脚注
(注1)自社調べ。2020年8月時点。
(注2)水流の速度や漂流物などによっては、破損する場合がある。
(注3)注水量が床下の容量を超えると床上浸水する場合がある。
【世界初(注1)】耐水害住宅の開発
株式会社一条工務店
掲載日 | 2021年11月11日 |
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適応分野 | 自然災害・沿岸域 |
会社概要
一条工務店は、「家は、性能。」という信念に基づき、家づくりのノウハウを活かし、お客さまの多様なニーズに応えられるよう事業を展開している。木造の新築戸建住宅事業をベースに、メンテナンス事業、マンション事業、海外事業、メガソーラー事業、住宅ローン事業など、トータルな住宅カンパニーとして、その活躍のフィールドは年々広がっている。
気候変動による影響
住宅において、「耐震性」や 「耐火性」については、古くから法整備がなされ、それに伴って技術・性能も向上してきたが、「耐水害性」の技術開発はほとんど進んでいないのが現状である。しかしながら、気候変動によって引き起こされる豪雨や洪水は、これまでの治水の想定を超え始めており、今や水害は“限られた地域の災害”ではなくなっている。そのため、この気候変動に「適応」し、水害に備える技術の革新は、日本及び同様の危機にさらされている国々にとって急務である。
適応に関する取り組み
当社は、国立研究開発法人防災科学技術研究所と共同で実験を繰り返し行い、世界初となる水害に耐える住まい「耐水害住宅」を開発した。
一般的な住宅には、水害被害に遭う恐れのある箇所が複数存在する。これらを危険ポイントと定めて「浸水」「逆流」「水没」「浮力」の4つに分類し、対策を施した(図1)。
ポイント1:水が入る隙間をなくす、「浸水」対策
普段は床下に外気を取り込む換気口の内側に、フロート式の弁を設置した。水が浸入してくると、弁が浮いてフタをすることで床下への浸水を防止する。水が引いたら弁も下がり、元の状態に戻って再び換気口として機能する仕組みである(図2)。その他にも、壁には透湿性を保ちながら水の浸入を防ぐ防水処理を施し、玄関ドアは壁とドア枠を一体化させて隙間をなくしたほか、中空パッキンの採用により水密性を向上させた。また、窓には高水圧に耐える強化ガラスなども採用している(注2)。
ポイント2:自動で排水管を閉じる、「逆流」対策
床下の排水管に採用した逆流防止弁は、通常時は弁が開いた状態で排水を行う。水害によって水かさが増して汚水が逆流した際には、自動で弁が閉じて汚水が屋内に溢れることを防ぐ。
ポイント3:ライフラインを確保する、「水没」対策
電気給湯器の電気動力部品や基板は、本体の上部に配置。本体の一部が水没しても稼働し、タンク内の水を生活用水として使用できるよう、専門メーカーと共同開発した。また、エアコン室外機、太陽光発電システムのパワーコンディショナーや蓄電池なども、専用の架台でそれぞれ水没しにくい高さに設置した。
ポイント4:流されないための、画期的な「浮力」対策
居住する地域や顧客の希望に応じられるよう、2つの浮力対策のタイプを開発した。1つめは、水を重りにして建物を浮力から守る「スタンダードタイプ」である。建物が浮上する水位に達する前に床下から水を引き込み、その重量によって浮力に対抗する(注3)。もう1つは、家自体を浮かせて守る「浮上タイプ」である。船を港に係留するように、家を敷地内の四隅に設置したポールとつないでいる。家が完全に水没するような水害に見舞われても、あえて家を安全に浮上させ、水没や流出から守り、被害を最小限に抑えられる仕様である。
効果/期待される効果等
2020年10月、防災科学技術研究所にある大型降雨実験施設において、当社の「耐水害住宅(浮上タイプ)」と一般的な仕様の住宅を実験施設内に建築し、約3,000トンの水を使って豪雨・洪水被害を再現する実大実験が行われた(図3)。一般的な住宅は、床下換気口や玄関ドア、窓の隙間から次々と浸水していったが、「耐水害住宅」では、床下、室内ともに被害を受けなかった(図4)。
「耐水害住宅」の普及を推進することによって、災害復旧活動の円滑化、避難所から自宅避難への早期移行の実現と共に、気候変動リスクによって年間平均30,000棟の住宅が被災することで発生する1,600億円/年を上回る家屋被害額の抑制と、5万トン/年の水害廃棄物の削減を目指している。
「耐水害住宅」の開発・製品化は、ジャパン・レジリエンス・アワード2021 準グランプリ金賞(企業・産業部門)受賞、環境省主催「気候変動アクション環境大臣表彰」(開発・製品化部門/適応分野)の初代受賞者に選定されるなど、公的にも高い評価を得ている。