水災発生時のリスクを定量的に把握

株式会社三井住友フィナンシャルグループ

業種: 金融業、保険業
掲載日 2021年12月22日
適応分野 産業・経済活動

会社概要

株式会社三井住友フィナンシャルグループロゴ

三井住友フィナンシャルグループは、銀行、リース、証券、クレジットカード、コンシューマーファイナンス等、幅広い事業を展開する「複合金融グループ」であるSMBCグループの持株会社であり、お客さまのセグメントごとにグループ横断的な事業戦略を立案・実行する4つの事業部門を設置するとともに、本社部門ではCxO制(注1)により、グループ全体の企画・管理関連の統括者を明確化し、経営資源の共有化・全体最適な資源投入を実現している。

気候変動による影響

近年、わが国において気候変動に起因する洪水、風水害といった自然災害が頻発していることから、三井住友フィナンシャルグループのお客さまのビジネスに影響が及ぶリスクが危惧される。また、脱炭素社会へと移行する過程で、影響を受ける資産の価値が将来的に下落するリスク(座礁資産化)も危惧される。

取り組み

SMBCグループは2017年にTCFDへの賛同を表明し、2019年にはグローバル金融機関として世界で初めて気候変動シナリオ分析による物理的リスクの想定リスク量を開示した。また、2020年には移行リスクに関する分析結果等を含めた、TCFDレポートを発行した。

2021年度は物理的リスクにおいて分析対象地域を国内からグローバルへ拡大するとともに、移行リスクにおいては2050年カーボンニュートラル実現を想定し、産業革命以来2100年時点での気温上昇を1.5℃未満とするシナリオ(1.5℃シナリオ)についての分析を行った(図1)。以下にその内容と分析結果を記載する。

内容 結果
物理的リスク 三井住友銀行の取引先である事業法人を対象に、日本国内及び海外における想定浸水深を算出(注2)し、気候変動シナリオ(図1)ごとに洪水が発生する確率(注3)を考慮の上、担保への影響及び顧客の財務状況への影響を踏まえ、2050年までに水災発生に伴い想定される与信関係費用を算出(図2)。 想定される与信関係費用は2050年までに累計550~650億円(国内300~400億円)程度となり、単年度平均値でみると20億円程度の追加的な与信関係費用の発生となる。気候変動に起因する水災が現在の三井住友銀行の単年度財務に与える影響は限定的。
移行リスク GHG 排出量抑制に応じた原油や天然ガスといった炭素価格や資源価格および需要の変化などが、エネルギー・電力の各セクターの業績に与える影響をシナリオ(図1)ごとに分析し、信用リスク影響を推定するストレステストモデルに反映させ、2050 年までに想定される与信関係費用を試算(図3)。 NGFS/Current Policiesシナリオ(注4)と比べ、1.5℃シナリオでは2050年までの単年度で20~240億円程度の与信関係費用の増加が見込まれる。なお、各シナリオで予想されている2050年の炭素価格の差が予測値に幅をもたらす一因となっている。

効果/期待される効果等

シナリオ分析により将来的に想定されるリスクを定量的に評価し、対策を経営レベルで議論することにより気候変動リスクの管理を強化しており、今後は分析対象セクターの拡大および分析手法の高度化に取り組んでいくとともに、シナリオ分析の手法や結果を各種ステークホルダーとのエンゲージメントへ活用しながら、お客さまのスムーズな脱炭素社会への移行を支援していく。

図1:シナリオ分析の概要

図1 シナリオ分析の概要

図2:物理的リスクの分析プロセス

図2 物理的リスクの分析プロセス

図3:移行リスクの分析プロセス

図3 移行リスクの分析プロセス

脚注
(注1)グループ経営管理を一段と強化することを企図した制度であり、グループCEOである(株)三井住友フィナンシャルグループ社長をはじめ、10種類のグループCxOを選任している。
(コーポレート・ガバナンス - 経営執行体制:https://www.smfg.co.jp/company/organization/governance/
(注2)国内においては国土交通省が開示しているハザードマップにより、海外においてはJupiter Intelligence社のAI分析により事業法人ごとの想定浸水深を算出。なお、Jupiter Intelligence社は、通信衛星データを含む多様なデータを収集し、AI分析により自然災害発生を予測できる気候変動リスク分析を行う米国ベンチャー企業。
(注3)以下論文に基づくデータを使用
“Hirabayashi Y, Mahendran R, Koirala S, Konoshima L, Yamazaki D, Watanabe S, Kim H and Kanae S (2013) Global flood risk under climate change. Nat Clim Chang., 3(9), 816-821. doi:10.1038/nclimate1911.
(注4)各国政府が現在実施している気候変動政策は継続されるものの、対策の強化は行わないことを想定したシナリオ。
(三井住友フィナンシャルグループ TCFDレポート2021:https://www.smfg.co.jp/sustainability/materiality/environment/climate/pdf/tcfd_report_j_2021.pdf

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