や風などを加えた観測地点が29箇所あります。また、そのうち8箇所では積雪も観測しています。モニタリングネットワークでは、アメダス以外の国や県が観測している気象データ(主に気温、雨、雪の3要素)を収集しており、これらの観測地点数は最大でアメダスの約9倍になっています。これにより、県内の複雑な気候特性を把握するにも十分な観測密度を確保しています。
普及啓発
地方公共団体では、地域住民に対し、気候変動の影響や適応の普及啓発に取り組んでいます。それぞれの地域特性に応じた独自のガイドブックやWebサイトなどのコンテンツを作成している地方公共団体も多くあります。
事例:気候変動適応ハンドブックの公開(北海道)
北海道では、「気候変動の影響への適応」ハンドブックを制作・公開しています。同ハンドブックは、北海道立総合研究機構の研究成果なども活かし、わかりやすく親しみやすいデザインで制作されており、道民に気候変動適応について考えてもらうよう促しています。
また、A-PLATではさまざまな普及啓発の素材となるコンテンツを提供しています。
こうしたコンテンツを活用し、家庭、地域、学校、職場などで、ぜひ気候変動適応について話してみましょう。
事業者の適応支援
地方公共団体では、事業者の気候変動への適応に向けた取組を促進するため、事業者の取組状況調査や、プラットフォームの設置、セミナー等による情報発信、補助金等の直接支援などを行っています。
事例:とちぎ気候変動対策連携フォーラムを核とした事業者支援(栃木県)
栃木県は、企業経営への気候変動影響の理解、適応ビジネス等の促進、2050年カーボンニュートラル実現等を目的に設立としたフォーラムを設立しています。
同フォーラムでは、セミナー等による情報発信に加え、気候変動対策ビジネス等創出支援補助金をはじめとした直接支援も実施しています。
参照元:栃木県 「とちぎ気候変動対策連携フォーラム」
各地域の地方公共団体による支援策はA-PLATに事例として紹介されています。あなたの会社・団体が気候変動適応に取り組む際には役立つかもしれません。ぜひチェックしてみてください。
地方公共団体の適応における課題
ここまで地方公共団体のさまざまな適応に関する取組について見てきました。
一方、こうした取組はまだ端緒についたばかりで、まだまだ課題もあります。こうした課題について、一部紹介します。
行政における予算・人員など体制の未整備
地方公共団体における適応計画の推進・検討上の課題に関するアンケート調査の結果では、「行政内部の経験・専門性の蓄積不足」「行政内部での予算措置の困難・資源不足」を挙げる自治体が多くなっています。
適応の普及浸透
適応の推進における大きな課題として、適応についての考え方が広く浸透していないことが挙げられます。適応には地方公共団体内でも多くの部署が関連することから、適応の考え方について広く庁内で浸透させていくことが求められます。また、実際に適応策を進めていくには、地域住民や事業者の理解が重要であり、より関心を寄せてもらうための工夫が課題となっています。